第14話

金沢にやや遅れて、芽内が教室に入ってきた。羽黒の連日の嫌がらせも全く芽内にはこたえていないのだろう。

ややピンク色な頬にニキビひとつない肌、さらさらと肩で揺れる髪の毛は傷みも枝毛も見当たらない。

教室に入った瞬間、最近の雰囲気と違うことに気づいたのだろう。

誰一人芽内を見ようとせず、静まり返っているクラスメートに少し驚いたように目を開くと、また笑顔に戻る。

芽内が席に座り、教科書やノートをしまっているのを見て、そろそろやるか、と羽黒は立ち上がった。


「芽内はさ、強いよな」

羽黒がクラス中に聞こえるようにそう言うと、クラスメートが息を潜めてこれから始まる劇を見ている。

「俺はさ、感動したんだよ。そもそも俺は金沢を虐めてたはずなんだ。だけど、お前が学校に来てから何だかうまく行かなくなった。金沢よりお前の方がむかつくから、お前を虐めるようになったんだけど、これがそもそも間違ってたんだよな」

「何が言いたいのか、よくわからないなぁ、羽黒くん」

「お前はさ、わざとだろ。わざと金沢から自分自身に虐めの矛先が行くようにしたんじゃないのか、なぁ芽内」


今朝、柳に話をしながらずっと拭えない違和感はあったのだが、それがわからなかった。芽内への虐めがうまくいかない事だけに気を取られていた。

だから、柳がぽつりと言った一言は青天の霹靂だった。

「芽内さんと金沢くんの関係って何なんだろうね。二人がが登下校一緒にするから、放課後とか捕まえにくいよね」

そう言うのを聞いて、確かにと思った。

二人の雰囲気から甘い感じは一切ないから付き合っている、とは考えにくい。だが、二人してべったり行動されると一人だけ引き離して虐めるのは、なかなかやりづらいのも事実だった。

「芽内は、男とは言え金沢なんかをボディーガード替わりにしてるのかよ」

そう小馬鹿にして言うと、柳は

「むしろ逆じゃないかな。私には芽内さんが金沢くんのボディーガードになっているように見える」

「芽内が?あんな華奢な女が男の金沢を守ってるのかよ」

華奢な女のくだりで、羽黒が芽内の容姿への評価が読めたのか、コミュ力の化け物である柳は、面白くなさそうな顔をする。が、気を取り直したのか分析を続ける。

「だって、事実、芽内さんが来てから羽黒たちも金沢くんへの虐め忘れ気味じゃん。金沢くん、死にたいって言ってた時は本当に死んじゃうんじゃないかな、って思うくらい暗い顔してたよ」

「ふーん…」と後半は適当に聞き流していたが、柳の言う事は真実味を帯びていた。

まぁ、どちらにせよ羽黒の思いついた計画に大きく支障は出ない。

芽内の弱点は金沢である事に間違いはないだろう。

柳の分析によれば、芽内に良いようにこの俺が操られていた事になるのだろうが、それすらどうでも良くなるくらい、羽黒は自分の思いついた虐めの計画に夢中だった。

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