Ⅶ
「いや、この姿での戦闘だったけどね」
「なるほどね。ラミアの半分くらいの力でも倒せない相手、久々に面白そうな事が起こっているじゃない」
アリスが笑った。
ボーデンにその笑みが移り、寒気が走る。
この女を敵に回してはいけない一人。いや、十戒よりも
「それにしても国際魔法師の少年。いや、ボーデン・レタリックと言ったかな」
「まだ、自己紹介もしていないのに名前を知っているんですね」
名前を呼ばれて、慎重に言葉を選ぶボーデン。
「そりゃあ、もう……私を差し置いて、最年少で魔法師の頂点、国際魔法師の
アリスは、笑顔で威圧感を与え、言葉で
「そ、それは……俺にも目的というものがありましてね……これを取るのにも相当地獄を見てきたんですが……」
ボーデンは、苦笑いをして答える。
「何が地獄を見てきただ。若造がその歳で人生をなめるなよ」
アリスが身を乗り出す。そして、ボーデンの胸元を握った。
「ラミア、このクソ生意気魔法師を根性から叩き直してもいいよな?」
「ええ、私の下僕が死なない程度にお願いするわね」
「
「契約もしたも何もそれがどうだって言うんですか!」
アリスの腕を振り解こうとするボーデンは叫びながらもがく。
だが、アリスは力を緩める事なく話を続ける。
「そうか。まだ、その意味を全く理解していないらしいな。いいだろう。その理由を私が教えてやる。ついて来なさい。そこの大男も一緒にね」
アリスはそのままボーデンを連れて行く。
エレキの前を通り過ぎる時。
「あの……俺、エレキっていう名前なんですけど……」
だが、アリスはそのままボーデンを引っ張ったまま、別の扉を開く。
奥は薄暗く、地下へと続く階段が底が見えないほど続いていた。
「相変わらず悪趣味なものを作ったわね。もしかして、昔より腕を上げたのはそのおかげかしら?」
ラミアも立ち上がってアリスの後を歩く。
「何してるの? 置いて行くわよ」
ラミアはボサッとソファーに座っているエレキに言った。
「あ、俺も行くのね……」
エレキも最後列に並び、地下へと歩いていった。
× × ×
サールバーツ・軍本部––––
「少佐―、特別報酬くれよー」
男はソファーで横になりながら駄々をこねていた。
再び書類の山に埋れていたバルトは、頭を悩ませていた。
書類に部下からの野次、次から次へと負の連鎖ばかりがバルトを襲い掛かる。手伝いを一切してくれないエルザは、自分の仕事をある程度済ませて、お茶をしていた。
「めんど……」
小声で何か言っている。
「なんですか? 仕事をほったらかしにしていたあなたが悪いんでしょ? 少しずつ、毎日コツコツと仕事をしないからこうなるんですよ。何度も言いますが、自業自得です」
エルザが、バルトの声を聞き漏らさずに心に刺さる言葉を放った。
「面倒なんだよ! あれ以来、仕事の量が多くなってないか⁉︎ 冗談じゃない。軍は、書類整理の仕事じゃないぞ!」
バルトはキレた。いや、もう最初から仕事自体を諦めていた。
「お前にはしっかりと報酬をやっただろうが!」
バルトは、男の方を指差した。
「いやー、あれだけじゃ足りませんって、俺、下手したら死にかけていたんすよ。エルザさんも何か言ってやって下さいよ」
男はエルザに助けを求める。
「その件に関してはあなたが悪いですよ」
「いや、あれは少なすぎでしょ……」
「ヤン、あなた、またギャンブルに全て投資しましたよね?」
エルザが男の名を「ヤン」と呼ぶ。
男の名はヤン・アルバート。
ヴィルヘム国出身、現在、サールバーツ司令部勤務、バルトの直属の部下である。
「投資じゃない。あれを貯金だと言って欲しいね」
ヤンは、起き上がって座り直す。
「何が貯金よ。ああいったのは8割がた負けるようになっているのよ。貯金するなら自分の口座に残しておいたらどうかしら?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます