【3】VS編 第1話 脱『童貞戦』後


「ブッっ……ふぅーーっ!…、あー!死ぬか思ったあーー!」


 足元には

 ゴブリンだったモノ。

 つまりは死体だ。

 随分とズタボロにしてしまった。

 てもしょうがない。


(こんなの…)


 手慣れているはずもないしな。


(だけどコレ…)


 自分が成した結果とはいえ…


(うん、ずっと直視していいモンじゃない。それに内臓ダンジョンの話じゃこの洞窟もダンジョンだっていうし…)


 例の『迷宮本能』、その中の〈吸収する本能〉とかいうやつ。これはどこのダンジョンでも持ってる本能らしい。

 なのでこのゴブリンの死体を放置し続けていれば、いずれこの死体は糧として吸収されてしまう。この洞窟によって。


(だからここは俺が責任をもって吸収しておこう。名もなきゴブリンよ…スマンとは言わんぞ…)


 だってそうしなきゃ確実に死んでたしな。俺も。だから…


(これもまた自然の摂理と諦めてくれ。これからは俺の…、いやアレだ。『内蔵ダンジョン』の方な。アイツの血肉となって……)


【え。今どうして言い直したのですかマスターは。】


(…という訳だから俺を恨むなよ頼むから恨むならダンジョンの方でお願いしますナム南無なむ…)


【…マスター…っ…なんてゲスい念仏を…っ。バチがあたりますよ?】


 そんな、心の中で無手勝流な南無阿弥陀仏をする俺だって勿論、無傷という訳にはいかなかった。


 俺が棍棒を持っていた手。血濡れている。その指は同じような棍棒でゴブリンに叩き潰されてしまい、数本がイカれた方向に反り返っている。


 それに始まり…身体中あっちこっちがアザだらけだ。その中の相当な箇所が骨に異常をきたしてる。亀裂とか。ポッキリ折れたりとかな。肋骨も何本か…うん。刺さってるな。内臓にプッツリとな。さっき血ぃ吐いたし多分だけど間違いないな。

 その過度な内出血でまぶたも腫れ上がってる。片眼は完全に塞がってて殆ど見えてない。


(…のだと思いたい…)


 片眼とはいえ失明とかホント勘弁してもらいたい。そして極めつけなのはその不明瞭な視界の隅に映る…アレだ。俺の毛髪が生えた頭皮。剥がれたそれがベッタリ。洞窟の壁にへばりついていて…


(ううおっ!我ながら気持ち悪ーーいっ!)

 




 汚物は『吸収』だぁぁっ!





(ふー…。見たくないもんはとりあえずの吸収。これに限るなー…)


 いや…ほら。


 前回は不意打ちを食らったようなもんだったからな…今度はもっとこう…善戦出来るんじゃないか?…なんて思ってたんだ。


「でもコレ…ホント、どうなってんだ…」



 めちゃくちゃ強かったぞ。

 地球産のゴブリンは。



【お疲れ様です…マスター。まさに死闘!そんな感じでしたね】


「ああ…にしても…(あの三人組の一人…確か…ハンとかいう名前の、ゴリマッチョ東洋人…)あんの野郎〜…」


【ああ…確かマスターの頭を潰した…】


 あいつがゴブリンの事を「雑魚筆頭」とか呼んでたもんだから。どうやら俺はいつの間にかの無意識に…ゴブリンという『れっきとした魔物』を甘く見積もっていた、らしい。


(あんな…人の痛みを理解しようともしないクソ野郎の言葉を鵜呑みにして…)


 魔物に真正面からぶつかっていった俺にホントアホかと言いたい。真正面からぶつかってみたゴブリンは四天王クラスとか宿敵フラグがおっ立ちそうな強さだったよこんな雑魚い俺にはな。ほんまアホかと言いたい自分を含めた各方面にっ。


 ともかくあのゴブリン君は『ちゃんとした魔物』というやつだった。初戦の相手として堂々の強さを持っていたという事だ。自分で殺しておいてなんだが、散った魂にはそれ相応の敬意を表したい。


(にしてもあの三人組…何処までも祟ってきやがるな…くそっタレ…)


 とかなんとか悪態をついてるうちにジワジワと滲む頭皮。そこからザワザワと生えていく毛髪。ぺキポキと向きを正常に変えたり結合したりする、全身の骨。シオシオと消えゆくアザ。チュブチュブと腫れの引いていく片眼。ついでに筋関係も復旧してく。──迷宮スキル様々だ。


 どうやらスキル【状態修復】の力ならこれくらいは再生出来るらしい。

 え?この能力の限界を探る気なら毛頭ないよ?自分からわざわざ死の淵を覗く行為になるからな。俺の勝手な見積もりだが、それくらいこの再生能力は凄い。

 まあ、元からスキルレベルが高かったから。だからの高性能なのかもしれない。今の世界に【回復魔法】なんてものがあるかどうかは分からないが、それを持たず、薬草とか?アイテムとか?の知識も疎い俺にとって、今はこれが唯一の回復手段。とても重宝しそうなスキルだ。


(便利だよなスキルって…怖いくらいに。)


 まあ……変化なら他にも色々あった。

 今の俺のステータスはこんな感じだ。


=============


レベル 2 

ランク ??

名 前 unknown

種 族 ダンジョン人間

迷宮銘 内蔵ダンジョン(仮)


 構造深度  96  UP!


 魂魄濃度  10

 支配領力  8  UP!


 攻略進度  50

 統合魔性  30


 安定指数  50

 迷宮対価  250  UP!


部族スキル

 【■■】


迷宮スキル 

 『迷宮本能』

  〈吸収する本能〉

   →【素材吸収Lv12】

    【補完倉庫Lv2】UP!

  〈成長する本能〉

   →【状態修復Lv5】

    【異常克服Lv2】UP!

  〈記録する本能〉

   →【戦闘の記録Lv2】UP!


取得スキル  

  【暗闘・刹那Lv1】NEW!

  【苦痛耐性Lv1】NEW!

  【打撃耐性Lv1】NEW!

   

装備スキル

   nothing  


================



 まず、レベルが2になった。皆さん拍手!


【わー!パチパチパチっ】


 お。


【ふふ…】


 有難うな内蔵ダンジョンくん。


【どういたましてです♪】


 そう、念願のレベルアップ。なのに…「うおー急に身体が熱くなってきたー!」的な変化は特になかった。何故だ。


 ただの数値だけで言うなら『構造深度』が96に上がっていた。でもこれって、ただの石ころから珍しそうな鉱石やら、ただの草とか苔から珍しそうな植物やら…そういった物を片っ端から吸収していった結果なんだよ多分な。なのでレベルアップ云々とは…きっと関係ない上昇値。

 つーか、この数値って高いの低いの?そもそもとして『構築深度』なるこの項目が今後の俺にどのような影響を及ぼすのだろう?それすら分かっていないのだ。まあ、それでもとりあえずの上昇なので手応えとしておくが。でも誰かに感想を聞かれたなら俺は「微妙…」と答えるつもりだ。


 ただ、この『構造深度』上昇による影響なのか、レベアップによる影響なのか…それはわからないが『支配領力』という項目も8に上がっている。


(『この文字。支配領域…って言葉を文字ってるのか?『域』じゃなくて『力』…か。気になるな…。どんな力なんだろう…いつかは俺も『魔法』とか使えたりするのかな……『あの女』みたいに。)


 魔法の存在とともに憎ったらしいあのビッチの事まで思い出す。そしてまたムカムカと湧き上がる怒り…


(くそ。魔法を覚えた暁には是非ともあの『踏恵』とかいう女に喰らわせてやりたいもんだ…)


 ……まあ、このようにして一応、実感なくもステータスの数値は上がっているわけなのだが。ああ、あと『迷宮対価』とかいう項目も上がっていて、しかも最初から3桁いってるわけだが…これもどんな項目かわからない。


 そして結局としてゲームやアニメや小説で定番の肉体強化などはなかった。力が強くなったりとか。動きが速くなったりとか。そういった変化は全く感じられない。残念ながら。


 ただスキルの影響なら顕著に感じる。先程【状態修復】が見せた超再生然りだ。


 ただ…このスキルのスキルレベルは上昇しなかった。【素材吸収】も同様だ。どちらも元々が高レベルだったからな。しょうがないのかもしれない。


 その代わりと言うか、【補完倉庫】のスキルレベルが上がっていた。

 吸収量が一定量を超え、余分となった素材を【素材吸収】がはじいて生まれる『余剰分』…。

 このスキルはそれを保管しておくというスキルだったな。レベルが上がるほどその保管出来る量か増えていく仕組みらしいが…んー…ただ、スキルレベルが1上がる度にどれくらい容量が増えるのかまでは分かってない。なので今、『余剰分』をどのくらい保管出来るのかも不明だ。


 【異常克服】のスキルレベルも上がった。これは俺の命が何らかの異常を感じた際にそれを克服しようとするスキルらしいが…これって…このスキルのスキルレベルが上がった結果なのだろうか?

 【苦痛耐性】と【打撃耐性】というスキルを新しく覚えていたぞ?これは…文字通りに痛みと打撃に強くなるスキル。

 これら2つは迷宮スキルではないらしいが…元生身の人間だった俺としては心強く思う。なのでひとまずは歓迎しておこう。


(…でもその一方で、『いよいよ人外化が進んでいくなー』…っていう不安を感じたりもするのだけど…)


 【戦闘の記録】も上がったぞ。ゴブリンと戦闘し、これを倒したからだろう。これは迷宮スキルの一つで、俺が最初期から所持していたスキルの中で唯一、攻撃に関わるスキルだった。改めて見たこのスキルの注釈文には、こう記載されている。 


 ──『かつてダンジョン最深部を目指し侵入してきた歴代のモノノフ達。彼らが駆使した様々な戦闘術。それら全てをダンジョンが記してきた記録。それをスキル化。

 このスキルを持つ者は、武器持たぬ格闘術を含め、どのような武器も使用可能となる。そしてあらゆる物理攻撃にスキル効果が付与される。その効果とは──』


 このスキル効果というのが凄い。


 なんと全ての物理攻撃に攻撃力が加算されるのだ。スキルレベルにつきなんと、『10%』も。


 つまり【戦闘の記録Lv2】を所持する今の俺は、どんなエモノを振り回しても…いや、例えば噛み付きという野蛮なだけの攻撃であっても、それが物理攻撃であるなら『20%』もの攻撃力が加算される…という事になる。


 このスキルレベル上昇に触発されたのか、それとも裸足で音をたてずに歩き回り、用心深く周囲を警戒し、薄暗い中遠くを見つめ索敵した行動結果によるものか…はてさてその全てによるものか…まあ、実際の所は分からないのだけど…

 【暗闘・刹那】というスキルも新しく覚える事が出来ていた。これもかなり…というか、凄く強いスキルだ。その能力はというと


 ──『暗い場所限定で発揮出来るスキル。SRスキルに分類される。熟練すればするほど暗がりの中でその感度は冴え渡り、隠密性も増す。まず足音が消え、更に熟練すれば気配が。更に熟練すれば匂いまで。その姿は限りなく無に近付いていく。

 暗い場所限定となるが、戦う際には全ての物理攻撃にスキルレベルにつき5%の攻撃力が加算されるようになり、それが不意打ちとなれば必ずクリティカル値(1,5倍)を叩き出す。』


(これは…俺を背中から貫いてくれたあの…デーブとかいう白人野郎に是非とも喰らわせてやりたいスキルだな。……というか、もしかしたらあいつにバックアタックを食らったあの経験が活きてるのか?アレがこのスキルの取得条件に絡んでたりするのだろうか?…だとしたら皮肉が効き過ぎてるぞ?)


 うーん、怒ってばかりいると冷静さを失うので話を戻す。


 【戦闘の記録Lv2】と【暗闘・刹那Lv1】のスキルを併せ持つ俺が、暗い場所で物理攻撃による不意打ちを成功させるとどうなるか。


(えーと…1,2倍の1,5倍の1,05倍で…)


 フム。『計1,89倍』…ほぼ『2倍』の攻撃力にまで跳ね上がる…という事になる…。


(いや大丈夫かこれ。だって初期に習得する攻撃能力としてこれは…多分だけどかなりの破格なんじゃないだろうか…いや、でもまぁ…)


 元となる基本攻撃力が低いとあまり関係ないような気もするな…うーん、これ、どうなんだろう。このステータス画面にあるどの項目が基本攻撃力になるのか…俺達はそれすら分かっていないのだ。


「…まあ、でも。ここまでよく、こぎ着けたもんだ…俺…いや、今や、『俺達』か」


【マスター……えへ、嬉しいです♪】


 まぁ。

 よくわかってないながらも、だ。

 傷だらけになりながらも、だ。

 全くの徒労であったわけではない。

 ステータス画面には結果として残ってる。


 実際として──


 ヒュン!ヒュヒュンヒュッカカ!ヒュン!ビュカっ!


「お…お〜〜〜…これ…」


【マスター?今の動きは何ですか?凄くカッコいいです!】


「お、おお?…そ、そうか?(照)」 


 さっき倒したゴブリンが持っていたのも合わせ、棍棒を二刀流で振り回してみたところ、


(この動き……えっと…フィリピンの武術だったか…)


 確か『カリ』っていう名の武術だった。俺は前に、この武術の棒術二刀流の実演動画を見た事があった。それで「あんなカッコいい動きが出来たらな…」と今、何となくで真似してみたんだが…。


(おいおい……出来てしまったぞ。いや…まあ…あそこまでは凄くないけど。それでもだ。…俺の動きとしては上出来過ぎじゃないか?今のは)


 何故だか…『どこをどう動かせばこんな動きが出来る』というのがぼんやりと分かった…そんな感じだった。

 これも【戦闘の記録】のお陰なんだろうけど。少し気味が悪い。気味悪く感じつつも、いざ出来てみれば素直に気持ち良かったり。


(スキル…か。なんだか変な感覚だな。)


 …なんて油断していると、必ず水を差されるのが俺クオリティ。


「ギャギャッ」

「ギャヒッ」



【これは…マスター…】


「ああ…わかってる」


 …招かれざる客……新たな気配だ。


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