第3話 再会の前段階

「隠そうとしても無駄だ。おれは貴女から、悲しげな様子を感じる」


 シュランメルトはネーゼの目をじっと見つめながら、一気に核心へと迫る。


「今もひしひしと伝わる。瞳の奥からな。想い人がいるのに結婚を強いられた、そのような目だ」

「ッ……ふふ。確かに、見透かされておりますわね」

「何があったか、話してくれ。全て、な」

「はい……」


 ネーゼは自らの過去を話した。

 想い人――ハーゲン・クロイツ――とは、彼がまだ士官学校の学生だった頃に知り合い、事件を経て燃えるような恋をし……しかし、騒動や慣習などの介入によって、強引に引き裂かれたこと。そして彼が神殿の警護を引き受ける事が決定し、もはや二度と逢えぬ立場となったことを。


 それを聞いたシュランメルトは、激怒した。


「大衆は下世話な話を好む。しかし人の口には戸が立てられぬ。だから、おれは問おう。“慣習”とは、いかなるものか?」

「はい。それは、『獣人が皇族となる事は認められぬ』というものです」

「実に腐りきった代物シロモノだ。虫唾むしずが走る。しかし、そのような慣習が存在するという事は、アルマ帝国には過去に獣人の皇帝や皇族はいなかったという事か?」

「いえ。一時期は存在しました。しかし、グリーク家がこの慣習を広めてからは、今に至るまで存在しなくなっております」

「ますますふざけた慣習だ。ところで、獣人はそれほどまでに差別されていたのか?」

「いえ、今はそこまでは……」

「“今は”? 昔はあったのか?」

「はい。やはりグリーク家によるものです。かのいえは、獣人を徹底的に差別しました。『民はいかなるものであっても平等である』という教えにも関わらず」

「教えか。貴女達の神である、アルマ・ガルムの教えだな?」

「その通りです」


 ネーゼが肯定した瞬間、シュランメルトの怒りは頂点に達する。




「どこまでもふざけた真似をしてくれる……! あがめる神の教えに反する行いを、今の今まで浸透させるとは……! その慣習、おれが打ち砕いてみせる!」




 シュランメルトは怒りのたけを叫ぶと、ネーゼには目もくれずに、二人の人物を呼んだ。


「パトリツィア! ノートレイア!」

「はーい!」

「フヒヒッ。ここに」


 返事を聞いたシュランメルトが、命令を下す。

 その様子を見ていたネーゼは、シュランメルトのあまりの剣幕に、そして行動の早さに、茫然としていたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る