祭り前。
あの日の帰り道は、忘れられない。
時の経った今だから、余計に鮮明に思い出すんだ。
19時に、河原神社の前に集合。
そう繰り返しながら俺はたんすの洋服を全て引っ張り出して、どの服がかっこいいか悩んでいた。
「18時にヨッシーと待ち合わせだから早くしないと。」
と、時計を見ると、長針は11を短針は6の手前まで来ていた。
「やばい!」
結局、納得のいく服の組み合わせはみつからないまま、俺は家を出た。
神社には、鳥居の近くに1本だけ電柱がある。
その下に松本さんはいた。
青い浴衣に、黄色の帯。初めて見た制服以外の松本さんの私服に俺はドキドキしてしまった。
「ごめん。待たせた!」「ごめんねー」
と俺達が言うと、
「全然待ってないから大丈夫だよー。」
と、松本さんが言うと、
「そうだよー」
と、聞き覚えの無い声が松本さんの後ろからした。
「吉野さんって言って、私と同じ部活で仲良しなの。」
と、ヨシノさんへ手を向けて、松本さんが言った。
「吉岡です。よろしく。」
とヨッシーが言い、俺も慌てて、
「井上です。」と言った。
「じゃ、行こっか!」と、松本さんが元気よく言った。
祭りの会場は神社から歩いて10分の広場にある。それまでの道のりで、ヨッシーとヨシノさんは意気投合したらしく、ずっと話している。俺は、松本さんの横を歩いているが、緊張のあまり、一言を発せないでいた。
「あのさ。」
突然松本さんがボソリと小さい声で言った。
そして続けて、
「実は今日、吉野さんから頼まれたんだよ
ね。」と言った。
「...どういうこと?」
意味が分からず、間の抜けた声で聞き返してしまった。
「吉野さん、ヨシオカくんのことが好きなんだって。」
「えーー!!!」
「シーっ!静かに!」
と、言われ、慌ててヨッシー達の方を見ると、こっちのことを気にせず、話していた。そして松本さんは
「だからさ、今日はそのつもりで居てね!」
と言った。
「分かったよ。」
と、言ったは言いものの。
...そのつもりってなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます