第16話
16
「そうか‥、わかった、お願いするよ。」
「ええ、大丈夫。貴方がしてくれた事を返させてもらうから。」
大きい胸に手を当てて強気な笑顔で言ってくる。
綺麗だ、戦いの女神とはこの子の事かもしれない。
「じゃあ、紅茶の淹れ方をもう一度教えてあげる。でもそろそろ茶葉が切れるわね。」
「なら買いに行くか茶葉なら売ってるとこも近いし。」
部屋から上着を取りに行くため階段に向かう。
「そうね、選び方も教えてあげるわね。後お菓子についても。」
「ケーキ好きだな。」
「違うわよ!」
二人で茶葉を買いに行ったが前に四人で行った買い物と同じように、あれやこれや言われて同じだろと言ったら怒られ、女性の買い物にはもう付き合わないと決めた。
帰って来たらもう6時になっていたので夕飯の支度をするが。
「もしかしてパスタとかスパゲッティ好きなの?」
材料は冷蔵庫の中にあったものと昨日買った物で結局パスタになった。
「かもな、俺も初めて知ったよ。」
どうにか自分で作ろうとしたがシスターが絶対に一人でさせてくれなかった、今思うとシスターに感謝しかなかった、料理初心者のソースなど食べられたものじゃないだろう。
「明日の朝だな。」
夕飯の準備をしている時に言われた事だった。
「ええ、そうよ。でもあの喫茶店は昼ちょっと前よ。起きて来なかったら私が起こしてあげるから。」
シスターの言葉にドッキとする自分がいた。
顔を見ると楽しいそうな表情で見ていた、年相応な笑顔だった。
「私からも聞いていい?」
「え?おおう。何?」
見惚れていたのを誤魔化す為に視線を少し外しながら答える。
「貴方は何で私を助けてくれたの?」
「何でって。」
シスターの顔をみると真剣な目を俺に向けていた。
確かに成り行きではあったがあの映画館の時も喫茶店も今だって、どこかでシスターを見捨てる事は出来たはずだ、なんで?改めて聞かれると答えにくい事だった。
「5番の関係者だからってのが最初だったな。」
「‥責任でも感じてるの?」
あの事件は俺が被害者なのは誰が見ても確かだろう、責任などない。
しかし、元を正すと俺が断ったからと言えなくもない、俺が大人しく生徒会に入っておけばあの事件はおこらなかったかもしれないと頭のどこかで考えていた。
「責任なんてものじゃない、けど」
「けど?」
俺にとってはあの事件は逃げ続けた過去からの復讐だったのかもしれない。
「そうだな、俺は変わりたかったのかもしれないな。」
「私を助けると変わるの?」
シスターはわからないっといった感じで首をひねった。
「それよりまたお茶の淹れ方教えてくれるんだろう。」
「‥そうね、じゃあやりましょう。」
そう言ってキッチンに向かうシスターの背中を追う事にした。
シスターもそれ以上聞かなかったし、俺も答える気は無かった。
「そうそのぐらいの泡が出てきたら、茶葉を蒸らして。」
「あ、ああ。わかった。」
シスターの紅茶講座は意外と優しくてやりやすい。評価は辛口だが。
「まだよ、でも集中して。」
茶葉をじっと見るシスターの真剣な横顔はどこか試合の様な緊張感がある。
「今よ、ポットをスプーンで一回しして。」
言ってる事は簡単だが、これがなかなか難しい。
回す場所や速さなどにムラがあってはならないらしく、スプーンの一混ぜだけで汗が吹き出そうだった。
「そうよ、茶こしを使って注いで。もうすこし均一になる様に。」
手が震えてくる。だけど我慢だ。
「出来た‥。」
「じゃあ、頂くわね。」
色を確認し匂いを嗅ぎそして一口。
「まだまだね。」
‥なんとなくわかっていた事だが、結構これが心に響く。
「まぁ、今日はこの辺ね。」
講座が終わり二人で片付けをするがシスターは手慣れて様子でカップ等を戻していく。なんかシスター俺よりキッチンに詳しくないか?
「お疲れ様、私お風呂入ってくるから。」
当然の様に入っていくが俺の家なんだけど。「‥テレビでも見るか。」
昨日は考える暇は無かったがよく考えると同い年の子が二人きりの家で風呂に入っている、これは心臓に悪い。
「シスターの後、同じお湯に浸かるんだよな‥。」
ダメだ、考えるな。
「よし、2番に電話しよう。」
煩悩を払うために、2番の声を聞く事にする。
‥‥‥。
なかなか出ないな?忙しいのか?
「はい、もしもし。どうかした?」
「あー、2番か。悪い忙しかったか?」
「ふふっ昨日と逆の状況ね。」
可愛い‥。電話ごしでも2番の笑顔が思い浮かぶ。
「朝の事を両親に伝えたから、もう何かしらをしたみたいね。」
やはりシスターが言っていた焦りは2番だったか。
「‥ごめんな、言いにくいかったんじゃないか。」
「そうね、なかなか言い出しずらかったわね、でも大丈夫。」
2番には感謝しかない。同い年の女の子が俺を誑かすように言われてるなんて家族だからこそ言いにくいだろう。
「ありがとう、2番のお陰でどうにかなりそうだ。」
「良かったわ、同い年の子がさせられるなんて許せなかったわ。」
「ああ、そうだな。」
2番はいつも優しい、初めて会った人にもそれは変わらない。
「それでどうしたの?何かあった?」
「えーと、声が聞きたかったじゃダメ?」
煩悩を払うためが目的だが、声が聞きたい話たいも本心だった。
「ふーん、朝会ったばかりなのに?私の声が?」
ぞくりとする。2番の声を聞くだけで心臓を鷲掴みにされたように感じる。
電話の声は基地局に登録されたその人に最も近い人の声が選ばれるだから電話からの声は本人のものじゃない、昔そう聞いたが2番の声もそうだとしても身震いする程心地良かった。
「嬉しい。私も聞きたかった。」
声色がどんどん変わる2番の声が耳に良い。
「俺も聞けて嬉しいよ。」
「ふふっ、でも今お風呂に入ってるからそろそろ切るわね。」
2番が今、風呂っ。
「ねぇ、今想像した‥。」
「はい‥。」
なぜか正直に話してしまう俺はやはり2番が好き過ぎるようだ。
「正直でいいわね、可愛い。いつか一緒に入りましょう。」
「‥いつか、いいの?。」
「そっ、いつかね。じゃ約束の日に会いましょうね。」
プツン。
そこで2番との会話は終わった、ダメだ更に煩悩塗れになった気がする。
「一緒に入るか‥。」
いつか入る、その言葉だけで心臓が早く鼓動する。
ガチャ。
「出たわよー。」
「わかったー。今行くー。」
シスターが脱衣所から出たようだ、リビングを出て脱衣所に向かうと俺のジャージをきたシスターが廊下でタオルを使い髪を拭いていた。
「洗濯物は明日またやっとくから入れといてね。」
「おう、ありがとう。」
そう言って脱衣所に入ろうとしたら。
「っ、そうね。ありがとうって言うのが普通よね。」
「ん?どうした。」
振り返るとシスターがタオルで顔を隠した。
「いいから入って。もう私寝るから。」
まだ時間は9時程。
「早寝だな。俺は風呂から出ても少しは起きてるから。」
二階に向かうシスターの背中にそう言っておく。
とりあえずタオルの用意をして服を脱ぐ、そして洗濯機の蓋を開けるが。
「う、」
やはりシスターの匂いがする、昨日は思いっきり嗅いでしまったが今日は出来るだけ息を止めて洗濯物を放り込も、何故かそうしないといけないように感じた。
さっきまで2番と話していて嗅ぐと2番を裏切る行為だと思ってしまった。
「さて入るか。」
やはりシスターの匂いがしてドキドキしたが、まだ2番の事が頭にあったしシスター自身も気にした様子もなかったので意外と平気だった。
明日喫茶店に行き、教育係と話しシスターを解放する、もう何を言うか決まってるのに人一人の人生がかかっていると考えると重責に感じる。
風呂から出てリビングに行くと、シスターがソファーに座っていた。
「あれ?寝たんじゃないのか。」
「‥昨日の夜、私が洗濯物は私がやるって言ったでしょ。」
「写真か?」
「やっぱり気づいてたのね‥。」
シスターは言っていた証拠になる写真が必要だと。
もしかしたらと思ったが、やはりか。
「洗濯物を一緒に洗濯した写真は取ったけど全然ダメね。こんなのなんの証拠にもならないわね。」
そう言うとシスターはソファーから立ち自分のスマホを渡してきた。
「一緒に料理してる写真も食べてる写真も考えたけどダメね。こんなの貴方を落とした事にならない。」
確かに下着が一緒にある写真だがこれでは役に立たないだろう。
「元から撮る気はなかったんじゃないか。」
「‥わからないわよ。」
昨日の夜に帰ると強く言っていたがこの写真を送ればいいだけなのにそうしなかった。
「これを見せて失敗したって言うつもりだった、違うか?」
「‥‥。」
4番の弱みを撮ろうとしましただけど、私の力ではこれが限界です。
5番の家はあの事件が弱みになって自分達の力ではどうにもならなくなった、だからシスターを頼ったがそれでもどうにもならない、寧ろこの事がバレて2番に話がいき5番の家と完全に縁を切る事になる。
追い詰められて最終的に頼るのは、側室のシスターだ。
おそらくは本妻は2番だったのだろう。
シスターはこの考えに行き着き側室から本妻になろうとした、そして次期本妻の力を使って教会への融資を続けさせる、これがシスターの思惑だったのだろう。
「君は本妻になって5番の家からの融資を続けさせようとした。」
「でもそもそも融資は切れていたのは知らなかったわ。」
ソファーに座り直すと疲れたような表情をした。
「こんな事教会に電話すればすぐにわかったのに、私は何のために貴方に話かけたんだろ。」
「それを俺になんで話した?黙ってれば良かったのに。」
言わなければ誰も知らないで終わった、もし俺がそれを聞いて気が変わって明日行かないっと言っていたかもしれない。
「‥2番さんが、言ったでしょ。話しておきたかったって。私ももう貴方に隠し事は無くそうって思ったの。」
あの縁談の話を聞いた時に俺に話すと決めていたのか。
「そうか、ありがとうな話してくれて。」
「貴方が私を守ってくれるんでしょ。なら正直話そうと思ったのよ。」
そう言うとシスターは真剣な目で見つめてきた。
覚悟を決めた目だ。
「なら、もういいんだな。5番の家との関係は。」
「勿論ね、貴方が行かないって言っても一人で行くつもりだったから。それに貴方はそんな事言わないってわかってたから。」
「ん?なんでだ。」
そう聞くとシスターはフッと笑って俺の近くまで寄ってきた。
息が当たる程顔を近づけてくる、シスターの息が鼻に届き顔中の血が沸騰しそうになる。
「貴方言ったわね、私が可愛いって。」
「い、言った。」
マズイぞ、シスターの目が試すような目になっている。
シスターの目から視線が外せない。
「そんな可愛い子を貴方は見ないふり出来ないでしょ。だからよ。」
ニヤリと笑ってシスターは顔を離した。
まだ顔が熱い、何よりシスターの息がまだ顔の近くに漂っているようで熱を感じる。
スッとイタズラな笑顔になり少し腰を曲げて上目づかいに言ってくる。
「今、何されると思った?」
吸い込まれそうだった、強気な言葉と確信を持った笑顔に。
「な、何って‥。」
「今、何されたかった?」
少し低い位置からのせいかシスターの髪の匂いがする。
「‥‥それ、って、」
写真を撮ろうとしてる?そう聞こうとしたが口が回らない。
「貴方って意外と可愛いのね、少しいじめたくなっちゃう。」
いじめる、シスターがどういう意味で使っているか今の俺にはわからない考えられない。
「でも大丈夫よ、写真も撮らないわ。アイツの言いなりはもうやめるわ。」
そう言うとシスターは姿勢を戻し、俺の横を通って階段に向かう。
「明日、朝起きていてね。じゃないと、いじめちゃうから。」
シスターは軽い足取りで階段を登って行く音が聞こえる。
「いじめか‥。」
思わず口に出していた一体シスターのいじめとはどういうものか知りたくなった。
2番のお仕置きとは違う新しい言葉だった。
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