第6話 対談

「シュランメルト!」


 パトリツィアが呼びかける。

 獅子の獣人――レグルス少将と名乗るハーゲンの上官――に呼び止められて話をしていたシュランメルトは、少し間をおいてから振り向いた。


「失礼するぞ、レグルス少将。何だ、パトリツィア?」

「ハーゲンがキミを呼んでた。『話がしたい』ってさ」

「行くか。また後でな、レグルス少将」


 シュランメルトはその場を後にすると、急ぎハーゲンの元へと向かった。


     *


「何用だ?」

「少しだけ、お話をさせていただけますか? ベルグリーズ王国の御子みこ様」

「堅苦しくてはむしろ困る。先ほどの話し方で構わん」

「はっ」


 シュランメルトは人払いをかけると、一対一で話し合いを始める。


「何年ぶりの再会だ?」

「2年は過ぎたな……。ところで聞かせてほしい。どういう目的で、俺とネーゼ様を逢わせたのだ?」

「目的、か」


 シュランメルトは呼吸を整え、ハーゲンに話す。


「彼女の様子を見ていたら、昔に心から愛し合った者がいると思ってな。尋ねたら、案の定いた。それで正体を聞いたら、お前だった。だからこそ逢わせた、それだけだ」

「それだけ、だと……」


 ハーゲンは動揺する。

 仮にも結婚した自らの妻と、見ず知らずの男とを逢わせる神経が、理解出来なかったのだ。


「おい……。お前は仮にも、ネーゼ様と結ばれたのではないのか?」

「その通りだ。しかしそれは、世間を納得させるための上っ面の婚姻に過ぎん。いくらおれが語り掛けたとて、彼女の心は揺らぐまいと見た。だからおれは、自ら望んでお前と彼女を逢わせた」

「……」


 今度こそ、開いた口が塞がらなかった。

 度量が大きいを通り越し、人間としての感情が欠落しているのではないか。ハーゲンは、シュランメルトをそう評していた。


 しかしシュランメルトは動じず、話を続ける。


「後は簡単だ。ベルグリーズ王国全土に『恋愛観は自由』という意見を表明し、お前のいるであろう場所に彼女を送り届ける。それで話は終わりだ。とはいえ、『おれの妻が失踪した』などという噂が立たぬよう、月に一度くらいはベルグリーズ王国に来てもらうがな」

「お前は、それほどまでに……。それほどまでに、ネーゼ様を、俺と逢わせたかったのか?」

「当たり前だ。そもそもおれには、既に将来を誓った人がいる。とはいえベルグリーズ王国の“重婚可能”という風習への理解はあったから、将来を破った事にはならんがな」

「……ッ」


 ハーゲンの頬から、涙が静かに落ちる。

 それを見たシュランメルトは、明確に告げた。


「後は彼女の胸で泣け。おれが答えるのはここまでだ」

「……ありがとう。ありがとう!」


 ハーゲンは名も知れぬこの男シュランメルト・バッハシュタインに、多大な恩義を感じていたのであった。

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