第3話

「ん?」

上から誰か降りてくる。

「よくここにいるようね。暇なの?」

「職員室に呼び出されただけだよ」

少しぶっきらぼうに言ってみる。

「何かやったの?」

「ちげーよ!進路相談表だよ!今更問題なんて起こすか!」

「知ってる、私も少し前に呼び出されたから」

遊ばれてる完全に遊ばれてる。

「2番‥、俺で遊んでるだろ。」

「あなた、外部進学が決まったそうね。おめでとう」

「あっ、あぁ」流された。気の抜けた拍手をしてくる。

「学術都市だって?」

「‥誰から、聞いた?」

「私も学術都市だから、これからもよろしく」

「‥え!、本当!。まあでも、学術都市は広いし、簡単会えるものでもないか。」

嬉しかったが悟られないようにクールに言ってみる。

「会えなくてなってもいいの?」鋭い、けど悲しそうな声色そして涙を含んだ瞳で俺を見てくる。

「‥いや、それは‥」声が掠れてしまう。

「冬休み中ずっと会えなくて寂しかったのに」近づいて下から見つめてくる。

目が離せない息ができない、心臓を貫かれたように感じる。

本気かどうかもわからない、もうどうでもよく思ってしまうほど、蠱惑的だった。

「せめてクリスマスには何か贈り物の一つでも送るべきでは?手紙一つでは味気ないと思わない?」

「ごめん‥確かに何か送るとかできたよな」

手紙一つ出すのに実は3日考えていて、贈り物を考える時間がなかったのは内緒にしておく。

しかし、それでも小遣いの中から何か送れたのではないか。

「あと、あの年賀状はなに?会社に出すような硬い感じだったわね。」

「それもごめん‥、それしか知らないだ。」

「新年の挨拶としてこっちに来れたりもできたんじゃないの?」

「まだその時は、親と喧嘩しててそれどころじゃ」

「それどころじゃ?」

会った途端にこれだ、悲しそうな顔でダメ出しをしてくる。怒っているのか、からかっているのかわからない。

向こうでも、これが続くのなら俺の心臓と胃腸は悲鳴をあげるだろう。

「それであなたの行く高校は新しく新設された学校らしいけど」

「そこまで聞いてるのか」

「私の行く予定だった高校、実はその新しい学校のモデルの一つとして技術協力をしていたらしくて、姉妹校になっているらしいの」

キリキリキリ、胃が。

「だから、私も実験として貴方と同じ学校に行く事になったから。」

ギリギリギリ。

「これからも、よろしく」

口に血の味がする。

「あぁぁ‥。」

「ふふっ。嬉しくて声も出ない見たいね」

わかった。今のは笑った。

「まだ中学もあと一年あるから何も問題を起こさないように。

私が見張っててあげるから感謝してね。あなたの御家族にも言われてるし。」

「えっ‥。」

言いながら去って行ってしまう。長い髪をなびかせながら。

後ろ姿を見るだけで、何度かの一目惚れをしてしまい2番の姿を見えなくなるまで目線が外せない。

「‥‥優しすぎてどうにかなりそうだ‥」


自分の寮部屋は、というか他を知らないがトイレはある、風呂はない、キッチンもない。ただベッドと机、それぐらいしかない。

基本的に三年間同じ部屋を使い続けるが移動する事も間々ある、高等部になればいくらか自由に物が置けるらしいがもうどうでもいい事だ。

私服はあるが基本的に寮の外に出るときはずっと制服、そもそも簡単に学外に出れるわけでもないので買いにも行けない。

購買部では白いワイシャツしか売ってない。

だから一年の最初は皆それぞれ好き好きな寝巻きに着替えるが結局二年になる前に学校指定のジャージになってしまう。

自分もその例にもれず大体ジャージだった。

噂では女子寮では皆色鮮やかな服装だと聞いたが、冬休み前に聞いたら。

「気になるの?そんなに見たいの?直接?」と息が顔に届く距離で頰を染めながら言われた。首を縦に振りそうになったがやめておいた。

知ってしまったら、一度では足りずに何度も見たくなってしまい女子寮に忍びこんでしまうだろう。

「めんどくさいし、いいか‥」

とりあえず上着は脱ぐが下は制服のままYシャツも脱がない。

そのままベッドに寝転ぶ。

「変わったのか、めんどくさがりになったのか。」

とりあえず、風呂の時間まで幾分か暇だが。寝巻き用のジャージと下着類と洗濯に出す用の袋の用意をしなければならない。

「ここを卒業したら、自分で家事をしなくちゃいけないんだよな‥。」

父の外部進学の条件として出されたものの一つだ。

自力で生活しなければならない。

単純に言えばそういうことだ、だがこれでも父としてはかなりの譲歩なのだろう。

部屋の用意はするが家賃は自分で払えと言われ、いくらかと思えば少なくとも自分が月々払える額じゃなかった。

もう高校は合格しているがまだ正式に進学届けを出していなかったため、それを見て絶望している自分を見て親父が「諦めて内部進学にしろ」と言っていたが。

そこで祖父から「お前は学生時代に家賃なんか払ってたか?」と、助け舟を出してくれた。

父は高校どころか大学、そして社会人になってもずっと会社の名義の部屋を使っていたらしい、しかも幾らか援助を祖父から受け取っていたらしい。

そう言われ顔を真っ赤にし、舌打ち。

そして祖父から鍵を渡された。

「この部屋は投資の一つとして買ったものだ、お前の高校にも近いし好きに使いなさい。あいつは家賃どころか水も光熱費も出さなかった」と言っていた。

「親父も普通に家に甘えてたんだな。」

しかし、今の父は会社を祖父と一緒に会社をひと回りもふた回りも大きくした。

当時の家賃など今は楽に払えるだろう。

「投資か‥。これも爺さんにとっては投資の一つなんだろうな。」

ベッドに寝転び鍵を見つめる。

会社として投資をするなら、一棟まるごと買うだろう。一室だけ買うなんてありえない。

「今はいいけどいつか会社に貢献しろってところか。」

中学・高校・大学卒業、時間としては8年以上。

今の自分の年齢の半分以上の時間、まだまだ先だが過ぎてしまえばあっという間なのだろう。

「そろそろ風呂か。あーっ、この部屋にシャワーでもつけてくれないかな。

一々あの浴場に行くのめんどくさいな」

この寮は一階に玄関に食堂、広間、浴場などの集まる場所。

二階三階四階ににそれぞれの部屋である。

今、この寮にはそれぞれ50人ずつ各学年生活している。

大体が二人部屋の寮だが。

この棟は個人部屋であった、今思うと両親か祖父母か知らないが気を使ってくれていたのかもしれない。

風呂の時間は7時からで最初は三年、次に二年、最後に一年となる。

大体7時半に二年の時間だ。

脱衣場を通り、体を洗い、湯船に浸かる。

元々の予定としては100人以上が一度に入れる設計だったのだろう、すごく広々に使える。

生徒によっては部活帰りのシャワーで済ましてしまう人もいるので今いるのは30人前後だろう。

「どんな所だろうか‥」

湯に浸かりながら考えてみる。

学術都市とはざっくり言ってしまえば多くの学校や教育機関による多目的相互教育都市。

多くの国や団体がそれぞれ融資や技術提供を行い完成した都市。

そして事実上の不可侵領域。

例え都市に対してどれだけ莫大な融資を行なっても各学校によって違いはあろうが、基本的に都市の教育に対して口出しは許されない。

当然だ、ただの金持ちや一国の政治家の主義主張で学生や生徒の思想を変えられないための教育都市でもある。

都市の決定は都市長が下し、それの補佐をそれぞれ委員長が行う。

「それぐらいしか出て来なかったな。大学の実験とか若いスポーツ選手の育成とかは聞くけど」

「なんの話?なんの話?」

ニヤニヤしながら聞いてきやがった。

「高校の話だよ」

「あーあれか。あの、学術都市のことか」

「なんで知ってるんだよ。」

「そりゃ、何人かこの学校から行くからだよ。それにあの科学部から聞いたぜ」

耳ざといのか、あいつの口が軽いのか。

「‥はぁーっ‥」

「アイツを怒るなよ、無理やり聞いたのは俺なんだから」

アイツは友達が少ない分気を許した相手にはなんでも喋るな。

そしてこいつは6番目だった。

「でもいいよなー。お前」

「なんでだよ?」

「学術都市って学生の街だろう。ここみたいに共学だけど色恋の話が少ないなんてないだろう。」

「そこかよ。お前も外部進学すればいいだろう」

「いやー、俺は無理だろ。ただでさえ6番目で肩身がせまいのに、外部に行きたいなんて言ったら、喧嘩じゃなくて泣かれちまうよ。」

こいつはこの学校の理事会の委員の息子であった。

「ふーん、俺と二番目以外も行くのか‥」

ぼーっとしながら呟くと。

「なんで二番目が行くって知ってるんだよ?」

「へっ?」まずい‥

「直接聞いたのか?あの子も行くとは知らなかった、というよりお前よくあの子に話せてるな。仲悪いとかじゃなかったのか?羨ましい‥」

「いや!聞いたんじゃなくただ、‥あれだよ!あいつの進路相談表をアイツが持ってるのをたまたま見たっていうか!」

「でも、進路相談表って行きたい学校の書き込むスペースはなかっただろう。」

「それより、羨ましいってなんだ!?」

声がうわずる。

「そりゃー、羨ましいだろう。見た目といい、声といい、あの性格といい。

俺も何度か話したけど、時間よ止まれって思ったぜ。」

「性格いいかアイツ?」

「あの少し小馬鹿にされてるような手玉に取られてるような感じがいいんだろう。確かにあの人以外がやったらダメだけどあの顔とあの目で言われたら何でも許せるだろ?」

「そうなのか‥」確かにわかる気がする。

「間違いなくあの子は、人気ランキングの三位内だろ?」

「そんなランキングがあったのかよ」

「知らなかったのかよ。まぁ、仕方ないか。今までお前あれだったし。」

「あれってなんだよ。」

「正直お前今まで話しかけずらかったんだよ。」

「?。なんでだよ?」

「当然だろ、あんなに誰彼構わず敵!みたいなかんじだったし」

「分かる。今まで君に話しかける時、すごい気を使ってた。」

またうるさいのが増えた。

「僕が話しかけると君いつも睨んでただろう。なんていうか君はいつも必死って感じだったかな。」「それだな、腫れ物扱いだったかもな」

こいつは3番目だ俺の一つ上の。

「そんなことしてたか?それに腫れ物扱いだったなんて感じなかったけど?」

「それは君が少し落ち着いた、というか余裕が出来たから周りの対応が変わったからかな。」

「真っ当に話せる時が来るとは思わなかったな」

知らなかった、いや気にしている余裕もなかったのかもしれない。

ふと時計を見ると、思った以上に話し込んでいたようだそろそろ一年の時間だ。

「‥そろそろ、時間だな出るか。」「おう!」「だね」


風呂の後、科学部も交えて夕飯を食べに食堂に向かい4人で高等部や学術都市について話したが。3人とも自分と同じぐらいの事しか知らないらしい。

当然か、多分この中で1番学術都市に詳しいのはおそらく自分なのだから。

消灯30分前になりそれぞれの部屋に戻り寝支度をする。

実は実家に帰った時にあるものを自分は持ってきた、スマホである。

知らなかったが大半の生徒がスマホを隠し持っているらしく、皆消灯後にスマホをいじるのが楽しみの一つだったらしい。

むしろ6番目から「お前今まで持ってなかったのか!」と、驚かれた。

3番目や科学部も待っていたらしく驚かれた。

別に皆んな持っていて悔しいから手に入れたわけではないし。

爺さんから鍵と一緒に渡されたものの一つでもある。

「今時、これぐらい持っていなさい。バレてもせいぜい没収ぐらいだ。大丈夫、平気平気!」と言っていたが。

今このスマホにアドレスは四つある。

科学部・3番目・6番目・そして‥。

自分ではわからないものだが携帯電話の話声はかなりの大声になるらしい。

よって夜中ならバレないと思ってもむしろ周りが静かな時の方がよく話し声が聞こえてしまう。

結構的に夜中に連絡を取るときは、メールやチャットで1番小さいバイブレーションでとなる、どこでも一緒だろうが。

あの人はたまに夜中、連絡をしてくる。

たわいない話でも自分にとっては今なによりも心安らぐ。

「今日は何も来ないか‥。はぁー、俺はペットか何かか。」

連絡を待っている自分に気づく。

スマホの画面をオフにして眠ろうとしたが、学術都市の名前が頭にチラつく。

「‥嫌、もう散々調べたことだ。どうせ後1年ぐらいで毎日通うんだもう忘れよう」

何も考えずに布団に包まる。

「私も学術都市だから、よろしく」

頭に浮かぶ、嬉しくないわけない救われた気分だった

1月の中旬、今までの人生で1番の幸福を感じた。


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