第6話

 アロイスの提案で、軍隊には新しい軍服が用意された。職業軍人から、戦いに出る農民まで、戦争に関わるすべてのランド人に軍服が与えられた。そのデザインは、強く気高い意匠で人気を呼んだ。


 軍服を着せただけで、兵士たちの士気は向上した。そして、隊内の規律は勝手に厳しくなっていった。城内はもちろん、城下町で犯罪を犯すものも減った。容赦のない厳罰が与えられるようになったからだ。


 王の間は、無駄に贅をこらした意匠に飾られていた。柱の一本一本が、芸術作品のように彫り込まれ、大きい窓からは天国への階段を思わせるように陽光が滑り込んできていた。


「さあ、偉大なる指導者よ。その実力を見せて貰おう」


 ある日、突然王に呼ばれたアロイスは、出し抜けにそう言われた。


 戦だと――? この私が戦場に出るというのか。


 王が汚い歯をむき出しにして笑った。あの召し物を引き剥がしたら、王か乞食かわからないな、とアロイスは考えていた。そんなことを考えていたからだろうか、王の話を上の空で聞いていたことがわかったのか、王はさらに顔を歪ませて言った。


「指導者殿。戦ですぞ。演説も良いが、敵を殺してこそ勇者としての面目躍如というもの。存分に実力を発揮していただろう」


 このところ、王よりもアロイスを支持する者が増えたからだろう。王は露骨にアロイスを煙たがっていた。


「王、私は……」


「さあ、今宵は鋭気を養っていただこうではないか。馳走の準備だ」


 アロイスの言葉を遮って、王は玉座から立ち上がる。王の間にいたすべての人間が、王の悪意など微塵も気付かず盛り上がった。


 この私が、戦場で……? アロイスは顔を伏せて歯をかみしめた。怒りで噛みしめた奥歯がミシミシと音を立てた。こめかみに血管が浮き、ピクピクと痙攣する。動けない人間を痛めつけるしか能のない自分が、どうして戦場で功績を挙げられようか。この王は、何だって良かったのだ。勇者を召喚して国民の士気さえ高揚させられればそれで。そのために、自分は捨て駒にされたのだ。今すぐ王の顔面の皮を剥いで、針を一本ずつ埋め込んでやりたい。


 気持ちとは裏腹に、どういうわけか唐突に笑いが止まらなくなった。それを見て、王がいぶかしげな顔をしたが、すぐに皆に向けて言い放った。


「指導者殿もやる気万全のご様子。今回の戦は勝利を約束された!」


 男たちが拳を振り上げた。その様子を、アロイスは笑顔のまま冷ややかな目で見下ろしていた。なるほど、この男の評価を誤っていた。この男にも指導者の素質がある。


「ついにイかれたか」


 つぶやく声に振り返ると、いやらしく笑う王と目が合った。

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