第七章 最後の戦い(前編)


第七章 最後の戦い

 

 クリスは焦ってこそいたが、行動は冷静であり、そして迅速だった。

 後方からやって来た『アウルム国解放戦線』の増援部隊に、機体の整備と補給の為一度後方に下がりたいと伝えた。彼等はそれを了承し、クリスに最も近くにある拠点を教えると、この地点の死守を約束した。

 無線の周波数を『アウルム国解放戦線』の連絡用に使用しているモノに合わせ、自分が向かおうとしている拠点の名前、機体の整備と弾薬の補給と負傷したソフィアの治療を受けたいという旨、遭遇した〈スコーピオン〉三機を撃破したこと、後方からやって来た他の部隊にその場を引き継いだことを伝えた。

 クリスの頼みは、拠点の側に速やかに受諾され、後退と受け入れの許可が下りた。

 拠点に到着したクリスは直ぐにコックピットからソフィアを引きずり出し、やって来た医療スタッフに引き渡した。

 医療スタッフを率いていたのは、幼い少女だった。

 丸眼鏡をかけたお下げの、サイズの合わない白衣を着た小柄な少女であり、この場所には余りにも似つかわしくない様に見えた。しかし、そんな印象とは裏腹に、彼女は率いていた医療スタッフへと指示を出していた。

「担架に乗せたら三番テントに運んで! それから、測定器と薬の用意もお願い!」

 そして、その少女はクリスの方を向いて言った。

「彼女については色々聞いているわ。状況はおよそ察しがついているから、後は私達に任せて。それと、君のことを待っている人がいるみたいだったから、建物の方の指令室に行ってね」

 少女はそう言い残すと担架に乗せられたソフィアと共に、テントの方へ向かって行った。

 クリスはそれを、ただ茫然と見送るしかなかった。

 いったい何が起こったのか? ソフィアは無事なのか? 自分は本当はどうすれば良かったのか?

 クリスはまとまらない思考のまま、周囲を見渡していた。

 彼のやって来た拠点は、テントと占拠した建物で構築された仮設陣地だった。屋外では軽傷者と待機中の交代人員が休息している。軽傷者と言っても意識があり命に別状がないというだけで、血の滲む包帯を巻かれているような者は多くいた。

 それに加えて、周囲では戦闘で損傷した幾つものウォーカーが整備と補給を受けていた。予備のパーツなどは殆どなく、大破した『アウルム国解放戦線』の機体や鹵獲した敵の物を用いることで修理していた。

 現在は〈アルゴス〉も彼等整備班に引き渡されており、応急修理と弾薬や駆動燃料、その他消耗品の補給が行われているところだった。

 血と薬品、鉄と油の匂いが無作為に混じり合い、呻き声と怒号が飛び交うこの空間から、視線を建物の方に移す。

 三階建て鉄筋コンクリートのそのビルは、現在では入り口に『アウルム国解放戦線』の旗が掲げられている。

(この様子だと、建物の中は重傷者の為に使ってる感じか。後は、指揮所だろうな。俺が呼ばれてる指令室も建物の中か)

 クリスは正面玄関から建物の中に入る。

 すると、丁度階段を下って上の階から見知った顔の人物が現れた。

 かつてはオルゴにおけるレジスタンスの代表であり、現在『アウルム国解放戦線』の幹部の一人として活動している男、サイラスである。

「クリス、ここにいたか! 丁度良かった。……ソフィアの事は聞いている。無事だといいのだが。……それに、負担の多い作戦を押し付けてしまっている。すまないな」

「……俺の方こそ、謝らなきゃいけないです。俺がもっと強ければ、俺の強さが本物だったら、ソフィアにふたんをかけることもなかった筈なんです」

「……こんな状況ですまないが、次の作戦の指示をしたい。ついてきてくれるか?」

 クリスは頷き、サイラスに案内されて指令室に向かった。

 元々は会議室か何かだったと思しきその部屋には、折り畳み机とパイプ椅子が置かれており、既に何人かが席についていた。

 部屋に入ったサイラスに向けて、立ち上がって挨拶しようとする彼等に対し「そのままでいい」と言って制止すると、一番前まで行って振り返り全員を見渡した。

 クリスはそのまま一番後ろの席に着く。詳細は何も聞いていなかったが、サイラスからの作戦の通達が行われるのだろうとだけは分かる。

 サイラスが説明を開始した。

 当初の見積もりでは戦力を拮抗できると考えていた『アウルム国解放戦線』だったが、アウルム国側の物量は予想を超えていた。戦闘が長引けば『アウルム国解放戦線』側が不利になることは明白だった。

 そんな中、本部に朗報が舞い込んだ。エミリー達がゴルデアからの使者と接触する事に成功したのだ。

 ただし、支援空爆が行われるには条件があり、それは当初から上がっていたものだった。

 即ち、『アウルム国解放戦線』の側で都心部に設置された防空レーダーと高射砲を備えた対空防御施設を無力化する事である。

 サイラスは地図を広げて壁に貼り付け、それを指示しながら言った。

「皆、既に承知の事だと思うが、アウルム国の都心部には強力な防空設備が搭載されており、これによって首相官邸に対する航空機の攻撃は極めて困難と言えるだろう。最初に注目すべきは、外周四方向を守るように設置された対空電探連動型多連装ロケットランチャーであり、空からの接近を察知するとこれが動作して迎撃を行う仕組みになっている。そして、仮にこれを突破出来たとしても中央に設置された対空電探連動型高射砲が存在し、二重の防御が可能となっている。空爆を成功させるためには、事前にこの防空施設を無力化する必要がある。これに加えて、こちら側の空爆を察知されれば迎撃用の戦闘機を出される可能性もある」

 首都シウダの防空施設については度々話題に上がっており、クリスもこれがどれ程の脅威かは十分に知っている。防空電探が接近を検知すると自動で迎撃を行うという触れ込みであり、もしこれが作動できなくても常駐の監視兵が目視で撃つことが出来るとのことだった。

 そして、アウルム国の防空戦力は、この特殊な装置だけという訳ではない。

 陸軍の防空戦力として配備されている戦闘機によって、迎撃される可能性は十分にある。

「国連軍の空母の配置、アウルム国の索敵能力、戦闘機の性能、そして我々の行動の意図が察知されるまでの時間、これらの要素を総合的に考慮し本部で審議した。その結果、各拠点から先鋭のパイロットを選別して攻撃を開始し、二時間以内に五つの防空施設を無力化。これが国連軍に伝えられた三十分以内に爆撃が開始され、その後官邸に突入。現首相であり標的のグラテア・ザナンの死亡確認または殺害を完了させて作戦終了とする」

 防空施設の無力化の手段は、ウォーカーによる直接の破壊だけではない。基本的には防空施設の中に人間を送り込んで電源を停止させるなり、施設内の兵士を殺すなりといった方法で無力化する事になるだろう。

 施設に対してウォーカーが攻撃を仕掛けるのは、施設の防衛戦力を消耗させて、生身の人間が突入するのを成功させる為だ。

「我々は、各『アウルム国解放戦線』の拠点の中でも再前衛に位置し、戦力も充実している。そこで、最も防衛戦力が強固と考えられる敵の最終防衛ライン、中央に設置された対空電探連動型高射砲の破壊任務を与えられている。作戦開始は今から六時間後の午前五時三十分。この時刻に全拠点から『アウルム国解放戦線』の全戦力を投入して防空施設の破壊、及び敵増援の寸断、作戦目的隠蔽のための攪乱を同時に行う。作戦制限時間は先ほども言った通り二時間であり、七時三十分を過ぎた段階で全防空施設の無緑化を完了できなかった場合、国連軍は撤退。空爆による支援を受けることは出来なくなる。……以上が作戦の概要だ。我々が任された対空電探連動型高射砲の無力化に関する個別の作戦は、追って指示を伝える。それまでは、各自この拠点内にて待機していてくれ」


×××


 クリスは、作戦の伝達を終えて一時解散を命じたサイラスの言葉に従い、部屋から出ると施設内を歩いていた。

 殆どの部屋のドアは開け放たれており、医療スタッフと思われる人達が慌ただしく行き来していた。

 部屋の中は床に直接シーツを敷き、その上に重傷者たちが横たわっているという有様だった。中には、意識が混濁して半狂乱の中で叫び声を上げている者までいる。そんな中を、医療スタッフたちは駆け回っていた。血と薬品の入り混じった匂いは、外よりも一層濃くなっていた。

 クリスは無言のままその場所を離れた。

 薄暗い廊下を歩いていると、どうしようもない衝動が沸きあがってきた。

 怒りか? 悲しみか? 憎しみか? 無力感か?

 クリスはその感情の名前が何なのかもわからない。

 それがどこに向かっている感情なのか、それをクリス自身理解できずにいた。

「――ッ!」

 衝動に任せ、拳を握り建物の壁を殴る。

 理由は分からない。だが、今の自分の中にあるどうしようもない感情の吐き出し方を、クリスはこうすること以外に思いつかなかった。

 鉄筋コンクリートの壁には傷一つ付かず、ただ痛みだけが自分に跳ね返ってくる。

 二発、三発と無言のまま続けたが結果は変わらず、暗い廊下に鈍い音を響かせるだけだった。

「そのぐらいにしておいた方がいいんじゃないかな?」

 不意に、クリスの背後からそんな言葉が聞こえた。

 振り返るとそこに立っていたのは、丸眼鏡で白衣姿の小柄な少女だった。余りにも場違いな人物の登場に何事かと思ったクリスだったが、すぐに思い出した。

 彼女は、ソフィアを医療班のテントに連れて行った人物だ。

 クリスの顔を見上げながら、彼女は続けていった。

「君は限られた戦力なんでしょ? そんなことして骨でも折ったら大変だよ」

「あの、貴女はいったい……」

 彼女はソフィアを連れて行った時に指揮をしていた。医療スタッフの一人である程度の権限を持っている人物ということは簡単に想像出来る。

 だが、それにしては若すぎる。

 否、幼すぎる。

「ルーシーだよ。一応医者みたいなものだけど、外科も内科も専門外だから、ここじゃ殆ど雑用係かな」

 そう言いながらルーシーと名乗った少女は手を差し出した。クリスは「初めまして、クリスです」と言いながら、ルーシーの手を握り返して握手に応じる。

 小さい手だった。

 妹のエミリーよりも小さく感じるその手は、少なくとも大人の物ではないように感じた。

 だが年端も行かない、自分よりも明らかに幼い少女が医者として働いているなどということがあり得るのだろうか?

 もしかするとこの見立ては何かの勘違いなのだろうか?

 クリスのそんな困惑は、どうやらルーシーに通じたようだった。彼女は笑顔でクリスを見上げながら言った。

「安心して、見た目通りに君よりも年下だよ」

 その言葉だけでクリスの全ての疑問が晴れたわけではなかったが、とりあえず納得する事にした。そしてクリス自身が、今一番気にかけていたことについて質問した。

「……あの、ソフィアは、大丈夫なんですか?」

「とりあえず命に別状はないよ。ここら辺の部屋にいる人達みたいに死にかけて酷い状態というわけでもなければ、鼓動や呼吸が止まったりしているわけでもない。今は外にあるテントの中で寝かされてるはずだよ。一応女性用のテントだし、危ないことにはならないんじゃないかな?」

「良かったです。それを聞けて、安心しました。ありがとうございます」

 クリスは急な脱力感と共に壁にもたれかかり、そのまま廊下に座り込んだ。

 ルーシーはそんなクリスに合わせるようにして、壁に背を向けて隣に並んで言った。

「ただね、まだ意識は取り戻していないんだ。呼吸も脈拍も安定してたし、そのうち目を覚ますとは思うけど、安全を考えるなら無理やり起こすのはやめた方がいいかな。今の彼女は眠っているような状態だけど、その原因は肉体の疲労じゃない。脳そのものに貯め込んだ疲労が原因だからね」

「……『心眼』を使いすぎたせいだ。戦闘が始まってからずっと使ってたし、最後はかなりの無茶をしてるみたいだった。だから……」

「『心眼』か。君達の乗っていたウォーカーに搭載されたPWの名前だね。精神波の感知能力を拡張して、受け取った反応を電気的な信号に変換して可視化する装置だとは聞いているよ。本当に、つくづく狂った装置だ。それがもたらす副作用どころか、精神波という存在自体が完全に解明されていない段階でそれを兵器に転用しようなんて考えて、考えるだけならいざ知らず実際に作って使おうという訳だからね」

「ルーシーさんは、その、詳しいんですか? PWとか、精神波とかについて」

 クリスの質問に対してルーシーは「君の方が年上なんだから『さん』はいらないよ」と言いながら、指で自分の頭をつつき返答する。

「私自身訳アリな身だからね、嫌でも詳しいんだよ。精神波は脳波に連動して生物が外に放つ波長とされている。当然思考や感情を反映するから、それを読み解けば相手の思考を読み解くことも出来る筈なんだ。だけど、肝心の脳がやっている精神波の送受信のメカニズムについては、今のところ解明されていない」

 ルーシーはクリスの頭に指を当て、線をなぞるようにしながら更に言った。

「おまけに精神波の感知能力は人それぞれに違うときている。この仕組みを解き明かせば、例えば俗に言うテレパシーみたいな超能力の持ち主を、人為的に生み出して兵器転用することも可能だよね。その肝心の仕組みを探るにはどうすればいいか? ――開けて調べてみようって思うのが人間のサガじゃないのかな?」

 ルーシーはそう言って、クリスの頭をなぞっていた指を離す。クリスが隣に立つルーシーを見上げると、彼女は悪戯な笑みを浮かべながら再び自分自身の頭を指でつついて見せた。

 次の瞬間、クリスは背筋に震えが走る思いがした。

「まさか、頭を――」

「ソフィアの事情については、実を言うとサイラスから聞いていてね。私も似たような感じだったけど、多分私の方が先だったんだろうね。生まれた村はとっくに地図から消されたし、無茶な人体実験だっただろうから沢山死んでるはずだよ」

「何かの研究の被験者ってことなんですか? ならもしかして、ルーシーさんも精神波の感知能力を持っているんですか?」

 対するルーシーは首を横に振った。

「私自身には精神波を感知する能力はなかったから、人工的にそれを開発する実験だったと思うけど、それは結局失敗したんだ。だけど私は運が良かったからね。開頭手術の後にしっかりと閉じてもらえて生かされていた。そして、その時の処置が私にとっての最大の幸運で、彼等の犯した大失敗だった。どこにどんな刺激を与えたか知らないけど、結果として私は尋常じゃない記憶力と思考速度を手に入れることが出来たんだ。人体ってやつはどこまでも不思議だね。当然そのことは悟らせないようにしたよ。そして、雑な監視の目を盗んで脱出するのは、少し頭が回るようになれば非力な体でも可能だったという訳さ」

 笑みを浮かべながらそう言うルーシーに対して、クリスはどう反応すればいいのか迷った。笑い返せばいいのだろうか?

 迷ったクリスは結局表情を変えることなくルーシーの言葉に応じた。

「それで、その後はレジスタンスに、ということですか?」

「まあ、そんな感じだね」

 クリスは目眩がするような感覚に襲われながら、思わず溜息をついた。

 ソフィアという例を身近に知ってはいたし、自分たちも国の中枢が起こした騒動の被害者とも言える。しかし、ソフィアと同様の被害者とこんなにも簡単に出会えたという事実に愕然としていた。

 それと同時に、自分のどうしようもない無力感に打ちのめされていた。

 他の人よりも少しウォーカーの扱いが上手い少年。

 クリス個人の持っている力は所詮その程度のものでしかない。

 助けようと、守ろうとしていたはずのクリスに、意識を失うような無茶をさせて、その上で戦える程度の、そんなちっぽけな存在でしかなかったのだ。

 そして、そんなクリスがどれ程必死に立ち回ったところで、目に見えない、手の届かないところでは、無数の被害が拡大している。PWの実験だけではない。『アウルム国解放戦線』に参加して戦っている多くの人間が、血を流して傷つき、倒れ、死んでいる。

「……俺には、少しぐらい何かが出来るって、そう信じていたんです。だけど、実際そんなことはなかった。力だってソフィアの物で、沢山無茶をさせて、強くなったつもりでいい気になっていたけど、被害はどこまでも拡大している。最後の作戦だって、はっきり言って無茶だ。エミリーとラルフが交渉に成功したのは嬉しいけど、冷静に考えればこんな作戦が無理筋だってことは皆分かってる。……なのに、……俺は、どうすればいいんです?」

 ラルフやエミリーの前では、まとめ役としての自分が求められている。

 一緒に戦うソフィアになら、心情を打ち明けることくらいは出来る。

 しかし、『強い自分』でいる理由が目の前からいなくなり、強い自分そのものを否定するいくつもの現実を突きつけられれば、押し込めていた筈の『弱い自分』が顔を出してくる。

 ルーシーはそんなクリスの肩に手を置き、そしてゆっくりと言った。

「まあ、私は君の抱えている事情に対しては、部外者みたいなものだからあまり口出ししたくないんだけどね。医者の真似事もしている身としてカウンセラーみたいな助言をさせてもらうよ。……とりあえず、余り自分一人で抱え込むのは良くないかな。それに、自分で自分の責任範囲を勝手に拡大するのも良くない癖なんじゃない? 一人の人間に出来ることなんて、結局限られているんだよ。『天才の頭脳』を手に入れた私だって、出来たことは精々軍のPW研究の情報収集と分析、精神波全般に関する解明と、その助けになる装置の開発理論の構築位さ。ここまでやったところで軍の研究の阻止だとか、『アウルム国解放戦線』に勝利を約束する兵器の開発なんて事は出来ないんだよ。少し強いウォーカー専属のパイロットに過ぎない君が、いったい何を出来ると思うんだい?」

「それは、……でも――」

「――でも、じゃないんだ。君の活躍は私の所にだって伝わってきているさ。周囲は君に期待しているだろう。君のことだから、その期待を察知して、期待通りの働きをしないといけないと思っているだろう」

 ルーシーのその読みは的確だった。

 期待に応えるための努力こそが、今までのクリスを突き動かす巨大な原動力だったことは間違いない。

 それはクリス自身が認め、自覚的にやってきたことだ。

「そんな過剰な期待に、君が全て答えてやる必要なんてない。見ず知らずのやつが抱く期待なんて、時には無視するぐらいの気概を持っていないと、人間は簡単に押しつぶされちゃうよ。……君が応えるべき期待は、強いてあげれば彼女、あのソフィアという女の子からの期待ぐらいだ。彼女も彼女で中々の無茶をしたようだけど、そこまでして君の力になろうとしたのは確かだ。彼女が何を願って力を行使したのか、命を削るようなことをして、それで何を成し遂げようとしていたのか? 今眠り姫の彼女を置いて君は戦場に向かうだろうけど、彼女から何を託されたのか、ただそれだけを考えて戦えばいいはずだ。……少しは、参考になったかな?」

 ルーシーからそう問いかけられたクリスは、ゆっくりと立ち上がった。そして真っ直ぐにルーシーのことを見ながら言った。

「……はい。ありがとうございます」

「そんな風に素直に感謝しちゃっていいのかな? 普通の男の子なら、こんな年下の女の子から説教されたりしたら怒りそうなものだけど。……もしかして、変な趣味あったりする?」

「いいえ、そういうのじゃなくて。……妹がいるんです。あいつからも、しょっちゅう色々言われてるんで、変な言い方ですけど慣れてるんです、そういうのって。だけど、おかげでいろいろ吹っ切れた気がします」

「なるほどなるほど。まあ迷いが無くなったなら、こんなお節介も無駄じゃなかったわけだ。うん、それは嬉しいことだよ。……ならお節介ついでに耳寄りな情報を伝えておこう。PWについてだけど、敵側もこれを搭載したウォーカーを何機もこの戦いに投入しているみたいなんだ」

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