第2話

学校へ始業ぎりぎりに着くなり、じゃあ後でね、と言い残し女の子は金沢を残してスタスタと行ってしまった。


意味がわからない。

一体何なんだ、そして誰なんだと尋ねる間もなく去られ、走ったせいで息もあがっていた。頭も呼吸も混乱していたせいで羽黒たちが教室で金沢をからかうように指をさして笑っていたのも、気にならなかった。


HRが始まるチャイムが鳴る。担任の増田が今日もやる気がない顔をして入ってきた。羽黒たちがチャイムが鳴って話していても注意しないのはいつも通りだが、今日はその増田の後ろに女の子がいた。


朝の彼女だ。


増田が感情のない声でとうとうと話す。

「今日から一人クラスに新しい仲間が増える。といっても、転校生じゃなく今日から学校に復帰することになったんだ、ほら詳しくは自分で説明しなさい」

どうでも良さそうに言うと、増田の隣に立っていた彼女が話だした。


「はじめまして。芽内暁(あきら)です。引っ越してきて、入学そうそう入院しちゃって…そのまま完治しても引きこもってました。けど、親からそろそろ高校受験も近いし学校行けって怒られて来ました。よろしく」

そう、開けっぴろげに話すとニッコリ笑った。



なるほど、クラスにずっとあった空席は不登校だった彼女のものだったのか、と納得する。

名簿の名前を見て、てっきり男だと思っていたが女だったのか。

ここまでは、良い。誰なんだ、という疑問は一つ解決した。

だが、謎は残る。なぜ金沢の元に朝来たのか。

芽内を見る。


どこかで会ったら絶対に忘れない子だ。肩で切りそろえた髪は柔らかそうな茶色で、肌は引きこもっていたからか白い。手足はすらりと長く、つまり抜群に整っているのだ。

一軍の女子や男子たちがざわざわと話しているが、金沢に向けられるものとは違い好意的で、羨望が混じっている。


学校内には、目に見えないが序列が存在する。


華やかなやつ、地味なやつ、面白いやつ、面白くないやつ、運動ができるやつ、できないやつ、身長が高いやつ、小さいやつ、可愛い、可愛くない

格好いい、格好良くない…


挙げればキリがないが、複合的な要素が絡まって他の学生に影響力が強い一軍から二軍、三軍とざっくり分けられている。

その一軍内でも序列が変わったりするもんだから、気を抜けない。


そう、学校生活は気を抜けないのだ。空気を読み、ノリを間違えたら外される。そして、閉鎖的な空間に閉じ込められている思春期の人間たちの暴力性は驚異的だ。

伝染力も強く、一度、虐めのターゲットにされようものならそこからの逆転は不可能に近い。


ただじっと、毎日が過ぎるのを待つしかないと金沢は思っている。


芽内は一軍だろうな、と考える。不登校というマイナス要因を吹っ飛ばすくらい、彼女は魅力的だ。話し方も明るく影がない。


そんな事を考えていたら、芽内と目が合った。ニッコリと笑いかけられ、動揺する。


その様子を窓際にいる羽黒が見ていた。



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