第5話 二人の時

「ネーゼ様……。ベルグリーズ王国なる国と、政略結婚されたとお聞きしましたが?」


 守備隊隊長にしてかつてのネーゼの想い人、ハーゲン・クロイツは、恐る恐ると言った様子で尋ねる。

 ネーゼはどう答えたものかと思いながら、問いに返した。


「ええ。ですが、その政略結婚の相手から、『ここに行くぞ』と言われたのです」

「それは……何の、ために?」

「貴方と逢うためです。ハーゲン」


 ネーゼはまっすぐハーゲンの瞳を見据え、続ける。


「貴方と逢うために、そしてかつて失われた恋を取り戻すために、彼は……あの方は、私をここに連れ出してきてくれたのです」

「あの方……それは、先ほど私と言葉を交わした、漆黒の服の?」

「はい」


 ハーゲンは突然明かされた事実に、目を白黒させる。

 突拍子も無い話で、ついていけなかったのだ。


 そんなハーゲンを見つつも、ネーゼは、自らが秘め続けた思いをハーゲンに打ち明ける。




「お願いです、ハーゲン。貴方がまだ私を想っているのでしたら、もう一度私と、やり直してはいただけませんか……?」




「……少し、話をさせてください」

「話、とは?」

「あの方と……。ネーゼ様のお相手と、です」

「かしこまりました。一旦保留とみなしますわね」


 二人の再会は、いまだもやの残る結果となった。


     *


 それを聞いていたパトリツィアは、すぐさまシュランメルトを呼びに行った……。

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