【2】VS編 第6話 対『地中の魔物』編 〜引き締めろっの巻〜
【あの、マスター…少し根の詰め過ぎでは?】
「え?何で?」
【目覚めてから今まで、連戦に次ぐ連戦です。】
…ああ、そうだな。
【そろそろ睡眠が必要なはず。食事だって…】
…さあ、どうだろうな。
【マスターは…半分は人間なのです。】
…半分はダンジョンだ。
【とにかく休む場所を探さなければ…このままだと…】
…ああ、気を抜くと、
【え…】
食われるぞ。
──盛り上がる地面。
「キュコロロロロロロロロロロ…ッ!」
【!……マスター!来ますっ!】
「…わかってる。」
気持ち悪い鳴き声を上げながら、その盛り上がりを突き破る大きな影。
直径にして1,5m。全長10m超の怪物。その先端…顔?にあたるのであろう部分には、口しかない。見た目は巨大過ぎる筋肉で出来たミミズ。アレだ。RPGじゃ割と定番な『サンドワーム』という魔物だ。
(まあここは砂地じゃなく草原なんだけどな…微妙にセオリーから外してくるよな…実際の魔物って)
【そうなのですか?よく分かりませんが…】
なので俺はコイツを『ワーム』と呼んでいる。
ちなみに草原と言ってもここは、お天道様に祝福された『雄大なる大自然』…なんかではない。
頭上にある『天井』では、紫色の光がそれこそ無数に、星雲を思わすような渦巻き模様をいくつも描き瞬いている。
なのでこの草原は微妙な暗さに包まれていて大変不気味な風情だ。開放感など全くない。草原なのに大不自然な閉塞感で一杯だ。
まあ一応ゴブリンの洞窟の『外』にあたる訳だが、言ったように『天井』に覆われている以上ここはまだ屋外にはあたらない。ここは『洞窟から出た』……それだけの場所だ。
(多分、ここもダンジョンに含まれるんだろうな…)
【はい…ここもダンジョンです】
ともかく。俺はより質の高い経験値を得るため、あのゴブリンの洞窟から出る事にしたのであった。
そしてこの『ワーム』と俺が勝手に名付けたた魔物は、ここらへんの『草原(?)』では割と頻繁に出てくる。そしてコイツはレベリングには格好の相手だった。なので只今絶賛連戦中。こいつで8体目だ。
…話を少しだけ戻すが。
俺が奇跡的に倒す事が出来たあのデカブツゴブリンは、多分『ホフゴブリン』というヤツだったんだろう。
(これもまあ、セオリーから外れてなければだが。)
そしてあの怪力を思えば当然なのかもしれないが、ホフゴブリンは他のゴブリンとは比較にならないほど『経験値的においしい相手』だった。
(というよりアレは…うーん。おいし過ぎたかもしれない)
その証拠に、あのホフゴブリンを倒した後の俺のレベルは…なんと9にまで跳ね上がっていた。
【随分と上がりましたね…】
(…いや、一気過ぎるだろ…)
…まあ、レベル5を超えたというのに結局、身体能力の上昇はなかったわけなんだけどな。
【残念です…】
…そう、残念だった。
だが、それでも一応これは、大幅なレベルアップ。
ただ…このようにレベルが急な上がり方をしたからだろうか?
【ああ…そうですね…確かにその後は……でも、新たな武器をたくさん得られたのですから…】
(まあな。確かにそれは良かったんだが)
俺はあの後も内蔵ダンジョンが止めるのを聞かず、ゴブリンを『吸収限界』まで(※吸収しても『構造深度』の糧にならなくなり『余剰分』として【補完倉庫】送りになるまで)狩り続けた。
だが、俺はもう、ヤツら相手ではレベルが上がらなくなってしまっていたようだ。
(『そう感じた』…というより、『何故かそれが分かってしまった』…って感じか…。俺にも…身に付いてきたのかもしれないな。『ダンジョン的な本能』というやつが)
【ウエルカムですマスター。素敵なダンジョン世界にようこそ。そしてそのまま夢の世界へレッツゴーです。いい加減寝たほうがいいです。無茶し過ぎです】
「もう止めろそれ。」
【もうホントに…どうなっても知りませんよ…?】
その後、今度はあのホフゴブリン相手にレベリングをしようと思い切り、探し回ったのだが…。
うん。アレはかなりのレアな魔物だったのかもしれない。あのデカブツにはその後、遭遇する事はなかった。
だから俺は、洞窟からこの『外(?)』へと狩場を移した訳だ。
(『
【ですね…私も怖いです。ハイ、なので早く寝床を探しましょうそうしましょう!】
「しつこいなっ」
ここに来るのは心底怖かったが…それでも、踏ん張って強行することにした。俺は、早く安定した強さを得たいのだ。
…偶然無傷で倒せたから良かったものの…切にそう思わされるぐらいには強かったはずだ。あのホフゴブリンは。
大量の運があの戦闘では消費された。俺はたまたま勝っただけ。そのはずだ。
(次にあれほど実力差を相手にしたらどうなるか…)
それを思うと俺は、どうしても寝る気にはなれない。不注意での遭遇戦だったが、たとえどんなに用心してもああいった…『ゲームバランスをぶっ壊すような難敵』に遭遇する事もあるのだ。もちろんこの世界はゲームではないしゲーム由来のデスゲームなんてもんでもない。
遭遇する時は遭遇するのだ。どんな相手にも。
どんだけ自身の戦力を分析出来ていようが、それだけは…運命だけは変えられない。
そうだ。生き残る悪運があったなら、
不意に食い殺される不運だってあるはずだ。
(だからもっとだ。)
もっと強くならなければ。俺は。
そして手頃な相手として見つけたのが、このワームだった。
【一応、次のレベルは“10”になるわけですし…なのできっと…かなりの時間がかかりますよ?レベリングはもう、明日にしても良いのでは…】
(ああ…お前の言う通りだとしたら…こうしてレベルアップが停滞するのもしょうがない事…なのかもしれないよな。)
【だから…】
『5の倍数レベルには上がりにくい』という、『“5”の壁』説。アレがまだ有効であるなら、今はそれに当てはまる状況になる。
今越えようとしているのは5の倍数にあたる10の壁。その壁は思いの外分厚い様子。先程も言ったがこの魔物を相手にするのはこれで8体目なのだが…まだだ。俺はレベル10に到達出来ていない。
(まあでも、これ以上強い相手を探すというのは……やめといた方がいいだろう。それが何故だか、俺には分かってる。無理は禁物だという事も本当は分かってる。たとえレベル10になっても…肉体強化されないのかもしれないのだし。)
だが俺はこうも分かっている。このワームという魔物を倒し続ければいずれレベルアップが叶うという事が、わかっている。
(何故だかはわからん…)
それに、ワーム以上の強敵に遭遇したらヤラれる可能性が跳ね上がるという事もだ。
「そういう連中に遭遇したら、今の俺じゃそっこーで死ぬってこともな。だからこそだ。その時になって後悔するのはもう御免なんだよ…」
あの『対ゴブリン連戦』は結果的に勝ちはしたものの苦い経験だった。
俺はスキルアップの魅力に取り憑かれていた。あの時、一瞬だったが忘れていたのだ。
──そうたった…たったの一日だった。
記憶も、大事な人も、人生も、命も、何もかも、……失った…そんな事もあるんだって事を。
──そしてそれは、実際に…あったんだって事を…
【マスター……】
「まあ…まだまだ甘いってこった。もっと…もっと張り詰めねーと…」
あのホフゴブリン戦はそれに気付かせてくれた。
それに、ダンジョン的な本能が言っているのだ。この焦燥に従わなければ、今は駄目だと。
食われる前に今、足掻くだけ足掻けと。
その先に……
(何だろう…感じる。壁を越える…?ってやつ…。その時が近いって…ほぼほぼ確信に近い直感だ…これは)
この直感もやはり、ダンジョン的な本能を由来としているのだろうか。
【はあ…しょうがないですね…では、ウエルカムですマスター。】
とてもウザい返事。
でもどうやら相棒も理解してくれたようだ。
「はあ……つまるところ私はぁ今も絶賛ん、着々とぉ、人間を辞め続けておりまぁす。」
【…え?なんですか急に。その切返し…というかその口調は?】
北海道ローカルから今や全国発信となった某ロケ番組。その名物リポーターが過酷なロケにゲンナリとする際の口振りを俺は真似していた…(俺はあの番組の、ファンだ)。
そうだよ。テンションが変な事になってんだよ。アレだ。疲れ過ぎた時のテンションだコレは。
そうだよ!俺だって本当は寝たいんだよっ!深夜番組をやたら連想してしまうぐらい寝たいんだよう!
でもそんな感覚言ってみてもダンジョンにはわからんだろうしなっ。
「まあ気にすん……なっっ!」
おっと危ないー!危うくワームに食われかけてた…っ
(食われないようにこんな頑張って食われるとか…勘弁してくれ…)
【あーはい。もう気にしませんよ】
内蔵ダンジョンからは掌返し的、完全スルー。
…………かなり気になるところだ。
だがまあ、今は戦闘中。
俺はワームを迎え撃つ。
ダンジョントライブ!〜『ダンジョン人間』とかいう超強力な種族に進化を果たしたおっさんが挑むのは、完全にダンジョン化した地球!〜 末廣刈富士一 @yatutaka
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