VOL.2

 彼女は車に乗り込んできてから、俺の顔を不思議そうに眺めながら、探偵についてあれこれ質問してきた。


”拳銃は持ってるの?”

”撃ったことあります?”


 まあ、月並みな質問だな。


 俺は”超人間だ”なんて聞いていたから、どこかの少年探偵推理漫画に出て来る女の子みたいに、もっと冷めた少女かと思っていたら、無邪気な、どこにでもいるような、いや、それよりもっと遥かに純真な娘だったのに、いささか意外な思いがした。


 俺は苦笑しながら、彼女の質問に一つ一つ答えてやると、彼女は其の度ごとに、喜んだり、驚いたりしている。


 正直言って、俺は子供の相手をするのがあまり得意ではない。ことに、今時の擦れたガキは妙に苦手だ。


 しかしこんな純真な女子なら、悪くはない。


『あの・・・・それで・・・・』


『何だい?』


『何てお呼びしたらいいんですか?探偵さん・・・・じゃ、なれなれし過ぎるでしょ?』


『何でもいいよ。適当で』


 俺が答えると、彼女は少しはにかんだような表情をして、


『あの・・・・じゃ、小父様って呼んでもいいですか?』


(小父様、か)


 俺は心の中で苦笑した。


 別にロリコンじゃないが、女の子にこういう呼び方をされるのは決して嫌いじゃない。


『ああ、いいよ、それなら俺も君をカレンって呼ぼう。いいかね?』


 彼女の顔に笑顔が広がった。


『はい!』


 そんな話をしているうちに、車は都心をどんどん離れてしまったようだ。



『着きました』


 MIBの一人が車を停め、ドアを開けてくれた。


 いつの間にか辺りは雪景色、そして空からは粉雪が間段なく降り続いている。


 彼の話によれば、ここは相模湖周辺の別荘地で、森林を抜けた中にある一軒だ。


 周りは針葉樹に囲まれ、他の建物は一番近いところでも1キロは離れているという。


 別荘自体は丸太小屋ロッジの外観をしていて、まあこの季節にぴったりと言えばいえる。


 生まれて初めて雪を見た彼女は、うっすらと芝生の庭に積もった雪を手でつかんでは空に向かって投げ上げてはしゃいでいる。

MIBの一人が辺りを警戒しながら降りてくる。もう一人はトランクから大ぶりのスーツケースを下ろす。

 

 俺達は二人に連れられ、そのままロッジの中へと入っていった。


 カギを開け、中に入る。


 室内4LDKだといい、木目調の整った造りで、アメリカの田舎にでもありそうな、そんな雰囲気だった。


『3日分の食糧その他必要なものは全て整えてあります。何かありましたら、こちらにご連絡を』


 そう言って、キーと一緒に、電話番号を記した紙片を俺に渡すと、


『では、我々はこれで、後はごゆっくりお過ごしください』


 彼らはそういうと、ぞんざいに頭を下げて、急ぎ足で出て行った。


 急に室内が静かになる。


 一通り室内を見て回ったが、中は

『さて・・・・と、これからどうするね?』


『私、お風呂に入りたい!』彼女は唐突にそう言うと、いきなり服を脱ぎ始めた。


『おい、ちょっと待ちたまえ。風呂なら俺が準備をしてやるよ』


 俺は慌てて彼女を制した。


 やれやれ・・・・・これが『超人間』というやつか?


 俺が幾ら無粋な人間だからって、若い女、それもまだ十代の少女の裸体なんか目の前で眺める趣味なんか持っちゃいない。


 下着姿になった彼女を寝室に押し込め、準備が出来たら呼んでやるからと、俺は


 上着を脱ぎ、袖をまくってバスルームに向かった。



 数分後、彼女は歓声をあげながら、バスタブに浸かっていた。


 俺はため息をつき、コーヒーを沸かして、リビングのテーブルに座っていた。


 彼女は何度か俺に『一緒に入ろう』と誘ってきたが、俺は、


『17歳になったら、女の子は一人で風呂に入るもんだ』と言い返してやった。


 やれやれ・・・・この先あと三日間、同じことが続くのか・・・・俺は肩をすくめ、またコーヒーを啜った。


 




 

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