第17話
どうしてこうなった、と羽黒は呆然としていた。
芽内は止める間も無く、二階の窓からさっさと飛び降りた。金沢をからかっていただけなのに。芽内が黙っていられないだろう、ここまでは予想通りだった。だが、まさか本当に飛び降りるとは。
慌てて下を見たら、花壇の上に両手両足を広げて目を閉じ、仰向けに倒れている芽内がいる。何の花だろうか。たくさんの花の上にいる芽内はゾッとするほど綺麗だ。昔見たディズニー映画であったな。
あぁ、あれは白雪姫か。花の上で昏睡していて、王子様のキスで目覚める、そうだ。その場面にそっくりなんだ、などと思考が空転する羽黒の背後でザワザワとクラスメートが騒ぎ出した。
「やばくない?」
「えっ!さすがに死なせるのは…」
「てか、来年受験なのに内申どうなるの?」
「私たちはでも関係ないじゃん。見てただけだし…」
「こういう場合って、警察よばれるの?」
「え?わかんないよ。てか、誰か先生呼んできた方がよくない?」
クラスが騒がしいことに気づいた人がいたのか、誰かが先生を呼びに行ったのか。
担任の増田が教室に入ってくる。
「なんだ、みんな部活はどうした?」と興味なさそうに言うと、さすがの増田も教室の異様な雰囲気に気づいたのだろう。
「どうした?」と言うが、誰も口を開かない。そのかわりに、芽内が飛び降りた窓までの道を開け通れるよう誘導する。
窓まで来て、窓の下を穴の開くように覗き込んでいる羽黒に釣られ増田も下を見る。
さぁっと血の気が引き、険しい顔になる。いつもとは違う厳しい声で
「救急車を呼ぶぞ!来るまで保健室の先生に診てもらう。誰か行け!」
そう鋭く怒鳴ると同時に、羽黒に
「羽黒!お前は、何をやったのか説明しろ!」
と言う。
増田の聞いたことのない恐い声色に、羽黒もビクッとする。
するとそこへ、金沢が出てきて
「先生、俺が説明します」と弱々しい声で言った。
「俺、死にたいって言っていたんです。そしたら、それを知った羽黒くんが俺に飛び降りるよう、いや違うな。飛び降りるフリをするよう言ったんです。それがだんだんエスカレートしていって、したら芽内が代わりに私が飛び降りるって言って…」
「…それで本当に飛び降りたのか。とりあえずの事情はわかった。羽黒、今回ばかりは見て見ぬ振りはできないからな」
そう言うと、救急車が来てバトンタッチしたのだろう。保健室の先生と何やら芽内について話しながら、教室を出て行った。
こんなつもりじゃなかったのに。
クラスメートの腫れ物を見るような視線、軽蔑の視線、好奇の視線に耐えられず、羽黒は教室を出て行った。
そして二度と学校に戻ってくることはなかった。
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