第10話
「遅かったですね」
野営地に戻ると、未だ宴が続いていた。いくら快勝したとしても、初日から気が緩みすぎではなかろうか。
「ちょっとね。こちらに来て、初めて空気を吸ったよ」
ハウプトマンは意味がわからない、という顔をしたがそれ以上は追求してこなかった。
翌日、戦場は奇妙な雰囲気だった。敵の姿が見え隠れするが、こちらの姿を確認するやいなや、すぐに敵は逃げ去ってしまう。
「これは、我々の強さに恐れをなしているな」
ハウプトマンが上機嫌で言う。
「我々にお任せください。無血開城させましょう」
ハウプトマンが豪快に笑う。
昨夜の拷問が効いているのだろう。こちらの国には、拷問の文化はないと聞く。あそこまで痛めつけた人間が、命からがら逃げ帰ってきたのだ。おかしくなるのも無理はない。アロイスは頬を緩めた。
翌日はすんなりと、相手の城門前まで進んだ。敵部隊に遭遇しないように、森の中を抜けてきたのが幸いしたのか、物見にはまだ見つかっていない。
さすが大国である。スターテンはランドに比べて堅牢な城壁で守られていた。あれは、戦車がなければ崩すのは難しいだろう。最低でも投石器くらいはほしいところだ。
「ハウプトマン大尉。敵の様子も見られたことだし、そろそろ戻りましょう」
「何を言いますか、アロイス殿。もっと近付いてみないと」
「敵の物見に見つかってしまうのでは?」
城壁周辺は障害物もない。肉眼ですら城壁の上に見張りがいることがわかるのに、森から出て城壁に近付くなど命を捨てる行為だ。
「なあに、夜の闇に紛れればわかりますまい。しばし休息召されよ」
ハウプトマンがいつもの馬鹿笑いをしながら、兜を脱ぐ。
「まあ、見ててくだされ。このハウ……」
ドッ、という音がした。視界がスローモーションになる。ゆっくりと、ハウプトマンの右目から矢尻が生えてきた。
ハウプトマンの笑顔が固まる。同時に、血しぶきがアロイスの顔にかかった。そして、ゆっくりと倒れ込んでくる。ヒュッと声を上げて尻餅をつくと同時に、視界の外から敵兵が現れた。
かくしてアロイス一行は、投降し捕虜となってしまったのであった。
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