第9話
凄惨な虐めが始まった。
羽黒のプライドを芽内は大層傷つけたのだろう。
羽黒とその取り巻きが嬉々として虐めていた。見目麗しい女の子を虐めるのは彼らの加虐心をそそるのだろう。
授業中の発言を笑うことから、移動教室や体育でグループを組まないとならない際は、他のクラスメートに睨みを利かして芽内を孤立へと追い込んでいった。
そして芽内への虐めが過激化するに従い、金沢への虐めは弱まっていった。
弱まっただけで、止むことはなかったが。
当の芽内はというと、授業中笑われようが、クラスメートから無視されようが、制服のスカートを切り刻まれようが全く変わらず過ごしていた。
登下校も相変わらず、金沢と一緒だ。
基本的に金沢は、芽内と話さないのだが一度だけ見るにみかねて聞いてみた事がある。
「辛くない?」
「辛いねー、って言ったら彼氏になってくれる?」
と面白そうに返され、それ以上は会話を続ける気にならなかった。
そう、いつもの金沢なら会話を終わらせるのだが今日は違った。
芽内も鞄に給食の残飯を入れられていたのだ。下校前、その鞄を見て俯いている芽内を見かけてしまい、ほっとけない。
「冗談じゃなくて。羽黒たちの虐めがエスカレートしてるだろ。先生に言うなり、親に言うなり何か手を打たないのか」
「金沢くんは、羽黒くんたちに同じ事をされた時にそうしたの?」
と、にこやかに返され、金沢は思わず言葉を失った。
自分は今、芽内に言ったアドバイスを実行しなかったではないか。
虐められている人に、誰かに相談しろ、というのは簡単だ。
だが、金沢自身、教師を親を頼らなかったではないか。
言ったところで、どうせ状況が変わらないと勝手に失望していたじゃないか。
そう考えつくと、自分が言った芽内へのアドバイスがひどく陳腐なものに思えた。
そう、金沢自身も知っているではないか。
教師も親も自分自身を救うことはできない、ということを。
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