【3】VS編 第5話 対『巨魁』戦
(このデカブツ…ああ…まだだ…動かない…)
デカブツゴブリンはまだ…
気配の元を…俺を…
探そうとしている…
時間がない…早く…
通り過ぎろ…そして早く…
背中…晒せ──。
時間がないのだ。
早くコイツを倒さねば。
もしくはやり過ごさねば──。
向こうから来ているのだから。
もう一体のデカブツが──。
それが到着してしまえば──ドス…しま…えば……
ドス、
(いや…こ れは…しまった…)
ドス…ドスン…
ああ…無情。
足音。到着した。
新しい気配だ。そう……もう一体のデカブツ。到着してしまった。俺は許してしまった。ヤツらの合流を。機を逸した。万事窮すか。
(もう…閉じていても仕方ない…)
俺は目を開ける。
「ホゴ…?」
まずは新たに現れたのであろうもう一体のデカブツゴブリンを視界に収める。あからさまに見つけられていた。俺を指差している。指差しながら、不思議そうにしている。こちらのデカブツゴブリンに視線を送っている。
翻訳するならアレは、『獲物がそこにいるのに、なんで気付いてないんだ?』という感じか。
それを見たもう一体の…俺のすぐ目の前にいるデカブツゴブリンはついに、俺の方を…向いた。
「ホゴ…」
………?
「ホ…ゴぅ…?」
(………なんだ?)
…こっちを、向いたのに、
(な…)
まさか、
(俺を……認識……出来ていないのか?)
何故だ。目の前にいるのに。
こちらの姿はしっかりとその視界に収まっているハズなのに。見えているはずなのに。新たにやって来たもう一体には見えているようなのに………────
────!
(…そうかっ!)
瞬間で理解した。
(超えたんだ…俺は。)
さっきまで色々試して無駄に終わったアレ。
(『“5”の壁』。スキルの壁を。【暗闘・刹那】が進化したんだっ)
死線をさまようような集中、決死の脱力…。
その試みが利いたのか。【暗闘・刹那】は進化し、その隠密性能をさらにと上げた…?
(いや、違う。だってあとから来たもう一体は俺に気付いてるっ。)
これは、もしかしたら新たな能力が追装されたのかもしれない。だから目の前にいる俺を、このデカブツゴブリンは、仲間が指差し教えてくれているのに、見つけられずにいる…?
(ああもう、何でもいいっ!)
【マスターーーーー!】
そう!ここ!
ここが、勝機!
(そういう事だろうっ?内蔵の!)
瞬間、『きっかけ』が見えてくる。
あれほどか細く見えていた筋道が何本も。
一気に。今や選り取り見取りっ。
俺の未来は無限かと思えるほどの広がりを見せた。
────デキルッ!
───イケッ!
( 予定変更だ! )
俺は手に持つ武器を【補完倉庫】の機能を使って棍棒二本からナイフと手斧へと換装。
持ったばかりのそのナイフは、俺を未だに指差しているゴブリンに向け放つ。
そしてここ!間髪入れず。気付かれる危険も厭わずっ。瞬発する!突貫だ!全速になれ!
俺は俺の気配を未だに探ろうと四苦八苦しているあのデカブツに向かった。その背後を取るためにだ。
ここまで激しく動けば流石に気付かれるはずだ。その証拠に、デカブツの視線は俺の気配を追おうとしている。
───ダガ。
───その瞬間は、こないっ。
「ギャボおおオオォォォォオオ!」
(よし!ドンピシャだ…っ)
敵である俺を援護してくれたもう一体のデカブツに心の中でサンクスを吐き捨てる───いや、いい仕事をしたのは俺が前もって投げたあのナイフだ。アレが片目に刺さって悲鳴を上げているのだから。
一方、せっかく俺という存在に気付きつつあったこちらのデカブツは…
(残念だったな。お前のその目は……ほら…やっぱりだ…)
仲間の悲鳴に奪われている。意識丸ごと。……コイツらゴブリンという生き物は──例えデカい身体に進化していても──その根っこの部分は変わらない。
彼らの注意力は散漫に過ぎるのだ。そんな習性は戦闘においては致命的弱点にしかならない。だから呼ばれるのだろう。『雑魚筆頭』などとという、不名誉過ぎる称号で。
かくして、不意打ちは成功するだろう。
だがその狙いは今や頭部ではない。
このデカブツを…
二体目も想定に入れて…
確実に倒す…
そのためには……
(──手首!)
あの、俺の太腿より太そうな手首!
先が折れてはいるが堂々の大剣…いや巨剣と呼んで差し支えない代物…そんな凶悪を握り込んだ、あの、手首!
手斧に全力!乗った!叩き、込む!
「ギ───!」
皮膚に潜り、肉をえぐり、骨に……食い込んだ!食い込んで抜けなくなった手斧はそのまま残す!手を離す!これにて、ナイフに手斧、手放した。俺は無手となった。
かといって今更棍棒などという貧弱武器に用はない。それに、こんな末端の部位を…手首なんて箇所を攻撃したってこのデカブツは殺せない。だからそんな攻撃のために手ぶらとなった今、俺にもはや勝機などない──見ていたならきっと、誰もがそう思っただろうが。
「ギャおおおオオオオオォォォォオォオオ!」
殺せなくともいい。狙いは命じゃない。ヤツが手に持っていたアレだ。巨剣。それを手放させる。それだけなら…
ガラン、ラララララララ…ッ、ラン…
「出来…た!」
────ソウダ。デキル。
俺は地に落ちた巨剣の柄をすかさず両の手で握りしめ
「フン、!っぬぅ…っ〜〜」
持ち上げようと力みに力んだっ。
食いしばる口内には鉄の味。
歯間に血が滲んだのだろう。
だがそうなって当たり前だ。
【マスターそれは…いくらなんでも】
こんな巨大な鋼の塊を俺は…持ち上げようとしているのだから。そもそも持ち上がるはずがない。未だにステータスによる肉体強化がなされていない俺なのだ。持ち上げられる道理が無い。内蔵ダンジョンも──いや、誰だってそう思うだろう。だか、…それでもだ。
(俺はコレを!持てる!使えるはずだ!)
誰かの意見など知るか!
持ち上がるはずもないそれを握りしめたんだ俺は!それを使えると信じた!念じた!信じたが最後!絶対に疑ってやらない!とにかくもう、信じたのだから!
「だって!ちゃんと書いてあったぞっ?
スキルレベルが3だった【暗闘・刹那】が超えたんだ!
『“5”の壁』を!
じゃあスキルレベルが4だったアレはどうだっ!?
あのスキルだってそうだろう!?
超えれる!もっと簡単に!
“5”を!超えられるはずだ!
──ソウ。
やれる!
──ソウダ。
やれるんだって!
【あ、…う?マスター…一体何を…?】
「なあ!違うかよ!?」
【だから何を───って………ああっ!!】
──デキル!
「俺は!これを!持てる!使える!そうだよなぁぁっっ!」
──ノガスナッ!
【あ、あ…はっ!はいっ、ハイ!そうです!マスターならば可能です!!】
──デキル!!!
「そうだよなあ!出来るよなあ!?俺……ならっっ!」
──オマエナラ!
【そうです!その大剣だって……使えます!使える!はずですっ!『迷宮スキルである【戦闘の記録】』!その唯一の発現者たる……私の!私の偉大なる……マスターならば!!】
そうだ。迷宮スキルだ。
【戦闘の記録】
その注釈文にはこうあった
『かつてダンジョン最深部を目指し侵入してきた歴代のモノノフ達。彼らが駆使した様々な戦闘術。それら全てをダンジョンが記してきた記録。それをスキル化。
このスキルを持つ者は、武器持たぬ格闘術を含め、
「 そうだ!俺は!『どんな武器だって使える』!」
ガ……
ココ…、ォ
オォォンン……
【ヒャアアアーー!マスターキャーーー!凄いいいいい!!】
鈍いその金属音で空気を震わせ、
俺の頭上に、そびえ立つ。
折れてもなお、威風堂々。
鋼の巨塊。
「 たまらないなあオイ!…っこの…重量、感っっ! 」
俺は今、持ち上がらないはずのモノを、持ち上げている。多少レアなスキルの助力など、問答無用とねじ伏せてしまえる重さがこの鋼塊にはある。
そんな巨剣を、俺は今、持ち上げている。
【凄いっ凄いっ!凄いデス!マスター!】
スキルを無理矢理に解釈してやった!
そのスキルを「『“5”の壁』などと小賢しい」と、無理矢理に…進化させてやった!
そして俺はコレを持ち上げてやった!
制してやった!
今持ち上げているこれは不可能の塊だったもの…っ。
どうだ…そんなものを、持ち上げているんだ。
俺はっ!
俺が。こんな、俺が…!
「 は は は …何たる… 」
万能感。全能感。
全身を痺らすはカタルシス。
脳内で叫んで囃すは内蔵ダンジョンと…
無数の、自我。
『『『俺はやってやった!』』』と。
さあ
さあ さあ 大詰めだ。
今 頭上に 振り上げている。
「 あとは、もう、 」
───フリオロセ!!
そう!それだけだっっ!
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