閑話 サーシャ・フォールの幸福
政略結婚でも良かった。
サーシャ・フォールにとっては、誰かと繋がることが大切だったからだ。そんな彼女の夫であるカリス・フォールは昔からどこか他人を避けているように見えた。
いや……正確には、サーシャのみを避けているようだろうか?婚約者の頃からカリスはサーシャのことをどこか苦手にしているようだった。別に何をしたわけでもないが、それでも、いつも怒っている両親や、家柄のみの関係の友人よりもサーシャはカリスのことが好きだった。
報われることはないことはわかっていた。カリスがサーシャのことをしっかりと見てくれることはないと。それでも、少しでも彼の隣にいられるように公爵夫人として頑張った。
娘が出来てもその不安が消えることはなく――結果として彼女は、彼女が嫌う両親と同じように娘のことを見なくなっていた。
事態が好転したのは娘を生んでから4年経ってからだった。
カリスが連日の忙しさから倒れて、頭を打ったのだ。
彼女は心底心配で、迷惑だとわかっていても彼の側にいたくて、寝ているカリスの側で彼を見守ることにした。
目覚めた彼は何やら付き物が落ちたような――いや、むしろ、人格が変わったように、サーシャに笑みを浮かべて言葉をかけてくれたのだ。
もちろん最初は戸惑った……頭を打った影響でおかしくなったのかと。しかし……
「サーシャ……」
そう優しくこちらを見つめてくる瞳にサーシャは簡単に落ちた。
そうして、カリスはサーシャをこれから愛すると言ってくれた。今さらそんなことを言われるとは思わず、困惑はした。でも、それでも……そう言ってもらえたことが何よりも嬉しかった。
カリスに何が起こったのか……よくはわからない。でも、もし、人格が変わっていたりしても、こうして自分を愛してくれるならそれでいいと思った。
他人からなんと言われようと――この人に初めて愛していると言われたことには変わりないからだ。
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