第2話
「‥ふざけんな。もう進路相談は提出したし、外部の高校に進学って書いたはずだろ」
「‥‥。」
これを予想していたような無言の2番目
完全に夏の残り香が消えもうほとんど冬に近い10月後半。
日曜日の昼に寮の放送で教室に呼び出され集まったところ、見知った顔が15人程、中にはあの2番目がいる。そして4人の教師達がそれぞれ教室の四隅にいた。
こいつらは全員がAクラスだ。だがAクラス全員ではない。何人かいない。
そこで一番黒板の近くにいた教師が「最後の進路相談表を提出してもらう。」っと言って来る、こっちは受験勉強があるんだ。そんな暇はねぇよ!。っと心の中で悪態。
進路相談表には内部進学・外部の高校に進学・就職などの選択肢にそれぞれ番号が振ってある、1 2 3 。
自分は確かに2と届けたがこの最後のとやらには1以外の選択肢にバツが付けてあった。つまり1以外認めないし、受け取らないらしい。
「こっちはもう受ける高校もほとんど決めてるんだ!今更学校の都合で進路を変えられるかっっ!」
今まで教員とは絶対に超えられない壁で絶対的な存在だと思っていた。そんな相手を睨みつけ、怒鳴りつける。一年前どころか2年の6月までの自分にはあり得なかっただろう。
最後の進路表を受けとりその意味を理解し抗議の声を上げると教師どもは、
「君達はこの2年のAクラスだ。絶対に内部進学しなければならない。外部に進学など、学校に対する裏切りであり、そして君達のご両親に対しての裏切りでもある。
今ここにいる君達は外部の高校に進学すると言っているが、ご両親はどんな気持ちか考えているのか。」
コイツ‥正気か?そんな感想を持った。
「本当の事を言って欲しい。本当は外部に進学などしたくないんだろう?正直に内部進学をしたいと提出すれば今までの事は不問にしよう。」
前の教師だけじゃない。後ろの教師達もそれぞれ裏切りだなんだと言っている。
教師どもの暴挙にも驚いたが15人ものAクラスの奴らが外部進学なんて学校始まって以来の事件じゃないか?
2番目はもちろん10位以内が6人もいる。なおかつ1番目がここにいた。
今、高説たれた教師は黒板前、教卓に付いてこちらを睨んでいる。
俺の文句は聞こえないふりをするが生徒にタメ口で怒鳴られたのが癪に触るのか仏頂面で俺に視線を向けてくる。
バツを上から書かれているが構わず2を選び消されないようにボールペンで空欄に書き、黒板前の仏頂面に押し付ける。
「チッ‥」
仮にも教師のコイツが生徒に向かって舌打ち、そもそもこいつは俺を嫌っていたから舌打ちをしてきたが、二番目とかの生徒にしようものなら即刻クビだ。
だが、ある意味こういう事をするって事はこの時間はこの教師にとって絶対的な力を与えられているのだろう。
「お前の両親から言われたんだ。
あの子をどうか正気にさせてくださいと、正直に内部進学にしなさい。」
「お前」呼びは無自覚だったが、後から気づいて「しなさい」とは、呆れる。
「それに、ここを出てどこに住むんだ?高校の寮はタダじゃない。あの様子だとご両親は寮の費用だけじゃなく、学費も出してもらえなさそうだぞ。」
ニヤつきながら言ってくる。
「住むところも、学費もアンタが気にする事じゃない。俺と家族の問題だ。
それに正気に戻せ?本当に言われたのか?今すぐ電話で確認するから一緒に来いよ。」
少し仏頂面が歪んだ何か親から言われたのは事実だが正気云々は嘘のようだ。
「仮に言われたとしても、外に行く生徒は毎年この時期には決まっているんだろう。
だったら、いつも通りそう扱えよ。お前に出来るんならよ!」
誰に対しての叫びか、誰の胸に1番刺さる言葉か。
学年が変わった時のクラス替えはAクラス以外が変わる。それだけだが、三年次は違う。
外進クラスがつくられる、外に行った時の身の振り方を教えられるそうだが、今いる三年の外進クラスは授業こそするが自習はない楽かもしれないが事実上の放置だ。
自力で力をつけるためと言いているがただの嫌がらせだ。
成績であれ家の都合であれ自分のクラスに外進がうまれたことへの。
だが、今回は外進クラスをつくると過半数がAクラスの生徒になる。
Aクラスは基本的に成績ランキング、例外として運動部で大きな成績を持った人もなっているが暗黙の了解で家柄でも計られているのではと周知の事実でもあった。
自分の親は社長ではある。
造船業の三代目であった祖父は事業で国内外の輸出入会社に船をレンタルするリース業が成功し、父は造船だけでなく物流や海上保険、旅行会社などに成功し、また石油の大幅な移動計画にも成功。
今の工業地帯に停泊している船の殆どに船体の全体であれ一部であれうちの会社の名が入っている。
この学校の教師は貴族主義とでもいうのか政治家や旧華族などの名によく媚びる。
ただ成功した会社の次期社長というだけで入学した自分が気にくわないらしい。
しかし父と祖父は同時にこの学校の支援者の一人でもあった。
「あ‥う‥つっ」
仏頂面は言い返せないようだ。
振り返るとさっきまで両親が、裏切りが、と言っていた教師どもも黙りよそを向いている。
だけど結局このパワーバランスだって家の力によるものだ。
出来るんならよ。か、それは自分も家の力を盾に出来ると理解しての叫びだった。
自分が狐のようでただ無力だった。
言葉がただ空っぽだった。
苦しくなり逃げるように教室から走る。
一階のホールに着いて口の中が痛いと気づいた。口に血の味がする口の中を噛み切ったらしい。
叫んだ時か、走った時かわからないけど、ただ水で流したい。
水で口を洗いながら飲み込む、ただの水なのに鉛でも飲んでいるようで苦しかった。
「なんなんだよ‥。」
ただ無力感を感じる‥。今まで全て、親や教師の求めるままに勉強や生活をして来た。いつだって言われた通りだった。
俺は間違ってるのか?
あの教師も俺を嫌っていた、親も元々いい関係ではなかった。気づいてないと思ってたのか?そんなに俺が嫌いならここから追い出せばいいのに‥。
それなのに両方が共謀して俺をここに縫い止めようとする‥。
頭が締め付けられる‥、将来の事、これからの生活、この学校との関係、これらを考えるだけで吐きそうになる。
何一つとってもただ求められたようにしていたのにこんなつらい‥、ただ一つのわがまますら聞いてもらえない‥。
「はぁ‥。どうしろってんだよ‥。」
叫び慣れていない上、息も整っていないのに全力で走ってここまで逃げてしまった。
「‥疲れたな‥。」
カツカツ、足音がする。
「意外と蛮勇?それともただの臆病?」
後ろから声がする。
あいつの声だ。
なぜここにいる、まだ教室にいたじゃないのか、誰よりも弱い自分を見せたくないひと。
「ひとりぼっちなんだ‥。それとも孤高を気取ってるの?」
冷たくて鋭い声。
その声は、4番目の無力さを断罪するように聞こえる。
だけど、今安心してしまった自分がいる。
会った時からそうだ、誰よりも自分よりもこの人の言葉は真実であり信じられてしまった。
この人に自分の全てを見透かせれているように感じる。
この人の声に身を任せてしまいそうになる。
後ろの少し上にいるこの人に。
「もう決めたんだ‥。」
「そう。逃げたんじゃないの?」
苦しいだけど、否定出来ない。結局一度もこの人に勝てない。
「かっこ悪いな‥」
「かもね。」
「俺は‥別に1番になりたかったわけじゃないんだ‥。」
「そうみたいね」
罪の告白・懺悔とはきっとこんなかんじなのだろう。
心が軽くなるけど心の中が空虚になる、空虚であると感じるようになる。
この人には全てを打ち明けてしまいそうになる。
時間が止まっているように感じる、ずっとこの時間が続いて欲しい。
この人にだけは弱い自分を見せたくない。
早くこの時間が過ぎ去って欲しい、でないと心が砕けてしまいそうになる。
「俺は無力でいたくないんだ。強い人に比べられて自分は弱いって感じたくない。」
「知ってる」
短い言葉。だが何より安心してしまう。
「自由になりたいわけじゃない。もう自分の事を考えたくない。」
「あなたは弱いのね」
苦しい。深い海で溺れるように。
「だけど、もう決めたんだ。自分の居場所を見つけたい。」
「本当にできるの?逃げ出した貴方に」
ひどく冷たい言葉だ、だがこの人に聞いて貰いたかった。
だから。
「君は2番でいいのか?君はつらくないのか?」
聞きたくなってしまった。強いこの人に。
「私は今はここで良い。今は2番で良い、でも。」
「でも?」
振り返ってしまう。
「1番になるのを諦めたわけじゃないから。」
同時に階段を下り自分の隣を通り過ぎる。
顔が見れなかった。見てはいけなかった。見たらもうあの人に。
何度目かの最後の進路相談表を出した。
もう寒いのだから、毎日のように放課後の呼び出しはやめて欲しい。
冬休みが終わりいつもの学校生活が始まった。
職員室を出て廊下を科学部のオタクと歩く。
「あーさむっ。校舎内なのにこの寒さかよ。」
「そりゃ、廊下一つ一つに暖房をかけないんじゃないかな。一体何部屋分のエアコンをつけなくちゃいけないのか分からなくなる。」
こいつは正式に高等部への進学が決まり、部活に毎日のように参加していた。
「それで親はなんだって?」
「結構喧嘩したよ。親父あんなに喧嘩強かったのは知らなかった。
けど、もういい、わかった。って言わせたよ。」
絶対にこの学校から出ると冬休みに最後の宣告をしてきた。
ボコボコに殴られたし、殴り返した。
ただのデスク職かと思っていたがなかなかどうして。
「よく認めてくれたね。」
「‥いや、爺さんが説得に協力してくれてさ。どうにかなったよ」
爺さん曰く、実は父もこういう事があったらしい。
そして爺さん自身にも。
「それで、どこの高校に行くの?許したんだから、それなりの高校じゃないの。」
「そうだな。学力はここの方が上かもだけど。実は新しい学校が出来てそこに行くことになったよ」
「新しい学校?合併とかで出来た感じ?」
「そんな所だ。あれだよ新しく完成した学術都市の一校だよ。」
「嘘‥。じゃあ、あの街に行くの?。」
「本当は外ならどこでも良いって思ってたんだが、親父から条件を出されたよ」
「それがあの街なのか‥。」
これは知らなかったことだが街の開発にうちの会社が融資をいていたらしい、手広いというか。
「実はもう高校入学が決まってて、特別枠ってので冬休みに受けてきたよ。なんとか合格したらしい。」
「じゃあ、あの受験勉強もうやらないの?」
「最初は俺も必要ないって真っ当に受験させろって言ったんだけど、もし落ちて内部進学したいって言ってみろ、二度とわがままは許さないからな!だとよ。」
「もしかして、殴られたってのは」
「大丈夫だ。特別枠って言っても実際の受験問題と変わらないらしい。結構そっちも手こずったけどよ。
喧嘩の翌日に受験なんてするもんじゃないな。頭がガンガンしたよ」
「‥そう。よかったね‥」
顔が引きつっている。そうかやっぱり俺がいなくなると寂しいのかもな。
「あー、そうだあの外進クラス今年はないそうだね。」
急にそんなことを言い出してきた。
「だろうな。今のAクラスに今までの扱いしたらただじゃ済まないだろうしな。」
「驚いたよ。まさか一位二位が外進なんて。高等部はどうなるんだろうな。」
「変わらないさ。それにランキング外の生徒も親がやんごとなき人が結構いただろう。今回が異常だっただけで、結局何もかわらないよ。」
「そういうもんかな?」
職員室は二階にあり、そしてこの階には実技棟・実験棟への渡り廊下がある。
オタクとはそこで別れて自分はホールに向かう、そこでコーヒーでも飲もうと思っていた。
「まじかよ」
考える事は皆同じのようでコーヒーは売り切れだった。
「はぁー‥、仕方ない他ので‥」
緑茶も売り切れ。
「もういいや、帰るか。」
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