第18話 本当の戦い。

翌朝目が覚める。



「今日もボス戦かな? 結構敵も強くなってきたな」


「まだまだ、余裕だぜ。これだったら、魔王も余裕だな」


「おっ、さすが勇者タケシ。言うことが違うね~。楽しみにしてるぜ」



タケシ達の話を聞きつつ、準備を整える。確かに、ボスはそんなに強くないが、洞窟に潜って7日疲れもたまってきているだろう。皆気を張っているだろうし。俺は、全然気を張っていないので、大丈夫だけどね。



そして、28階層におりる。案の定、真っ直ぐな洞窟が見える。そして突き当たりには、大きな扉。俺達は、ゆっくり進み扉の前に立つ。そしてゆっくり扉を開ける。



今までと違い普通の部屋だった。その中央にとても大きな影がある。近づくと、ひとつ目の巨人だった。


「ボウボフウウ、ボボボ!」


と吠えるなり10m位ある巨人は、棍棒を持ってこちらに駆けてくる。そして、棍棒を一閃。ブーーン! 皆が避けるが、風圧だけで、何人かが飛ばされる。巨体に似合わず動きが早いし、すごいパワーだ。が、それだけのようだ。



まわりから、魔法攻撃、弓矢攻撃そして、直接攻撃を受け、徐々に動きが遅くなり、そしてついに。


「ドーーーーン!」


凄まじい音と共に、巨人は倒れ、消えていった。




「あーしまった!」


「どうしたんだ? ガク」


「ほら、ダイあの巨人、着てたの繋げた毛皮みたいなの一枚だったよな」


「ああ、そうだな。それがどうしたんだ?」


「いや、あの下どうなっていたんだろうって、もしかして、まるだし、イテッ!」


「くだらないこと言うな、ガク!」


ユイが、俺の事を盾で殴り怖い顔で立っている。


「そうですよ、ガク先輩。あの巨人さん、男性ですから見たってしょうがないですよ!」


「だから、フミカちゃん、ずれてるよ」


笑いが起きる。よし、これで皆リラックス出来たかな?




そして、昼休憩をとって、29階層に下りる。また、同じような洞窟が続き、奥には、扉がある。俺達は、扉を開ける。すると、大きな部屋に、鎖に繋がれた竜がいる。



俺達は、ゆっくり近づく。すると、


「小さき者よ。この先に何かようか?」


「えーと、俺は勇者タケシです。魔王を倒すために来た!」


「なるほど、魔王とやらは、このすぐ下にいる。その魔王に捕まり、わしは、このざまだ」


「では、通してもらって良いですか?」


「それは、できん! 魔王を倒すほどの力があるなら、わしを倒せるだろう。わしを殺してくれ!」



そう言って、口から、炎を吐く。俺達は、慌てて避けると戦闘を開始した。


竜の鱗は固く、なかなか剣を通さないようだ。魔法攻撃も、弓矢もあまりダメージを与えているように見えない。俺も、


「ジン召喚。風の刃!」


すでにぼろぼろの竜の羽がさらにぼろぼろになるが、竜の鱗は傷ついた感じがしない。



しかし、ダイとカヅキ武闘家コンビの気による攻撃は、ダメージがあるようだ。二人の攻撃を嫌がり、逃げるが、鎖によって阻まれる。


そうか、内部から破壊すれば良いのか。俺は、皆に気付かれないようにスキル影を使い、竜の背後にまわると、竜の内部に


「シルフ召喚! 風の刃!」


シルフが起こした風が竜の内蔵をぼろぼろにする。そして、徐々に動きが鈍くなり。竜が倒れる。


「ドーーーン!」



そして、


「ありがとう。小さき者よ。これでゆっくり眠れる」



竜は、瞼を閉じる。死んだようだ。しかし、今回は、灰にならないし、消えない。どうしたんだ?



「いよいよ、魔王と戦うのか」


「ああ、竜の言葉が嘘でなければ、次の階に魔王がいると、なんか、緊張するな~」


「緊張しているように、見えませんよ」


「そうかな? 明日か、明日で、全てが終わるといいな」


「そうですね」





翌朝30階層におりる。そこは今までの洞窟とうってかわって、白い壁の宮殿のような装飾になっている。これは、絶対そうだよな。





ハインリヒさん達は、25階層に戻り、そこで待っていてくれるそうだ。



「頑張れよ、みんな。では、また会おう!」






俺達は、ゆっくりと扉の前に進み、中に入る。そこは、綺麗な絨毯がひかれ、一番奥には段が高くなり、中央に座っている影が見える。そして、脇には二つ立っている影が見える。




俺達は、戦闘準備を整えると、椅子に座る魔王であろう者に向かう。見えてきた。中央に座るのは、黒いライオンのひとがた。尖ったナックルを手にはめている。獣人とでも言うんだろうか? 脇には、大剣を持つ黒い虎に、刀を持つ黒い豹だろうか? がいる。



「良く来たな。勇者よ。待っていたぞ。俺は魔王ドゥクム。魔獣人と呼ばれている種族だ」


「俺は勇者タケシ。正義の名の元に、お前を倒す」


「そうか。お前が勇者か。だが、ちょっと人数多いな。サララ、マシーラ。お前達も手伝ってくれ」


「はっ!」



そう言うと、大きくジャンプし、俺達の左右斜め後ろに別れて立つ。すると、タケシが、



「ガク先輩達は、黒い豹を、カヅキ先輩達は黒い虎をお願いいたします。俺達は、魔王を倒す。では、かかれ!」




俺達の相手は、黒い彪の魔獣人だ。



「僕達、よろしくね。わたしの名はサララ。しばらくお相手してくださいね」



と言うと、サララの姿がぼやけ消えた。サララは、忍者か? そんな場合じゃなかった。俺もスキル影を発動し、潜る。そして、サララがいた。


「風の聖霊王ジン召喚! 吹け風の嵐!」



サララの周囲に凄まじい量の風が吹き荒れ竜巻となり、サララを切り刻む。


「ぎゃあああああー!」



終わったな。俺も影をとき戻る。と、棒立ちになっている。サララに、ダイと、ショウタが迫り。斬る、殴る。すると、サララは倒れ息絶えた。



「馬鹿な。もうサララがやられたというのか」



見ると、魔王ドゥクムがこちらを見て呆然としている。そして、どうやら魔王対勇者の戦いは、魔王有利なようだ。勇者タケシが、膝をついている。



もう一方の戦いは、互角のようだ。じゃあ、勇者の助太刀に行きますか。



「フミカちゃん、法術お願い! ショウタ、ダイは前衛で、ユイは、周囲動きまわって撹乱しつつ攻撃。リンカちゃんも、どんどん打ち込んで。俺は、魔法で攻撃する」



12対1の戦いだ。ドゥクムは、レイカ先輩、ナオミちゃん俺の魔法を器用に避けつつ、タケシ、ダイ、ショウタ、アユミちゃんに、ヒサト、ユイが周囲を取り囲んでいるのを捌きつつ戦う。


そして、ハクトと、リンカちゃんの中距離攻撃は気にしていないようだ。フミカちゃんが、法術で怪我したやつをどんどん回復している。


近接攻撃チームと、ドゥクムとの戦いは、見てて圧巻と言うほどの良い戦いだ。ダイが殴りドゥクムが受け止め、殴り返す。ユイや、ヒサトの剣を気で防御して、二人を弾き飛ばす。ショウタの剣を避けつつ、反撃する。



良い勝負だが、フミカちゃんの法術で、どんどん回復する。俺達と違い、ドゥクムは傷つき動きが鈍る。と、



「ウオオオオオオ!」





ドゥクムが咆哮をあげる。俺達が、一瞬たじろぐと、何かを取り出し飲み込んだ。すると、ドゥクムの傷はふさがり、目が赤くなる。



「なんだ? 第2形態とかか?」


「ガク先輩、余裕ですね」



フミカちゃんが、法術を多く使っているからか、少し荒い呼吸を整えている。



そして、ドゥクムは、スピード、パワーが上がり、さらに口から魔法弾を飛ばしてきた。ダイ、ユイ、ショウタが連携して、攻撃する。何回か攻撃が当たるが、それほど、ダメージになっていないようだ。タケシ、ヒサト、アユミちゃんも連携して攻撃しつつ、タケシは


「ブレイブギャラクシーアタック!」



必殺技を出すが避けられる。しょうがないな。俺は、スキル影でドゥクムに近づき、手に気を溜めた上で、心の中で


「イフリート召喚! 手に宿れ攻撃力アップ!」



そして、ドゥクムを殴る。吹っ飛ぶドゥクム。



「えっ!」


「ほらほら、みんな攻撃、攻撃」


「おう」



慌てて、皆追撃をかける。スピードの鈍ったドゥクムに、俺の攻撃や、ダイの攻撃、ショウタとアユミちゃん、ユイや、ヒサトの攻撃が当たる。そして、


「ブレイブギャラクシーアタック!」


タケシの必殺技が当たると、ドゥクムは、血を吐き倒れる。そして、タケシが飛び上がり倒れたドゥクムに剣を、突き刺す。



「魔王ドゥクムは、勇者タケシが討ち取った!」



そして、それに気をとられたマシーラが、まわりから、剣を刺されて絶命し、勝負がついた。



終わった~。





「パチパチ」




拍手が聞こえる。まわりを見回すと、小柄な老人が立っている。誰だ?



「お初にお目にかかります。我が名はエンリルと申します。以後お見知りおきを」


俺は、思いあたる名だった、研究書にも度々出てきた名だった。俺達の召喚を提案した、魔術師エンリル。でも死んだはずだぞ?




「エンリルさんって、俺達のというか、勇者を召喚することを提案した人ですよね? 死んだはずでは?」



「その通りです。まさしくそのエンリルです。そして、他にやることができたので、死んだことにしたのです。そして、わたしが皆さまの為に、こちらを御用意しました」


何やら、呪文を唱えると、5つの魔方陣があらわれる。そして、そこに5つの影があらわれた。



「では、ご紹介致します。まずは、悪魔公爵、魔王カインです」


ひとつの影が進み出てくる。銀髪に切れ長の真っ赤な目そして、彫刻を思わせる顔、長剣を腰に差し、タキシードを身に纏っている。



「次は、魔竜、魔王ゼルデン」


これは、先程の竜より大きな漆黒の竜だ。



「続いて、妖精王、魔王ゲレフー」


これは、妖精が泣くぞ。ぶよぶよの蛙のような。そうフミカちゃんと行った映画スカイウォーズに出てくるキャラクターみたいだ。



「そして、魔剣王、魔王ポドミン卿」



白髪の大柄な男だ。黒い禍々しい鎧と大剣が目立つ。



「最後にこちらは魔族の王子、魔王セーデルテリエ」


こちらは、悪魔でなくて、魔族のようだ。かなり大柄だ、長い銀髪にいかにも生意気そうな顔、そして、大剣を持ち、鎧の上から白い虎の毛皮を纏っている。





これはさすがまずいだろう。魔王一人に苦戦したのに、新たな魔王が5人。特に、悪魔と竜はまずい。桁違いに強い。さっき倒した魔王など下位1・2位だろう。逃げないと。




「火の聖霊王イフリート召喚! 吹き荒れろ、炎の嵐!」



大きな炎が魔王達を包み込む。



「タケシ! 戦略的撤退だ。俺達が、一応しんがりをつとめるから、早くいけ!」


「えっ! でも、俺は勇者で」


「死んだら、勇者も何もない、いけ!」


「はい! ではお願いいたします。撤退だ」




勇者タケシチームと、カヅキチームが慌てて扉から出ていく。



「イフリート! タケシ達についてって守ってくれ」


「かしこまりました。主殿」



イフリートも続いて扉から出ていく。さてと、どうするかな?



見ると、炎の嵐は、どの魔王かに消されたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る