第18話


 先日の部隊全滅、敵地からの敗走。国が国なら軍法会議の後、銃殺刑にされても不思議はなかったが、報告書を書くだけで処罰は何もなかった。軍事会議も、形式的に報告をしているだけで誰一人として次の戦いに生かそうと考えているものはいないようだった。


 くだらない軍事会議の間、スパイをどうあぶり出せば良いのか考えていた。祖国ではどうしていただろうかと思い出す。


 椅子を倒し、深く息を吐いた後、そう考えた自分に驚いた。スパイをどう探すか、だと?――自分らしくない。すでに、容疑者は挙がっているんだ。


 全員拷問すればよい。


 アロイスは声を上げて笑った。こんな生ぬるい世界で少しでも暮らしたせいだろうか。あのヒリつくような、生臭い地下室の日々が遠い昔の夢のように思える。


「何か言いたいことがあるのかね」


 会議を取り仕切っている防衛大臣が、上目遣いにアロイスを睨んだ。濁った白目が見える。今が会議中だと言うことを忘れていた。


 アロイスは「何でも無い」と言うと、再び思考の奥深くへ潜った。


 私の仕事はなんだ? 人を生かすことではなく、潰すことだ――たった一人さえ残しておく必要はないのだ。容疑者はおしなべて黒。私の世界に、グレーなど存在しない――。


 いつの間にか、会議はお開きになっていた。出席者たちは敵国の情報よりも、今日のランチが何かと言うことの方が気になるようだった。


 アロイスは部屋に戻ると枕をひっつかみ、それを引き裂いた。羽が宙を舞う。まるで、聖母の頭上を飛ぶ天使に見えた。

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