第3話

やっと今日も終わった。


授業中、発言すればクスクス笑われたりしたが、とりあえず今日の苦行は終わったのだ。

帰ろうと教室を出ようとする際に、ちらりと横目で芽内を見る。

華やかな芽内は、下校の時間になっても何くれとなく面倒を見たがっているクラスメートに囲まれていた。

今日来たばかりなのに、金沢なんかよりずっとクラスに馴染んでいる。


今朝の件を聞いてみたかったが、その機会はなさそうだ。

色々疑問は残るが、もう怠くてたまらなかったし、今後関わる人では無さそうだと今日一日ではっきり判ったせいで、どうでも良くなっていた。

ニコッと微笑まれたのも気のせいだったんだろう。


帰ろうと下駄箱に手を入れた途端、

「よお、待てよ」

と聞きたくもない声が背後からした。

振り返らなくてもわかる。

羽黒たちだった。

今日一日絡んでも足りなかったのか、金沢の下駄箱に手を入れるといきなり靴をぶん投げた。

それを見て、取り巻き二人が爆笑している。

投げられた靴を見て、呆然としていると羽黒が

「お前、今日の朝、芽内に笑いかけられてたよな」

HRのあの一瞬を見ていたのか、という驚きと面倒な事が始まりそうな予感にざわざわする。今日は長そうだ。

「知り合いなのかよ?」

と聞いてくる。

「…知り合いじゃない」

金沢にはそうとしか言いようがない。本当に厄介事を増やしてくれて、何て事をしてくれたんだと芽内に軽く怒りが湧きそうだった。


金沢の返事に納得できなかったのか、羽黒がなおも絡んでくる。

「へぇーじゃあ朝何で一緒に登校してきたんだよ」


そんなところも見られていたのか、と絶望的な気持ちになってきた。

何で一緒に登校したか!

その理由は、俺の方が知りたいくらいだ!


何て答えたら、羽黒たちは解放してくれるのかと思案していた時だった。


当の本人が金沢の投げられた靴を持って、颯爽と歩いてきて一同をまた魅惑的な笑顔で見渡すと言った。


「金沢くん、探したよ。一緒に帰る約束したじゃない。彼女の私を置いてかないで」


羽黒たちが唖然として、言葉を失っているのを面白そうに見ると金沢の手を引いて、とっとと帰ったのだった。


後ろから「彼女?彼女!?」と反復する羽黒たちの声が下校口に響いていた。

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