第四話

 神社から見てちょうど村の逆側、ちょうどさきほどユキジと蛇喰たちが一戦交えた山のふもとあたりに自然と出来た洞穴がある。2匹の蛇喰を首領とする妖怪たちはこの洞穴を住処とし、活動の拠点としていた。その薄暗い闇の中に、今日は一人の少女がいた。


 その前には2匹の蛇喰、一匹は大柄、もう一匹は細身。その細身の方が少女に話をする。少女はそっぽを向いたままで、傍目には聞いているのか聞いていないのかわからない。


「おい、カリン! ちゃんと兄貴の話を聞いているのか?」


 その少女、カリンの態度を見かねて大柄な蛇喰が言った。


「……うるさいな。ちゃんと聞こえてる。耳元でさわぐな」


「何だと!」


 立ち上がろうとした蛇喰をもう一匹が制する。


「……やめとけ」


「兄貴、だってよう……」


 そんな二人のやりとりを当のカリンは知らん顔だ。興味のないことにはとことん無関心である。しつこく絡もうとする弟を制して細身の蛇喰が質問を投げかけた。


「……それでやってくれるんだろ?」


「……」


「ジジイの結界がなかなかやっかいでな。俺たちでは神社に立ち入ることも出来ない」


「へへっ、半分人間の血が流れているお前なら結界も通れるだろ?」


 長い舌を出し、薄ら笑いを浮かべる蛇喰弟。その瞬間にカリンの右手が妖怪化し、蛇喰の喉元を締め上げ、そのまま高く持ち上げる。


「うぐぐぐぇぇぇ」


「……次に同じことを言ったら殺すぞ」


 そういってカリンはそのまま妖怪を投げ捨てる。その様子を兄は座ったまま眺めている。


「さっきの話……本当だろうな?」


「ああ、あの宝珠はもともと俺たちのものだ。それを人間が俺たちから無理やり奪った」


「……」


「人間のずる賢さはお前が一番よく知っているだろう?」


 蛇喰の質問にカリンは答えない。弟のほうはさすがに堪えたのか黙っている。しばらくしてからカリンは一言答えた。


「……やるよ」


 そういってカリンは一人で出て行く。その様子を眺める妖怪たち。少ししてから弟が兄に話しかける。


「うまくいったな、兄貴」


「ああ」


「……でも兄貴、大丈夫か? むかつく野郎だけど、カリンは腕が立つぜ。もし、俺たちがだましていることがばれたら……」


 心配そうに蛇喰の弟は聞いた。大きな体に似合わず、気の弱い妖怪だ。そんな弟の心配をよそに兄の細身な蛇喰は落ち着き払っている。


「宝珠が手に入った後なら問題ない。宝珠で妖力を引き出すことができたなら俺たちのほうが上だ。どちらにしろ宝珠さえ手に入ったらカリンは用済みだ。早めに消してしまったほうがいいな」


 先の割れた長い舌をぺろりと出し、蛇喰は不敵な笑みを見せる。その様子に弟のほうにも背中に冷たいものが走った。


「……あ、兄貴、最初からそのつもりでカリンを引き入れたのか?」


「そんなことはどうでもいい。それよりお前はカリンの後をつけるんだ。いいな、カリンが宝珠を手にしたら、一刻も早くそれを受け取り俺のところに持ってこい」


「……わかったよ、兄貴」


 宝珠さえ手に入ったら、このバカも始末してやろう……すでに蛇喰の頭の中ではそこまで考えていた。

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