エルザはまともな回答しかヤンに返さない。


「姉さん、お金というのはコツコツ貯めるのは、俺には合ってないんですよ。一発逆転の博打をしないと、仕事なんてやっていけないですしね」


 ヤンは、エルザに入れてもらったお茶を飲む。


「まぁ、でも、今回に限っては俺、死にかけたし、相当な活躍も見せたんだから国からもう少し貰ってもいいはずなんですがね……」


 そう言いつつ、バルトの方をチラッと見る。


 だが、書類にうもれているバルトは、ヤンの事なんか全く相手にしていない。


「出るわけがないだろ? 今回の件に関しては、まだ軍に知らせていない。俺達、独自で動いているんだ。俺の財布から出たくらいで十分足りる。そんなに大金が欲しかったら働いて貯めるんだな。ギャンブルで勝つ事ができる奴は運を持っている奴だけだ」


 バルトは、ヤンに対して呆れを通り越していた。


「なんで、話さないんすか? ありゃあ、隠し通せる事じゃないですよ。特にあの脳筋から情報が漏れたらどうするんですか……」


「その点は大丈夫だ。しっかりと対策してある。それにこの件に関わっているのは我々だけではない。隣国の俺の知り合いにしっかりとリークしてある」


「もしかして、少佐の苦手なあの人ですか?」


「ああ、まぁ、奴が苦手である事は変わりないが、信用はできるだろ?」


「確かにあの人だったら少佐はともかく、エルザさんでなんとかなりますからね」


「あら、あの人が私に優しくしてくれるのは、少佐がいつも彼女に対して悪態つくからですよ」


 エルザは、手をハンカチで拭く。


「それもそうですね」


 ヤンは小さな欠伸をする。


 室内には、バルト、エルザ、ヤンの三人しかいない。室外には廊下があり、足音が廊下から聴こえない。


「で、今回の件……。今後、どう進めて行くつもりなんですか?」


 ヤンは目付きを変えて、声色を低くした。


 ヴィルヘム国内で起きた列車事故。


 表向きではただの脱線事故となっている。ボーデン達が『十戒』と名乗る男と交戦した痕跡は、他の部隊が到着する前に証拠品となる物と一緒に揉み消した。


 おかげで、まだ、ボーデン達が軍に捕まっている報告は、まだ、耳にしていない。


「とりあえず、様子見だ」


 と、バルトは答えた。


「敵が動かない限り、こちらがどうもこうもできん。まぁ、奴らが動くとするならば、今、あいつらがいるメルシュヴィルだろうな」


 バルトが書類に目を通しながら話を進めた。


「行かなくてもいいんですか?」


 ヤンが訊く。


「大丈夫だ。向こうにはこの世で最も恐ろしい女国家魔法師が聳え立っているからな。彼女がいる限り、まず、街の壊滅は無いだろうな」


「誰っすか、その謎の魔法少女は……」


 ヤンは、冗談で言っているのかとバルトを疑う。




「老化しないこの世で恐ろしいババアだよ……」




     × × ×




 地下へ続く階段を抜けると、そこには昼間のような明るさで自然をベースとした空間が無限に広がっていた。


「おいおい、なんだよ。この街の地下にこんな空間が広がっているのか?」


 ボーデンがそれを目にして驚いていた。


 外と変わらず、本物の木や水があり、ここで生活していけるくらいの十分な場所だ。


「相変わらず、どこを拠点においてもあなたのこの造りは変わらないわね」


 ラミアがアリスの方を見た。


「別にいいだろ? 自然を壊しているわけでもなければ、この空間は魔法で造ったもの外からは何も干渉できないからいいんだよ」


「でも、外でいろんなものを破壊するよりかはまだマシね」


「懐かしいな。昔はよく、二人でどのくらい潜っていたっけ?」


「さーね。昔の事だからよく覚えていないわ」


 ラミアは、今の光景を見て、昔を懐かしむ。


「さてと……」


 アリスはボーデンを自分の前に放り投げた。


「いてぇ!」


 尻餅をついて、手でさする。


「何するんだ⁉︎」


 ボーデンはアリスに叫んだ。


「ああ? 何か文句でもあるのか?」

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