第7話

 部屋に戻ると、アロイスは手近にあった木の椅子を投げた。当たり方が悪かったのか、腐りかけていたのか、壁にぶつかった拍子に足が一本折れ、床に落ちた衝撃で背もたれが分離した。


「やってくれるじゃあないか」


 折れた椅子の脚を、ナイフで削る。特に何か作るわけではなかったが、こうやっていると落ち着く。この木の杭で胃袋を破るのも良い。胃を破ってもすぐには死なない。胃液が内臓に広がり、焼けただれる痛みを長く感じながら息絶えてゆくのだ。それはそれは苦しそうで、見ていて楽しい。


 心が落ち着いてくると、深くため息をついた。机に置いてあった手鏡を眺める。髪はうねり、頬はこけ目には隈が浮いていた。眉毛もまつげも少なく、常に死相が浮いていると言われたことがある。それでも、こちらの世界に来る直前よりもずっと健康そうに見える。


 眉毛もまつげも、火を使う拷問をしたときに焼けてしまった。髪の毛も焼けたが少ししたら再び伸びてきた。眉毛とまつげはいまだに伸びてこない。


 アロイスは深呼吸して、心を落ち着けた。手鏡の中に自分に語りかける。


「私は戦争の専門家ではないが、まあいい。原始人どもの戦い方を眺めるのも悪くない」


 今の自分を見たら、かの偉大なる指導者はどう思うだろうか。


「出世したじゃないか。一気呵成に殺し尽くせ」


 自慢のヒゲを撫でながらそんなようなことを言うのだろう。


 この世界には、戦車もなければライフルもない。せいぜいが弓を射る程度で、あとは剣と槍を突き合わせて戦うのが基本マナーのようだ。原始人などと笑っていたが、自身が戦場に駆り出されるとなれば話は別だ。明日が命日になるかもしれない。


 とはいえ、今更剣の練習など何の役にも立たない。自分ができることと言えば――ここでもできる程度の準備をしようじゃないか。


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