第15話

事の成り行きを見守っていた金沢は、自分の名前が羽黒から出された時点でビクッとした、と同時に羽黒の分析に妙に納得していた。

そうか、芽内は自分が虐めのターゲットに率先してなることで自分を守っていてくれていたのか。

本来なら感謝を覚えるのかもしれないが、金沢はもう学校生活に疲弊しきっていた。ただ平穏に毎日を過ごし、受験して高校生になる。それだけを望んでいるのに、どうして羽黒も芽内も俺に構うんだ、という怒りが湧いてきた。

その様子を目ざとく見つけた羽黒の取り巻きが

「何か文句言いたそうだな。おら、ガンつけてないで言えよ」

と挑発してくる。取り巻きその二も

「お前ごときに、発言権があるとでも思ってんのかよ。調子のるんじゃねぇぞ」と言う。

それを見て満足そうな羽黒がまあまあと、とりなす。


「俺はさ、金沢。優しいんだよ。だから、お前の望みを手伝ってやろうと思ってさ」

そう猫撫声で言うのが不気味だ。金沢が押し黙っていると羽黒は話し続ける。

「お前、死にたいんだろ。だからさ、俺らが手伝ってやるよ」

そう言われて金沢は、血の気がざぁっと一気に引くのがわかった。

あれはいつの事だったか。そうだ、芽内が学校に来る前、ぐちゃぐちゃにされた鞄を見て惨めな気持ちでいっぱいだった。放課後の教室でポツリと呟いた独り言を聞いていたのか。何か言い返さなければ!

羽黒たちにもっと酷いことをされる。

その恐怖から、怒鳴るように「言ってない」と言うが羽黒たちに響いた様子はない。そこでわかった。あぁ、こいつらには真実がどうであろうとどうでもいいのだ。ただ人を痛めつけて面白がっているだけ。そのターゲットが、ただ今はたまたま金沢だというだけなのだ。


そう思うと一気に虚脱感に見舞われた。もう何でもいいや、と投げやりな気持ちになってくる。

羽黒が何か言っているのが遠くに聞こえているが、もうどうでも良かった。早く、この絡みついた苦しみから抜け出したい、その思いでいっぱいだった。

辛うじて羽黒が

「…〜だから、放課後、教室に残ってろよ。お前ら全員な」

と教室中に言っているのだけわかった。



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