水無月 - 弐 (2020)
(短歌)
熟れすぎたいちごはぐつぐつ煮詰められ己のイロは混ざって溶けて
墨色のわたしの名前眺めては綺麗と思うきみの字が好き
改札にスーツ姿が溢れてて言葉と音が綯い交ぜになる
国境を越えてあなたに会いにゆく白銀の世の静かな人に
ガラガラとカランカランが鳴り響く恥ずかしそうな人の背を見る
声を出せよく見ろ振り抜けそら走れ白球を追うこの夢背負(しょ)って
つぶあんのおはぎをひとつ食べきってお暇しますと祖母が笑った
梅雨曇り空は狭くて冷たくてそれでも世界は広くて丸い
移行期間初日に半袖セーラーで「これより夏の始まりとする」
きみのこと救いたいって思うのは ぼくが救われはじめたからだ
「これじゃない」わがまま王子が泣いたのを牡ヒツジは雲の切れ間で見てる
寂しいを上手に言えなくなったのは確か六月末のことです
いつだってそこで笑っていたはずのきみの足りない世界は寒い
一番に夏服を着たあの頃へ 今年は日焼けできなそうです
わたくしは生きたいのだとわたくしに知らせるために献血に行く
甚平の袖から覗く日焼けあと甘い香りとラムネにくらり
トラックが轟轟と鳴くところにも耀く秋が来るのでしょうか
やらなきゃの真綿が細く連なってゆるりゆるりと呼吸を塞ぐ
エアコンの微風がひどく冷たくてサンダル引っ掛け熱帯夜へと
燦々と照りつける陽と青が刺す 上ばかり見ていた僕は今
何もせぬ私を許す日とします カラス鳴くまでおやすみなさい
子をもてぬ呪言を浴びているようで金木犀の香りが嫌い
百合香る季節はとうに過ぎ去った前をゆるりと行く丸い背と
プレゼント包装をお願いします ロフトで呟く 愛はきみ宛
忙しなく行き交う営業車を眺め ブランコに乗る冷えたビル風
アオハルがなかったのだというのなら今夜ふたりで踊りませんか
安売りの惣菜さえも手を出せず浮世に沈む花びらの欠け
(俳句)
狭い本屋のある街できみがきみらしく眠る
夏至過ぎてなお紋白蝶
忙しなく行き交う足元 姫女菀
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