白いアイデンティティ

@cyprus-shadow-brain

読み切り 白いアイデンティティ

 「あなたのアイデンティティを教えてください」と聞かれたことはないだろうか。多くの人はそれが一体何を指すのかわからない上に思い当たる節もないだろう。私もない。今アイデンティティについて述べようとしているが、自分のこともわかっていないことを先に謝罪しておこう。

 さて、驚くほどに曖昧なアイデンティティと言う言葉だが、一言で言えば『らしさ』だ。つまり物が有している特徴。では一体それは誰が考えているのだろうか。あなたや私であり、他の誰かかもしれない。『多数』の人間が『何か』について共通の特徴を認識し、共有したとき『何か』は初めて『~な何か』になる。その~がアイデンティティとして会話に登場することで『多数』が属する社会やコミュニティの中で『存在』が確定する。その群に属さない、あるいは他と異なる感性を持った『少数』にとって『何か』の『存在』は他の場所にある。つまり、アイデンティティは唯一ではないのだ。

 しかし、自らのプロフィールにできるほどのアイデンティティに成長させるためには『~』から『存在』になる必要がある。『少数』にとって厳しいところがあるのは当然だ。

 では、アイデンティティは本当に必要なのだろうか。明確な『存在』を持つということは『何か』が長い間変わらない状態にあるということだ。成長も変化もなく、無意識の内に心地いい『存在』に固執している。むしろ冒険を続け『Always go to the next』をモットーに一匹狼、いわゆる『独りぼっち』を貫き通す『何か』のほうが豊かな人生を送れるのではないだろうか。

 群に属して、ぬくぬくと他人をバカにして生きたとしてもそれなりに幸福な『存在』の称号が得られるだろう。それも魅力的で悪くない。ただ、アイデンティティはいつでも白紙に戻ることができることを忘れてはいけない。全ての色を塗り重ねて分厚い『黒』に染まったとしても、群からハブにあえば、めくられて『白紙』へ戻る。それは実にインスタント食品様も驚くほどのスピードだ。

 そして、不思議なことに裏返しにされた『黒』は気づくと『白』へと還っている。

 自分でめくることのできる『何か』にとって『存在』が確定されることは迷惑極まりない。アイデンティティを求めるさ迷い人は別だが。

 アイデンティティとは白である。

 反射率が100%に近いほうが白くみえる。しかし、100%の反射率は存在しない。0.01%であれ、空きがある。そこに入り込むのがアイデンティティだ。『何か』にとっての『~』である。いきすぎた『存在』は既に白ではない。例えば赤や緑。これは結局私が有している知識から持ち出した例えだ。そこに真の『らしさ』はない。あなたが信じ続けた自分の『存在』は例えに過ぎない可能性さえある。

 何もそこまで卑下する必要はないのだが。

 長くなってしまったのでまとめよう。アイデンティティを求めすぎて『らしさ』が『存在』になるとそこに固執しがちになる。しかし、変化を恐れずに古いアイデンティティを捨て、更新し続けるあなたならば、白いアイデンティティを失うことなく、人間として進化できるだろう。そして、きっと新しい幸せを見つけることができるはずだ。

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