【3】VS編 第2話 対『集団』戦。


 近付いてくる。


 気配。


 おそらくは敵。




(さっきまで随分と派手に立ち回っていたからな。)




 その戦闘音に釣られゴブリン共が集まってきたのだろう。


 気配の数は…


 「ギャイー」

 「ギャンギ!」


(まだ二つ…だがそれでも複数体だ…『ナンタラは危うきに近寄らず』だよな…)


【ですね…】


 そう思った俺達は、迷わず反対側へ逃げようとした…のだが。


「ギャぎー…」

「ギャんきギ…」

「ギャっコー…」


(げ。こっちもか)


【あわわ…】


 逃げようとしたその方向からも新たな気配。しかも今度の気配は、


「……くっ…三つかよ…っ」


【ひい…】


 計、5体。

 挟まれてしまった。


(隠れられそうな場所……)


【ない…です】


 これはつまり……


(逃げられ…)


【ない…です〜】


 つまりは回避出来ないという事だ。集団との戦闘を。


(おいおい…ついさっき戦闘童貞を捨てたばかりの俺にこんな……いきなりかよっ)


【……ど!】


「…? ど? …うした内蔵ダンジョン?」


【どどど!どどどどどどどどどうしましょうマスター!いやこんな時こそ墜ち堕ちオチ落ち着いてくださっシャあああ!】いやお前が落ち着け。


「つか逆にこっちが落ち着いたわありがとう…いやこの場合『ありがとう』で合ってるのか?…いやもういいか。『有難う』で。」


【え、え?いえ…どういたマしテ…】


 とにかく


「…やるしかない…」


 …そうだ。やるしかないんだ。


「…二度も死んで、たまるかよ…っ」


【マスター…】


 俺は即座、方針を決める。

 

 2体が来る方角からはなるべく距離を離すべく、3体の方に向って忍び足で進んでいく。そしてギリギリまで近付くと、その場においてなるべく暗がりに当たる場所を探し、その場所で息を殺した。



( ……………… )

【 ……………… 】



 【暗闘・刹那】の効果をなるべく意識し…気配を殺そうと工夫する。そのおかげなのか、近付いてくる3体のゴブリンは俺の待ち伏せに気付いていないようだった。


(…ふー…もうすぐ曲がり角から姿を表す…はず。…まずは一体。最初に見えたその一体だ。集中しろ俺。他には目もくれずそいつを──)


【マス…っ今です!】


 ドグジュ!


 最初に姿を現した一体のゴブリンの頭頂部目掛け、俺は二本の棍棒を同時に振り下ろした。二本目の棍棒越しに伝わってきたのは、頭蓋を割り、その中身に深刻なダメージを与えた気持ち悪い感触っ。


( だが…倒したっ! )


【はい!やりましたっ!】


 これは目論見通りの結果。


 【戦闘の記録】と【暗闘・刹那】。これら二つのスキルが持つ攻撃力上昇補正に、さらにと不意打ち補正がバフって1,86倍になるという……例の攻撃。



 それを二本の棍棒を使って同時に、このゴブリンには食らわせてやった。

 

 その倍となる。3,72倍だ。


 これは単純過ぎる発想。そして単純過ぎる計算式。だが。普通の攻撃を同じ場所に4回食らわせてもきっと、こうはいかなかった。

 ちょっと違うかもしれないけど、これは圧力の計算式に似ている。稚拙な思い付きかもしれない…そんな懸念はあったが、一撃にほぼ4倍の力を込めた方が効果が高いのじゃないかと考え…俺はそれに賭け、そして勝った。


【さすがです!マスター!】


 「「ギ…!」」


 一緒に歩いてきた残りのゴブリンが急な展開に息を飲む。どうやらこの二体は俺の存在に同時に気付いたようだ…が、


「ヌ!ヒイイィィ!わアアアアアアアアア!!!」


【うわあ。なななんですか急に!?】


 これは、内蔵ダンジョンを驚かそうとした訳ではない。俺はゴブリン達に向け吠えたのだ。なるべく奇抜でなるべく大きな声をと捻り出し、そしてぶつけた。


 目前で仲間があっという間に殺され、それに呆としていた所に、この突拍子もない威嚇。


「ほらお前ら!隙だらけだぞ…っ!」


 ドガガ!「ギャボ……ッ」 


 不意は突けたが、今度は流石に『不意打ち効果×2』とはいかなかった。沈み逝くこのゴブリンはきっと、ほんの一瞬の時間差であるはずの二本目の棍棒に打たれる直前、『攻撃された』…と認識出来ていたのだろう…なので不意打ち効果は一本の棍棒にしか掛からなかったわけだ。なのでさき程の威力までは発揮出来なかった。


 それでも、


 ドサ… 


 問題なく倒せた。


【マスター!凄いですマスター!あっと言う間に…】


(凄いのは…スキルだっ)

 

 本当に、凄い。


 なんと、こっち側で残るゴブリンはあと一体のみに。


 だがこの騒ぎを聞きつけたであろうあっち側の2体ももうすぐここに辿り着く。その前に倒さねば。


「ギャ、きひゃーー!」


(よし、襲いかかってきてくれた…)


【え?】


(つまりだな…)


 逃げられなくて良かったという事だ。

 棲家に戻って増援とか呼ばれたら面倒な事この上ない。


【なるほど…】


「つかお前な…怖がってるの丸分かりだ」


【すみません…】


「いや、違うこのゴブリンの…方っ、、な!」


 そのゴブリンはこの窮地に萎縮してしまい、本来の動き…しなやかさというか、伸びやかさを失い、精神も冷静さを失っていた。


(…そんな状態の攻撃じゃこちらが冷静に対処すれば…)


 ゴッ…「ギャィ!」


( …ほら。 )


【おおっ】


 躱すついでに簡単に手首を打つ。更についでに手に持つ武器も落としてやった。


 …カラララン…ッ


 持っていた錆びたナイフ…地に落ち、虚しい音を上げるの図。それはこのゴブリンにとって敗北を思わす…そんな象徴的な光景だったのだろう。


【動き…ませんね】


 よほどに印象的だったのか。間抜けにもそのゴブリンは地に落ちたナイフを呆然と見つめ、動かない。棒立ち。やたらと出っ張った後頭部も無防備に晒されている。なので俺は


 ガボゴンっ!


 その後頭部に向け二本の棍棒をまた同時に振り抜いてやった。どうやら今度の『不意打ちダブル』は成功したよう。コイツも一撃で沈んでくれた。


(戦闘中…敵を目の前にしてああも隙だらけになるとは…。うまくやれば思考停止してしまえる事もある…という事か?)


【おそらくは…】


(つまり奇襲だけじゃなく、コイツラはトリッキーな動きや不意の事態にひどく弱い…そういう事になるのかな…)


【おそらくは…】


 これは、今後ゴブリンという生き物を倒す時には利用出来そうな情報だ。


【……ゴブリンの弱点、ゲットしたかもですね!】


「ゲいギー!」「ギャガー!」


【ひい!来ましたよマスター!】


 ようやく到着の2体のゴブリン。

 その内の一体に向け、俺は慌てず、かなりの遠間だったが


 ブンっ!


 見当外れも甚だしい前蹴りを放ってやった。そしてそれは当然、空振った。届くはずもない。そんな距離から放ったのだから当然だ。


【え。マスター…?一体何を…】


 内蔵ダンジョンだけではない。それを見たゴブリン達も不思議そうにしている。だが…


 スト「ギゃ…」ン


 首尾よく。

 醜い顔のど真ん中からちょい上。

 眉間。

 そこに突然、突き立つナイフ。


 これでまた一体。


【え。な…撃…破…?】


 呆気ない…。


(おいおい…確かに狙ってはいたけどさ…こんなまぐれ当たり…流石に怖くなってきたぞ…)


【あ…マスターがやったのですか?今のをっ!】


 『ゴブリンという生き物はトリッキーな動きに弱い』そう踏んだ俺は前蹴りを空振るふりをして、足の指で挟み掴んだナイフを放り投げていた…のだが……それが怖いくらいにうまくいってしまった。


【凄いです!】


(いや凄すぎる…これも【戦闘の記録】の効果なのか…?覚悟さえ決まれば、アホかってくらい良く動くぞ。おっさんの身体なのに。いや、それにしても、こうも自在に動くものなのか…?つかコレ、本当に俺の身体なのか?)


【いーえ!これが今のマスターの実力なんですよ!そういう事にしときましょう!そうしましょう!】


 そうだな。スキルへの感嘆はこれくらいにしておこう。最後の詰めを甘く見たら駄目だ。


【デスね!】


 ──そうだ。殺す。


 ──最後に残ったあのゴブリン…。


 ──絶対に、逃さない。

  

 ──確実に仕留める。ここで。

 

 ──あと、出来れば戦闘の練習台になってもらって…


 などと…。


【…あ…ぅ…マスター……?】


 多分これらは、記憶を失くす前の俺には無かった思考。そんな『“残虐”に染まりつつある自分』に俺が気付く事は…きっと無い。


【……………マスター…】


 一心不乱に『今』を生きるしかない俺はこうも見事に次々と…殺して回った。この時の俺はもう既に、振り返る事をあまりしなくなっていた。敵であるゴブリンは勿論の事、自分を。過去も。でも、このまま往けば……いつかは……

 


 ……いや



 今は、目の前の命。

 それを殺し切る事だけを考える。


 俺は心の中で、無意識に吠えた。

 何に吠えたのかは分からない。


 そんな事を考える余裕などない。

 気付けばこの身体は…ほら。



【マスター…】



  もう襲いかかってる。



     


  <i424559|31236>


〈※なろう限定品になってしまうのかな?上の記号はゴブリンのイラストです。

 登場人物達は皆さんの好みというか、理想があると思いますので、顔は極力描かないでいくつもり。魔物や武器のイラストは完全体で、今後も投稿しようかな…と一応考えてます。それらを見てこんなの相手に戦うのか…主人公悲惨だなー…と、微かでも戦闘の臨場感を味わっていただければ。というアレです。〉

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る