【3】VS編 第2話 突『“5”の壁』説。


 ゴブリン5体を単独撃破。


 奇襲など搦め手を多く使った戦闘だった。なので、この戦果が俺の実力だとは思っていない。理解している。思っては駄目だとも。


 当たり前の事を言うが、殺し合いというのは『命を奪った側の命』だけしか残らない。


 戦闘とは一回一回…その全てが一発勝負なのだ。


 そんな戦闘の中で…自己を正確に評価出来ない者が戦力差を正しく分析出来るはずもない。そんな者が戦えば、全ての戦闘が一か八かとなる。そんな者は死んで当然という非情な世界。


 これは身を以て知った事だ。たった一体のゴブリンに辛くも勝利し、殺しを初めて経験した、あの時に。


 とはいえだ。レベル2のおっさんにしてこれは堂々の戦果と呼んでも…いいのでは?と思ってしまうのもまた事実。

 

【はい!マスターはスゴイです!あ…でも、倒した魔物はなるべく早く吸収して下さいね…私達にとっては大事な資源なので…】


 だけど感慨に耽る暇もないのが今の現実だ。


【すみません…あまり長く放置しているとこの洞窟に吸収されてしまいますから…そうなる前にいただくものはいただかないと……】


「……はいはい」


 言われるがまま5体の死体に意識を向け、手早く吸収する。


(うん、まだ6体目だからな。【補完倉庫】には、ストックされない…)


 どうやら魔物の死体というのも『内蔵ダンジョン』の構築素材として有用であるらしいな。『余剰分』として【補完倉庫】送りには、まだならないようだ。

 

 次はゴブリン達が遺した武器を見る。


 錆びた短剣が一本。

 錆びたナイフが一本。

 棍棒が一本。

 刃こぼれした手斧が一本。

 あと、

 

(コレは魔物素材で出来た槍…か。これは…もうすでに半分壊れてるし、要らないな…)


 という訳でその槍だけ吸収。『構造深度』上昇の糧とする。残りの武器は……うん。もちろん使いたい。


 この槍だけの話ではない。武器というのはいつかは壊れてしまうもの。全力で敵に叩き込む際感じたあの反動……あれを思えば当然の話だ。今使っている棍棒二本にしたって、いつ壊れるか分かったもんじゃない。

 なのでもし、同じような武器が重複していてもある程度はストックしておきたい。


(ストック出来るなら…だが)


 ストックするには【素材吸収】した際、『これはもう構築には使えない。余分である。』と判断されなければならない。されなかった場合は容赦なく『構造深度』送りとなり喪失してしまう。

 そして俺は今まで武器の類を吸収した事がなかった。なのでこれらせっかくの戦利品を吸収してしまうと、確実に『構造深度』の肥やしとなってしまう。つまりは、失う。


(それは惜しい…かといって吸収せずに持ち運ぶとなると戦闘の邪魔になる…うーん……よし、ちと試してみるか。)


 ──これらの武器は構築には回さない──【補完倉庫】に保管せよ──


 と、念じながら、これら武器類を吸収…。


  ギュルり。


 俺の中の何かが渦巻いた気がした。すると…


「お…成功した」


 吸収した先程の武器達は『構造深度』に回されなかった。首尾よく【補完倉庫】にストックされた模様。それが何故だか分かった。気を良くした俺は、もっと色々と試してみる事にする。


 今度は軽く掌を握る形にして念じてみる。


( 出てこい。ナイフ。 )


 シュン、と突然現れる。

 いつの間にか、手元にナイフが出現した。

 いい感じに握られている。


 今度はそのナイフを握った手に集中しながら念じる。


( 換装。手斧。 )


 またシュン…。

 消えるナイフ。

 手には手斧が握られている。


(そうか…換装も可能なのか。)


 次はもっと難易度高めに。


( 換装。ナイフ投擲。 )


 またも、シュン。

 手斧が消える。

 その瞬間俺は、親指の先で人差し指の横側を押さえ、何かを挟むような形に手を変える。


 するとその指間にシュン。

 刃を挟まれるようにしてナイフが出現。 

 

「お、おお、よしよし…投げやすい形で出てきた。これで、武器を持ち変える面倒なしに投擲が可能になったな…うーんなんだかんだ色々と…感じてきたぞ手応えを。努力と工夫を怠らなければ、強くなれるんだ。こんな俺でも…」


【な…今のは…なななんと…あの…マスターそれ…っ!】


「なんだなんなんだ内蔵ダンジョン…さてはその落ち着きの無いキャラを定着させるつもりか?」


 もしそうなら勘弁してほしいぞ。


【いや、そうじゃなくってですね!マスター、今のは凄い事なんですよ?スキルレベルの上昇を待たずに、スキルの新たな能力を引き出すなんて…何故そんな事が出来るのですか?】


「 へ? 」


 俺って今、すごい事したのか?


【えっと…そうですね…ステータスをご覧になってみて下さい】


「ん…?」

    

 俺はステータスを開いて見る。内蔵ダンジョンが何を言わんとしているのか。それを確かめるために。 



=============


レベル 4 

ランク ??

名 前 unknown

種 族 ダンジョン人間

迷宮銘 内蔵ダンジョン(仮)


 構造深度  147 UP!


 魂魄濃度  10

 支配領力  12 UP!


 攻略進度  50

 統合魔性  30


 安定指数  50

 迷宮対価  480 UP!


部族スキル

 【■影】 


迷宮スキル 

 『迷宮本能』

  〈吸収する本能〉

   →【素材吸収Lv12】

    【補完倉庫Lv5】UP!

  〈成長する本能〉

   →【状態修復Lv5】

    【異常克服Lv2】

  〈記録する本能〉

   →【戦闘の記録Lv4】UP!


取得スキル  

  【暗闘・刹那Lv3】UP!

  【苦痛耐性Lv1】

  【打撃耐性Lv1】

   

装備スキル

   nothing  


================


 

「 おお… 」


 レベルが4に上がっていた。


「ゴブリン5体ってのはどうやら相当な養分だったんだな…」


 『構造深度』だってもう3桁の大台に乗ってる。それに合わせて『支配領力』も着実に伸びてきている。


「…ん、まあ、でも、結局…ってやつか…」


 このステータスアップで俺が強くなったかというと、そんな感じは相変わらずしない。


「だからもうなんなんだよ…。この項目群にはどんな意味があるんだ。…つか、一体どうなったら俺の肉体は強化されるんだ…。それにこの…レベルアップする度にガンガン増えてく『迷宮対価』ってのもなんなんだ。ホントなんなんだ」


【いや…マスターそこじゃなくてですね…】


「ん?ああ分かってるよ…っお、これの事かな?」


 さらに良く見てみれば先程の戦闘で大活躍した【戦闘の記録】と【暗闘・刹那】のスキルレベルも大幅にアップしていた。


「(暗い場所限定だけど、)敵に不意打ちを成功させた時の俺の物理攻撃力は…えっと、【戦闘の記録のスキルレベルが4】×10%Up×【暗闘・刹那のスキルレベルが3】×5%UP×『クリティカル発生による攻撃力1,5倍』だから…」


 1,4×1,15×1,5=2,415……!?


「ええ!2,415倍?『不意打ちダブル …名付けて ダブルトリックアタック』が成功した場合は…」


【え。なんですかその…逆にかっこ悪くなった感じの技名は…】


「う、うるせぇそこうるせぇ!……、え、えーと!成功すれば…4,83倍…ほぼ、5倍………………だと?」


【いや確かにそれも凄いんですけど。私が言いたいのはそこじゃなく…】


「ん?他に何があるってんだ?」


 …、…ああ、


 これか。【補完倉庫】。


 …地味スキル。


「…でも、あれ?スキルレベルが3つも上がってるぞ…?前のレベルアップ時から殆ど使ってなかったはずなのに…なんでだ?」


【そう!それ!】


「うわうるさいとてもうるさいっ」


 内蔵ダンジョンの話では…


 どうにかして俺の役に立ちたいと思っていた彼は、スキルの成長や発現に、何らかの法則性を見つけようとしてくれていたらしい。俺の方も薄々とだが、色々と勘付いていた。


 スキルというのはどうやら、発現したり熟練する為の条件というものがあり、そのスキルに則した行動をとったり、影響を受けたりしなければならないのではないか。


 きっと中には複雑な条件を必要とするものだってあるのだろう。…例えば、【暗闘・刹那】というスキル。これなんて特にそうなんじゃないだろうか。


(ステータスで読んだ注釈文には『SRスキルに分類される』とあったしな。)


 つまりこれは本来、俺には分不相応なスキルなのだ。


(そんな超高性能かつ超レアなスキルの修得条件なんてのはきっと…)


●背後からの攻撃(もしくは不意打ち)を受け、瀕死となった事(もしくは一度死んだ事)があり、

●殺意をもって、

●隠密行動(忍び足で歩いていたり、目を凝らして索敵や監視)を、

●一定の時間、行った事があり、

●その対象を物理攻撃のみで

●死闘の末倒した…以上の条件の全てを、

●暗がりで、

●低レベルの内に、

●しかも間を置かずに満たす。


(※いやまあ…これらはあくまでも俺が勝手に想像した条件に過ぎない。それに条件が九つもってのは…さすがにやり過ぎたかもしれないしな)


 …だが最低でもこれくらいシビアな条件を満たしてようやく習得出来るものであってもおかしくない…俺なんかはそう思ってしまう。


 でなければ、こんな低レベルの俺がこんな高性能なスキルをいきなり習得出来てしまったこの事実をどう説明すればいいのかが分からない。


 内蔵ダンジョンはそんな俺とはまた別の視点でスキルシステムを見つめ続けていたらしい。


 彼いわく、『スキルというものは5の倍数のスキルレベルに達した時、新たな能力に目覚めたり、新たなスキルを派生させたり、元からの能力をさらに強化させたりしているのではないか』


 彼いわく、『『レベル“5”の壁』とでも呼べるものがあるのではないか』。

    

「ああ…なるほど、確かにあるかもな。スキルレベルが最初から10を超えてた【素材吸収】なんかは、追加されたっぽい機能が既に二つあるし。スキルレベルが元から5だった【状態修復】の再生能力も、無闇矢鱈と強力だしな…」


【ハイ!そうなんですよ。その代わりにですね…】

 

 このようにして大幅に強化される分、『レベル“5”の壁』というのは、おそらく相当ぶ厚くなっている。

 なので、スキルレベルというのは4から5に、9から10に、相当上がりにくくなっているはず…と、内蔵ダンジョンは推測したらしい。


 …のだが。


 そこに来てだ。


 さっきの俺は【補完倉庫】の新たな機能を発見してみせた。すると熟練する程の使用回数を経てもいないのに、【補完倉庫】のスキルレベルは一気に3つも上昇していて、しかも安々と『5』の壁までも突破してしまっていた。


 つまり、


 本来スキルレベルをコツコツと上げて、それが『5』になって、ようやく追加されるはずだったスキルの追加能力。

 俺はそれを自分で先取りして開発してしまった。それに帳尻を合わせるかのように【補完倉庫】は急遽、スキルレベルが5まで上がる事になった。


 …という推論が成り立つのではないか。と、内蔵ダンジョンは言いたかったらしいのだ。


【これって大発見なのではないでしょうかっ!】


 確かに。熟練する為に、なんとはなしの反覆の結果、スキルレベルをコツコツ上げるという、地道過ぎる苦労をショートカットし、スキルを進化させられるなら?

 こんな旨い話はない。なので内蔵ダンジョンはやたらと大袈裟に興奮しているのだ。


「ウンウン!確かにな!これは凄い発見かもだなっうんっ!」


 ん?俺も興奮してるって?だってしょーがなかろ?こんな厨ニ心をくすぐる隠し設定を放っとく手、あるはずもないだらうに?



 ──という訳でそのあとの俺達は──



 手持ちのスキルをあの手この手で進化させようと頭を捻り、身体を張って、結構無茶な発想に挑戦してみたり…とにかく色々と奮闘した。














 ──訳だが。



「はぁはぁ…どうだ今のは…?内蔵ダンジョン…なんか、効果あったか…?はぁはぁ…」【はい…】「おお?」【……何も変化はございません……残念ながら】「ぬ……く。……そ、そっか…」【あのマスター…すみません…】「いや気にすんな」


 まあこんなもんだった。


 俺達二人の厨ニ心の暴走に対し、スキルの神は寛大な措置を見せてはくれないようだ。


 ……と、諦めかけていたのだが、


「いや…ちょっと待てよ……」


【え…?どうしましたマスター?】


 自分が思ってる以上に、俺というのは諦めの悪い性格だった。


「なあ、俺のレベルって今…いくつだった…?」


【えっと、確か“4”だったと───あ!】


「そうだよ…これって次は…」


【『“5”の壁』!】


「そうだよ!早速レベリングに戻るぞ!」


【はい!】


 レベルが5になったら何らかの変化があるかもしれない。今まで上がらなかったステータス能力値にも変化があるかもしれない。俺達は沸き立った。


【あ…ああ!?そういえば、『部族スキル』のモザイクも剥がれかかってましたよね!】


「ん…?お、おお…本当だ。」


 …って、……何ぃ?【■映】?


「『映』だと…。こりゃまた…」


 『映』…


 なんて想像のつかない文字なんだ。

 どんな単語が来るのか全く分からん。


(……そもそも部族スキルって何だ?でも、まあ…)

 

「よし…俺、頑張るぞ…っ」


【ハイ!ガンバです!マスター!】


 ドスン……


「…………お…」 


【は…え?】


 ……どうやら……


 ドスン、、

 

 ………………俺達はハシャぎ過ぎたらしい。


 

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