アリスは、威嚇いかくでボーデンを睨みつける。


「いや、なんでもありません……」


 ボーデンはすぐに誤り、大人しくなる。


 しかし、なんでアリスがボーデンを連れて、この地下にきたのか未だに理由を教えてもらっていない。


「よし、それなら今ここで私と戦え!」


「はぁ?」


 ボーデンは面倒そうな声を上げた。


 アリスが何を言い出すかと思えば、いきなりこの地下で自分と戦えというのだ。


 闘う気の全く無いボーデンにとっては、突然の事である。


「いきなり何を言い出すんですか⁉︎ 俺はここに調べにきただけで……」


 プシュ!


 頬の部分に皮膚を斬った音がした。


 よく見ると、右頬を斜めに刃物のような鋭利が通過した痕があり、そこから血が流れ始めている。


「––––‼︎」


 ボーデンはすぐに飛び起きて、アリスから距離を取る。


「次はただの擦り傷では済まないぞ」


 アリスは右手から炎の球を宙に浮かせている。


「……」


 ボーデンは右頬に手を当てて、流れる血を見た。


 至近距離での狙ったところに当てる能力。目の前にいる馬鹿でかい魔力は、さっきまでとは比べものにならない。


 チラッとラミアの方を見る。


「……」


 ラミアもまた、黙ったままボーデンの方を見つめていた。


 何も言わない彼女から何かを感じ取り、ボーデンは目の前に立つアリスの方を見た。


「ふぅー。本気で戦っていいんですね?」


「ああ。私も死なない程度に加減して戦ってやる。遠慮は要らない。全力でかかってきな!」


 アリスはニヤリと笑う。


「すーはー、すーはー……」


 呼吸を整え、戦闘準備に入る。


 アリスの魔法系統は、今、目で見ているだけでは『火・炎』。これが彼女の王道といったところだろう。他に何が飛び出すのか、まだ、情報が足りない。


「ふん!」


 ボーデンは、地面から細かな砂を一か所に集め始めた。


「へぇ、砂鉄を集めるか……」


 アリスはボーデンが今、しようとしている事をすぐに理解した。


 地面から右手に吸い寄せられるように集められているのは、黒い小さな粒、砂鉄だ。


 自分の右手の部分を磁石の原理で磁力を強め、錬金術の様に砂鉄が鉄の塊に変わり、そこから剣へと形が変わった。


 それを見たアリスは、炎の球を違う形に変える。


炎よ、剣となれフラマ・ノータスグラディオ


 アリスもまた、自ら自分の魔法の構築を組み換え、炎剣にする。




「鉄と炎、どっちが勝つんだ?」


「さぁ、どうかしら? 鉄は熱を通すけど、炎を斬ることもできる。でも、これは魔法よ。どっちが有利とか、不利とか、無いわよ。簡単に言えば、使い手ね」


「使い手か……」


 エレキとラミアは、少し離れた場所で、二人の様子を観戦する。


「でも、この戦い、完璧にボーデンの負けよ」


「はぁ?」


 エレキは呆気あっけに取られる。


「彼女とは十数年以上もあってないけど、少しずつ戦い方や魔法の使い方が変わってきている。ほら、歳によって変化を求める人っているでしょ?」


「いるな。喧嘩やスポーツでも歳を取ることで自らのスタイルを変える人。でも、変えるのにも相当な勇気がいるし、何よりも時間が問題しないのか?」


「そうね。私は昔から戦い方は変わっていないけど、人間は寿命が私より短いでしょ。何かを得るには必ずしも何かを犠牲にしないといけない。魔法では、矛盾しているけど、錬金術では成立する。この世界は何かしら便利になっているかもしれないけど、それとは逆に不便になっているの。ま、話はこれぐらいにして見れば分かるわよ」


 ラミアはそう言って、二人の戦いを見守る。




「さぁ、どっからでもかかってきな!」


 アリスはボーデンに挑発する。


「……」


 だが、ボーデンはその挑発には乗らずに微動だともしない。


(なんだ……? この嫌な感じは……)

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