第4話 「猫の部屋」で相談しよう。

「大~、今日も、猫いかない?」


「いいぜ。じゃ、凛花ちゃん、史華ちゃんも誘うか?」


「いや、今日は二人でお願いします。大に相談したい事あって」


「わかった。じゃ後でな」





 部活後、話かけてきた史華ちゃんに、涙目で話す。


「今日は、大にちょっと、相談あって、二人で、猫に行くけど、いい?」


「岳先輩、大丈夫ですか? もちろんいいに決まってるじゃないですか。楽しんできてください。でもLINEくださいね」


 と言って帰って行った。自分には勿体ない、良い子だな~。







 二人店に向かうと、この前と同じ常連さん二人と、真面目そうな、若い会社員さんがいる。



「マスター、生ちょうだい」


「あっ、俺も」




 ジョッキに注がれた、生ビールが出てくる。


「乾杯!」



 生ビールを、喉に流し込む。ごくっ、ごくっ、ごくっ。ふー。落ち着いた。


「もう一杯、お願いします」


「はいよ」




 マスターが、サーバーから、生ビールをジョッキについで、自分の前に置く。


「で、岳、相談って?」


「俺、史華ちゃんに告白されたんだ。付き合ってくださいって。そして、承諾しました。」


「おっ、良かったじゃん、おめでとう」


「そう、それは良いんだよ、良いんだけど、付き合うってなにすれば良いんだ?」


「えっ?」


「あれか、毎週会った方がいいのか? LINEは、毎日入れた方がいいのか? 毎日一緒に帰るのか?」


「落ち着けって」


「ああ、そうですよ。年齢と彼女いないれきが一緒ですよ。そうです。俺、バリバリの童貞です! 目指すは、魔法使いに、賢者です」



 若い会社員さんが、吹き出す。大は、ちょっと声を張り上げ。


「落ち着け!」



 はい、すみません。取り乱しました。




 ちょっと大人なマスターが、少し笑いながら聞いていたが。そうだ、マスターは、綺麗な奥さん居て、お子さんも二人いるそうだ。




「自然に成り行きで、付き合って行けば良いんじゃないかな。付き合い方は人それぞれ。」



 マスターが、アドバイスしてくれる。なるほど。


「そうだぜ、岳。しかし、付き合ったことないって意外だったな」


「そうだよね、あの馬鹿でも彼女いたことあるのに」


「マスター、人権侵害だよ、今の発言。ほら、三寸の虫にもゴミの光だっけ? ていうじゃん」


「それを言うなら、一寸の虫にも五分の魂だ。馬鹿。ゴミの光はお前だ虫頭」


「マスター、一寸って言うのはね、3.03cmだよ」



 常連さんも加わって、話はどんどんわけのわからない方へ。そう言えば、建築関係の常連さんは、かみやさんと言うらしい。もう一人はたくさん。マスターが、そう呼んでいる。





 すると、かみやさんが、話始める。


「そうか、意外だったな~。結構もてそうだけど、俺なんて、ちっこい体で、大きな目がクリッとして、大人気だったんだぞ。始めては、な~」


「はい、はい」



 かみやさんが、ふてくされて、スマホをいじり始める。




「大って、始めて女性と付き合ったのっていつ?」


「うーん、高校3年かな。同級生の女の子、綺麗な子だったから、友達連れてさ~」



 うん? 友達連れて? 囲んで。



 自分は、少し扉を開けて、声を出す。


「お巡りさーん、ここに犯罪者がいます!」



 店の近所には、交番があるのだ。まあ、聞こえるわけないけど。


「おい、やめろよ、犯罪はしてないよ」


「じゃ、どうしたんだ?」


「や、友達連れて一緒についてもらって、告白したんだ」



 頭に、映像が浮かぶ、ヤンキーが、集団で女の子を囲む。完全に断れない状態じゃないですか。


「お巡りさーん」


「おい! 何でだよ?」


「想像してみろ。ヤンキーが集団で、女の子を囲む。そして、付き合ってください。って言われる。断ったらどうなる?」


「えっ? 落ち込む」


「馬鹿だな~。どんな目に合わされるか、想像できるだろ? リンチされるか、犯されるか」



 かみやさんが、正解を言い当てる。


「えっ、えっ。俺そんなことしないですよ」


「お前はしないかもしれないけど、女の子にとっては、そうなの」



 そうです、そのとおりです。かわいそうな、同級生さん。


「で、その後は、どうなったんだ?」


「2回デートして、そしたら、その子、土下座しながら、別れてくださいって」



 笑いが巻き起こる。いや、面白いな、大は。





「で、その後の女性関係は?」


「女性関係って、そっりゃそこそこあるけど、あまり長続きしないんだよね。大学入ってからも、何人か付き合ったし」


「大学の女の子と?」


「いや、同じ大学の女の子だと、別れた後、面倒くさいから、大学外だな。飲み屋で、声かけたり、歩いている女の子に声かけたり」


「ようするに、ナンパだ。俺もさ~」


「で、どうなったんだ?」


 また、かみやさんがふて腐れる。



「あまり長続きしないんだよね。一回なんて、その女性としてたら、ヤクザの女で、慌てて逃げたことあるぜ」



 何をしてたんだ? そして、なぜヤクザが?


「ヤクザは駄目だよ」



 かみやさんが、しみじみ語る。何があったんだろう。今度はちゃんと聞いてあげよう。



「でも、今度は長続きさせるぜ。俺は本気だ! 凛花ちゃんひとすじ」



 えっ? ふられたんじゃないの? しつこい男は、嫌われるぞ。


「凛花ちゃんって、大、ふられたんじゃないのか?」




「ご馳走様です。すみません、お会計して貰って良いですか?」


「おい、何で、このタイミングだよ」



 会社員さんが、帰ろうとして立ち上がり、たくさんが、突っ込み入れる。


「ははは、えっと、1800円ね」


「ご馳走様でした」





 若い会社員さんが帰ると、入れ替わりに、たくさんの友達が3人入ってきた。たくさん達が、奥のテーブルに移動する。





「で、凛花ちゃんって?」


「ああ、そう俺たちも付き合っているんだ」



 ええ~! いつからですか? 先週金曜日には、そんな気配なかったですけど。


「いつから?」


「ええと、春合宿だから、3ヶ月位前かな?」



 えっ! あれ? 全然知らなかった。


「だって、この前の金曜日、全然そんな気配なかったじゃないか?」


「はあ~。本当に、お前は、そういうところ、本当に鈍感なのな。この前の飲み会も、史華ちゃんが、凛花ちゃんに頼んでセッティングしたんだぞ」



 えっ! ええ~!


「わからなかった。えっ、なんで?」


「だから、鈍感なお前に史華ちゃんが、自分なりにいろいろアピールしたけど、なんの反応もなし。困り果てた、史華ちゃんが、凛花ちゃんに相談したと」



 ふんふん。で?



「あっ、もしかして、史華ちゃんの話信じてる?」



 えっ! えっ! もしかして、史華ちゃんの告白がどっきり?


「な、な、何がですか?」


「ん? どうした? まあいいや。俺が言ったって言うなよ。史華ちゃんに、知らないふりしろよ。」



 自分ちょっと涙目になってるんじゃないか?


「ああ。」


「なんで、涙目になってるんだ? まあ、いいや。史華ちゃんが言っていただろ、友達がいけなくなったんで、映画一緒行きましょって」


「ああ、本当にラッキーだよな」


「ぶふっー」



 大が吹き出す。一緒に聞いていたマスター、かみやさんも笑う。


「はっはは。うんなことあるわけないじゃん。あれか、岳君は今、流行りの草食系か?」


「いや、かみやさん。草食系って今言わないですよ。だけど、若いやつらの中でも特殊ですね。たくは別にして」


「ちょ、ちょ、ちょ。なんで俺別にして、何ですか?」



 たくさん、話、聞いていたようだ。




「岳、あのな。史華ちゃんが一生懸命お前をデート誘おうと思って、考えたんだぞ」



 そっちか~。良かった。


「そうなんだ。良かった~」


「ん? 何が良かったんだ?」


「や、史華ちゃんの告白がどっきりかと」



 すると、大は少し怒ったように、真剣な顔になり。


「あれだぞ。真剣に考えて返事したんだろうな? 由依ちゃんの問題もあるし」


「ここでなんで、由依の名前が出てくんだ?」



 すると、大は、かなり大袈裟に驚いた顔をして、少し考えて。


「今のは、忘れてくれ。そして、ちゃんと考えて、返事したのか?」


「ああ、言われた時は、わけがわからなかったけど、今は、ちゃんと考えているよ」


「ならいい。本当に良い子だからな。良かったな、岳」


「ありがとう。で、最初の話に戻るけど」


「わかった、わかった。今度Wデートでもして、アドバイスするよ。まあ、LINEとか、メールは、史華ちゃんのペースに合わせて、ちゃんと返事返せよ。で、史華ちゃんの気持ちも考えつつ、自分のペースで、付き合えよ」



 なるほど。


「ありがとう、大。やっぱり、いいやつだな」



 と言って、抱きつく。


「おい、やめろ、気持ち悪い。もしかして、お前、男が好きなのか?」


「いや、女性が好きです」



「猫の部屋」に笑い声が響く。今日も気持ちよく飲ませて頂きました!






 そうか、自分のペースで、ちゃんと付き合っていこう。不安が取り除かれ、気持ち良く酔っている。



 大と別れ家路を急ぐ。そうだ、史華ちゃんにLINE入れよう。

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