第16話

放課後。

部活動があるはずのクラスメートもだらだらと教室に残っていた。理由は明白だ。羽黒たちの圧力があったからだ。

羽黒の言うことを聞かず部活に向かうことも可能なのに誰もそれをしない。そう、皆わかっているのだ。下手に羽黒を刺激して、自分が次のターゲットになるならこのままの状況でいてくれた方が助かるということを。


欠けることなく残っているクラスメートを見て、羽黒が満足そうに笑う。

「じゃあ、始めるか。金沢、来いよ!」

羽黒に呼ばれて、のろのろと動く。

「お前、死にたいんだろ。でもさ、俺は思うんだ。死ぬ気になれば、何でもできるって。だからさ、窓から飛び降りる振りしてみろよ。そうすれば、自分の命を大切にしようって気になるだろう?」

そう言うと、金沢の頭をガシッと掴む。

金沢はというと、抵抗する気力もなく言われるがまま、されるがまま身を任せていた。

だが、頭を掴まれてそのまま二階の窓の下を見せられ初めて足元から恐怖が来た。

高い。この高さから落ちたら、無事では済まないだろう。下には、コンクリートで作られた花壇があり、打ちどころ次第では間違いなく死ぬ。

そう考えると、頭を掴まれた手を無意識に押し返していた。

その様子を見て羽黒がますます力を入れてくる。

「おらおら、どうした?死ぬんじゃないのかよ。今更、命が惜しくなったのか」

その声には嬉しさが混ざっている。

「…やめてくれ」息も絶え絶えに言う。

「何?聞こえねぇよ」

「やめてくれ!死にたくない」

「はは!男が一回言ったこと変えるのかよ。最後までやり通せよ、おら…

…あ?」

羽黒の威勢の良い発言は、最後、疑問系に変わり、と同時に金沢を押さえていた手が無くなった。

肩で息をしながら、いったい何が起きたんだと思い振り返ると、羽黒の手を捻り上げている芽内が立っていた。

「…芽内」

金沢が呟くように言うと、芽内はいつもの魅惑的な笑みではなく、何の感情も読めない冷たさすら感じられる顔で金沢を見返した。

「金沢くんの願いは私が確かに聞いたよ」

そう言うと、捻り上げていた羽黒の腕を離し、向かい合う形になる。

そうして口を開いた。

「羽黒くん。金沢くんは飛び降りたくないし、死にたくないみたい」

「そうみたいだな。せっかくクラスメート集めてショーにしたのに、お前のせいでめちゃくちゃだ、芽内」

「そう、ごめんね。じゃあお詫びに私が飛び降りるね」

そう言うと、聞き返す暇などあげず芽内は飛び降りた。

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