第17話


 部屋に戻り、ベッドに横たわると、途端に体が痛み出した。無理もない、ここ数日休みなしで過酷な日々を送ったのだ。


 しかし、あの諜報部の連中は怪しい。何を隠しているのだろう。


「アロイス様」


 部屋がノックされた。


 もう日が変わりそうな時間だ。


 訝しんで、扉を開くと文を持ったシドが立っていた。城に戻ってきたとき、シドはアロイスの姿を見て涙を流して喜んだ。男に抱きつかれて喜ぶ趣味はないが、疲労で彼を振りほどくことが出来なかった。


「鍛冶屋からこれが届いていました」


 その手紙の差出人を見て、アロイスはニヤリと笑った。


 鍛冶屋には、拷問道具を作るように指示していた。最初に出来たのは、アイゼルネ・ユングフラウだ。出来上がったら、何時でも良いからすぐに連絡してくれと言っておいたのだった。


「いくぞ、少年」


 体の痛みも忘れ、アロイスは足早に部屋をあとにした。鍛冶屋に実物を見に行くと、鍛冶屋はベッドに入ったところだったらしい。それでもすぐに見せろと言うと、彼は渋々作業場にアロイスを案内した。


 アロイスは息をのんだ。


「なんですか……これは」


 シドが震える。


 アイゼルネ・ユングフラウは英語ではアイアンメイデンと呼ばれ、見た目は聖母マリアを象った棺桶である。その棺桶を立たせたまま人を中に入れ、トゲのついた扉を閉める。すると中に入った人間が串刺しになるという寸法だ。


 シドが中をのぞき込んで顔を青くしている。「なんと禍々しい」


 見上げると、そこには確かに聖母がいた。その神々しさに、思わず膝を折りそうになる。


「この聖母は……」


「この国の神様です」


 眠たげに目をこすりながら、鍛冶屋が言う。


 どの世界にも、聖母は存在するのだ。思っていたよりもずっと素晴らしいできに、思わず鍛冶屋に握手を求めた。


「お気に召してくださり光栄です」


「他のものも引き続きよろしく」


 アイゼルネ・ユングフラウの中も、実に良くできていた。これなら、確実に急所を外し、長く苦しめられることだろう。そのうめき声を想像すると、ゾクゾクする。

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