第18話
18
「貴方は知らないかもしれないけど、貴方の顔って結構知られてるのよ大企業の次期社長のね。そんな貴方と一緒に料理して仲良くしてる私に何か出来ると思う?」
俺の写真で脅すつもりが、俺の写真で脅されるなんて、ひどい結末だ。
「それ、一回使ったら消してくれる‥よな‥。」
悪い事に使わないと思うが、念のために聞いておく。
そして何より2番に見せられると困る。
「安心して、貴方を脅す時にしか使わないわ。」
やっぱりか!
「じゃあ私行くわね。」
そう言って道路へ振り返るとタクシーが止まっていた。シスターが呼んだのか?
「私はタクシーで行くは帰りもね、あの家に払わせるわ。」
彼女はタクシーに走り寄り中に入りそのまま5番の家へと走り去った。
なんて悪党だ変わったなこの3日で、でもそれも全ては5番の家がやった事が返ってきただけだ哀れだがそこまでだ。あの家、5番を助けようとは思わない。
あの教育係も本当に5番と家を守ろうとしたのかもしれない、だが必死で考えた作戦が人を駒として使う方法だ。駒に裏切られるとは考えもしなかったのだろう。
「まだ昼には早いな。‥帰るか。」
シスターが帰ってくるのは昼過ぎと言っていたが恐らく夕飯時だろう。
それまで何をしているか、また迷ってしまった。
「まだ休みも三日しか経っていないのか。にしては疲れたな。」
長い三日だった、ここ最近休まる時がない様に感じる。
まずは2人にお礼のメールをしておく、あの二人のお陰でここまで来れたんだ経緯を教えないと。
「5番は今入院中か‥。」別に興味がある訳じゃないけど頭のどこかで思い出してしまった。今後5番の家がどうなるかわかったものじゃないが、もう知ったことじゃない。
時刻は11時まだまだ一日は始まったばかりだった。
ピーポーピーポー
「救急車か‥。何かあったのか?」
映画館前を救急車が通って行くがそれよりもやる事があった。
「えーと、明日は1番と映画だな。」
学校から帰って来る時に決めた日にちを確かめてスマホに送られているロイヤルチケットを確認する。
「それで、映画の後は‥後は‥。」
「そ、そうだ!春休みの間は両親がいないんだ。一緒に家で食事でもしないか?」
「‥それは4番君の家でですよね。」
「おっおう、そうだ。」
「マズイ‥。」
確実に家での食事は二人きりの筈だ、そこにシスターがいると。1番があの圧力を纏ってしまう。正直もう一度あの1番を見るとPTSDまで発症してしまう気がする。
汗が止まらない、これはマズイ状況だ。
「‥やる事が増えたな。」
「ふーん、それで私には明日の夜は二階からでて来ないで欲しいと。」
シスターが帰って来た時間はだいたい5時程、それから二人で夕飯を作り食卓で一緒に食事を取っていた。
「へぇー、思ってたより貴方って友達いるのね。」滅茶苦茶無礼なもの言いだ。
だが、夜は上から降りて来るな、そして静かにしてろ。という無礼にも程がある物言いに怒られるのを覚悟で言ったがシスターは意外と落ち着いて聞いてくれた。
「怒ってない?」
正直怒鳴られるのも覚悟の上で話したがシスターは案外優しかった、まだいつ怒るかとビクビクしているが。
「なんで?その人との約束は前からしてたんでしょ?私がしばらくこの家にいるなんて誰にも分からなかった、予測出来なかった事でしょ。」
そう言うとシスターは食事に戻った。
よかった‥、やはりこの子はシスターだ‥!優しくて理解がある、自分であまり熱心な教徒じゃないって言っていたがそんな事はない。彼女こそ今の俺にとっては救いの人だ。
「上にもトイレとかあるから大丈夫だと思うけど。」
「知ってるわ、でもそうね出来るだけ使わないようにするわね。気づかれるから。」
そうだな、でも長く我慢させるわけにもいかない。
「出かける時とか下で大きな音を出す時はメールで知らせるから、そっちも行きたくなったら連絡」
「言うわけないでしょ!なんで貴方に行く時間を教えないと行けないのよ!」
俺も自分で言っていて失敗したと思った、シスターが怒るのも当然だった。
「悪い、今のナシ!。」
「ふんっ、まぁいいわ。貴方も私の事を気遣ってくれたんでしょ。」
シスターはなんとか許してくれた、多分気づかれる事はないだろうが念のための提案が誤爆してしまった。
「じゃ音を聞いててくれ、後で流してみるから。」
「わかったけど、今食事中よ。トイレの話はやめて。」
そう言われて俺もこの話は後にしようと決めて、食事に戻る。
「なぁ‥、5番の家はどうだった?あんまり荷物ないみたいだけど。」
休みにしか5番の家にいなかったらしい、それにしては荷物が少ない気がする。
「そうね、急いで行ってよかったわ。最後の嫌がらせなのか私の私物捨てようとしてたから。まぁ大丈夫だったけどね。」
シスターはあっさり言うが急いで帰ったのは大切なものがあったのかもしれない。
「そもそも私物は多くなかったけど、全部この家に置くのは悪いから大半は教会に送ったわ。5番の家持ちでね。」
「‥そうか、教会に許可を取ったって言ってたもんな。」
教会との仲が戻ったと思い、聞いてみると。
「ええ勿論、断られるわけないってわかってたけどね。」
なのに電話をしたか、きっと向こうの人と話したかったのだろう。もうなんのしがらみもなく落ち着いて話すために。
「後、学費についても話をつけて来たわ。負けて気に喰わないからって急に学費を払わないって家のプライドないの?って聞いたら卒業までは払うって言質取ったわ。」
前に大奥について思い出したが、大奥では高い維持費を減らすべく美人を集めて「貴女達程の美人なら外でもやっていける」と大人数をクビにしたらしいが、シスターは自分から出て行くから学費を出せという当時の奥女中達には出来ない事をやったのだ、正確にはそれは一部の藩の人間を一掃したかったという話もあるが。
「それはすごいな。シスター強かだな。」
今言わなかったがシスターへの脅迫電話の録音も使ったのだろう。
「というより立場があってプライドが高い人は大変ね。出て行く人間の世話までしないといけないんだから。」
あの教育係はどうなったのか?そう聞きたかったがやめておいた。もうシスターや俺、2番にも関係ない事だ。
「それで貴方はどうなの?」
「どうって?」
「あの震えは大丈夫なの?」
今は止まってるが、消える事はない。それはシスター自身よくわかっているだろう。
「いや、あれから何も起きてない。」
「そう、あまり覚えてないけど貴方に震えを私止めて貰ったんでしょう。なら私も貴方の震えを止めるから感謝してね。」
そう言ってシスターは食事が終わった食器をキッチンに運んでいく。
1番には震える前に、シスターには震えている途中で、2番には震えた後のケアを、秘書さんにはこれとの付き合い方を、俺はそれぞれにして貰っていた。
今更ながら俺はみんなに守って貰っていると実感した、昔なら一人で解決しようとして悪化していただろうが、この頼れる人がいるという満ち足りている感覚は悪くなかった。
「ほら、早く食べて。お茶の準備が出来ないでしょ。」
言われて気づいたが、また俺はぼーっとしていた。
「わかった、少し待ってて。今食べ終わるから。」
急いで食事をかきこんでいく姿にシスターはご満悦のようだった。今日の食事は大半がシスターが作り俺はせいぜい食器を用意しただけだった。
「ご馳走さま。今持っていくよ。」
この生活にも慣れてきた、やはり誰かといるのは精神上安心感を与えるのかもしれない。
「じゃあちょっと待ってて、今流してくるから音を聞いててくれ。」
食後のお茶が終わり片付けも終わったところでシスターにそう言って二階のトイレに向かい、レバーを下げる。
階段から、「どうだった?」と聞くと「少し聞こえるけどこれなら大丈夫そうね。」との事で恐らく大丈夫だろうという結論になった。
「じゃあ私お風呂に入ってくるから。」
階段を降りてリビングに戻り結論を出すとシスターは脱衣所に向かっていった。
「‥明日の予定でも確認するか。」
明日は昼少し前に待ち合わせをして、1番の知っている店に行く事になっている。
その後に映画を見ていくらか歩いたのちに家で夕食で終わる、1番は迎えがくるそうなのでその時間までは一緒にいる事になっている。
ざっくりとしているがお互いあまり外を知らないので、きっちり決めるより一緒に散歩に近い事をすると決めた。
「俺も行きたい所どころか、何があるか知らないしその場その場で決めるか。」
それに映画は約三時間とかなり長めで映画を見終わったら買い物をしてすぐ家で夕食の準備だろう。
「えーと明日の天気は曇りのち晴れか。」
テレビをつけて天気予報を見るが恐らく問題ないだろう。しばらくテレビを見て暇を潰していると。
ブーンブーンブーン
メールが着信したようだ。
「1番か。」
急いで確認すると。
明日は雨が降らないようで良かったです。
お昼は昔からの知っているお店があるんです、どうか一緒に行ってください。
後、お昼の後は何か予定があるそうですが、どこに行くのでしょうか?
もし準備が必要でしたら教えて下さい。
いや、準備は大丈夫。
明日はカジュアルな服でいい。
後、買い物に付き合ってくれ夕食の買い出しがある。
わかりました。
私も明日は作りたい料理があります。
明日を楽しみにしています。
そこで1番とのメールが終わった。
「メール慣れって言うのか?前よりも柔らかい文になったのか。」
式練習の初日のメールはメール慣れしてなくてどこかの報告書のようだった。
前より良いが今回も仲のいい人に送る内容なのに言葉がやはり固い気がする。
「お互いまだまだメール慣れしてないな。」
俺自身も同年代にメールし始めたのは最近なのだからメール指南なんてできない。
「俺も2番に手紙を送った時何日も考えたんだ。人の事言えないな。」
これで明日を待つだけになった。
「作戦‥なんてないけど。ガッカリさせないようにしないと。」
ソファーの背もたれにスマホを持っていない方の腕を背もたれにかけてリラックスしていると。
「その人って、1番の人よね。」
急な声に驚いた。
「うぉ!驚いた。気づかなかった。」
振り向いたらシスターはすでに髪を乾かしたようでタオルも被っていなかった。
もう俺のジャージを着ていなく、家から持ってきたらしいパジャマを着ている。
「もしかして明日の件って1番の人が関係してる?」
「そ、そうだな。明日は1番と帰ってくる。」
少しだけ言いにくい事だが言っておく。
「そう。」シスターはそれだけ言うとキッチンに向かっていった。
1番との関係は式から始まった、シスターには言っていないが5番の事件は式の練習中に起きた。話してこそいないが知らないわけなかった。
「お風呂入って来たら?」
シスターが背中を向けて言ってくる。
「‥ああ。入ってくる。」
1番とシスターの関係は複雑だ、それがわかっているからシスターも俺も茶化さない。
「シスター。」
「なに?」
「明日、1番に今までの事を話すかもしれない。」
明日は1番と一緒に映画や食事をするだけだ。でも1番だって当事者で被害者の一人でもある。式の前に彼女は俺を信じると言ってくれた、そして2番もシスターも正直に話してくれたのに俺だけ話さない彼女だけ知らないのはいけない、そう思った。
「‥構わないわよ。それにいつか知るかもしれないし。」
振り返らずにそれだけ言うとシスターはキッチンに去っていった。
俺も、なにも言わずに風呂に入る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます