三章 辰の年辰の日辰の刻(2)
内廊下の真ん中に天守閣へ登る
天守閣とは言っても、平屋の屋根の上に
新しいサカキの枝を
「お殿様。遅いですよ。はじまっちゃいますよ」
「おう。すまん、すまん」
お殿様は苦笑いして小さな神官に謝りました。
「あれ。
お殿様の肩の上から、若様が目を丸くしました。
「げげ。なんで若様も来たの?」
眉をひそめて若様をにらんだ少女は、
「何だ、花野子か。宮司殿はどうした」
家老が訊ねました。
「申し訳ありません。御家老様」
花野子ちゃんがお辞儀をすると、ふさふさした御幣が床をはきました。
「じいちゃん、じゃなくて、宮司は今朝、井戸端で
「なんだよ、それ。つかえねえな」
お殿様が豪快に笑うかたわらで、家老が舌打ちしています。
「とにかく刻限です。
お殿様の背からおりた若様は、みんなと一緒に天守閣の
「若様、お天道様をまともに見てはなりませんぞ。目を傷めますゆえな」
家老は扇子をひさしのようにかざして片目をつむっています。
「はい!」
若様も急いでおでこに手のひらをかざしました。日差しを一杯に浴びているうちに、若様の冷えた体がぽかぽかと暖まってきました。
「父上。お天道様はありがたいものですね」
若様はしみじみと言いました。
「ほお。なぜ、そう思う。七法師」
意外そうな顔で、お殿様が訊ねました。
「だって。お天道様はこの世のはじまりから、ずうっと」
みんなが若様の答えに耳を澄まします。
「この世の洗濯物をみんな乾かしてくれるから」
プッと花野子ちゃんが吹き出すと、お殿様と和真先生が大笑いました。家老の肩もかすかに揺れています。
「なんで笑うのさ」
不満げな若様がくちびるをとがらせたところへ、折良く着替えが届きました。
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