Ⅸ
アリスは、
「いや、なんでもありません……」
ボーデンはすぐに誤り、大人しくなる。
しかし、なんでアリスがボーデンを連れて、この地下にきたのか未だに理由を教えてもらっていない。
「よし、それなら今ここで私と戦え!」
「はぁ?」
ボーデンは面倒そうな声を上げた。
アリスが何を言い出すかと思えば、いきなりこの地下で自分と戦えというのだ。
闘う気の全く無いボーデンにとっては、突然の事である。
「いきなり何を言い出すんですか⁉︎ 俺はここに調べにきただけで……」
プシュ!
頬の部分に皮膚を斬った音がした。
よく見ると、右頬を斜めに刃物のような鋭利が通過した痕があり、そこから血が流れ始めている。
「––––‼︎」
ボーデンはすぐに飛び起きて、アリスから距離を取る。
「次はただの擦り傷では済まないぞ」
アリスは右手から炎の球を宙に浮かせている。
「……」
ボーデンは右頬に手を当てて、流れる血を見た。
至近距離での狙ったところに当てる能力。目の前にいる馬鹿でかい魔力は、さっきまでとは比べものにならない。
チラッとラミアの方を見る。
「……」
ラミアもまた、黙ったままボーデンの方を見つめていた。
何も言わない彼女から何かを感じ取り、ボーデンは目の前に立つアリスの方を見た。
「ふぅー。本気で戦っていいんですね?」
「ああ。私も死なない程度に加減して戦ってやる。遠慮は要らない。全力でかかってきな!」
アリスはニヤリと笑う。
「すーはー、すーはー……」
呼吸を整え、戦闘準備に入る。
アリスの魔法系統は、今、目で見ているだけでは『火・炎』。これが彼女の王道といったところだろう。他に何が飛び出すのか、まだ、情報が足りない。
「ふん!」
ボーデンは、地面から細かな砂を一か所に集め始めた。
「へぇ、砂鉄を集めるか……」
アリスはボーデンが今、しようとしている事をすぐに理解した。
地面から右手に吸い寄せられるように集められているのは、黒い小さな粒、砂鉄だ。
自分の右手の部分を磁石の原理で磁力を強め、錬金術の様に砂鉄が鉄の塊に変わり、そこから剣へと形が変わった。
それを見たアリスは、炎の球を違う形に変える。
「
アリスもまた、自ら自分の魔法の構築を組み換え、炎剣にする。
「鉄と炎、どっちが勝つんだ?」
「さぁ、どうかしら? 鉄は熱を通すけど、炎を斬ることもできる。でも、これは魔法よ。どっちが有利とか、不利とか、無いわよ。簡単に言えば、使い手ね」
「使い手か……」
エレキとラミアは、少し離れた場所で、二人の様子を観戦する。
「でも、この戦い、完璧にボーデンの負けよ」
「はぁ?」
エレキは
「彼女とは十数年以上もあってないけど、少しずつ戦い方や魔法の使い方が変わってきている。ほら、歳によって変化を求める人っているでしょ?」
「いるな。喧嘩やスポーツでも歳を取ることで自らのスタイルを変える人。でも、変えるのにも相当な勇気がいるし、何よりも時間が問題しないのか?」
「そうね。私は昔から戦い方は変わっていないけど、人間は寿命が私より短いでしょ。何かを得るには必ずしも何かを犠牲にしないといけない。魔法では、矛盾しているけど、錬金術では成立する。この世界は何かしら便利になっているかもしれないけど、それとは逆に不便になっているの。ま、話はこれぐらいにして見れば分かるわよ」
ラミアはそう言って、二人の戦いを見守る。
「さぁ、どっからでもかかってきな!」
アリスはボーデンに挑発する。
「……」
だが、ボーデンはその挑発には乗らずに微動だともしない。
(なんだ……? この嫌な感じは……)
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