Ⅵ
「国家魔法師は自分の研究をいくつか制限されているが、国際魔法師になるとそれは別だ。あの人の研究は、普通の国家魔法師の研究とは別格、むしろ国際魔法師の研究に近く、その手前で留まっている。ほぼグレーな国家魔法師だよ」
「おいおい、それってまずいんじゃないのか? 俺、一応、軍人なんだが……」
それを聞いて驚いたエレキが、ボーデンに言った。
「いいんだよ。どうせ、お前は見て見ぬ振りをしてくれんだろうし、あの人もそれを見越して中に入れたんだろうしな」
ボーデンは顔だけを後ろに向けて、女が研究している事を目で見た。
(しかし、どうやったらあんな際どい研究が出来んだ? 俺でもやった事が……いや、一度だけあるか……)
その研究に頭を悩ませながら考えた。
「それは長年の経験と知恵、知識、人脈、発想の転換だ!」
と、コーヒーを入れてきた女が二人の前にマグカップを二つ置き、再びソファーに座った。
「そうだった。まだ、自己紹介がまだだったな。私の名はアリス・キャロル。永遠の二十六だ」
「は?」
「へ?」
「……」
一瞬にして、部屋の空気が南国から北国へと一変した。
笑顔で言うアリスに対し、エリキは飲もうとしていたコーヒーを飲むのを止め、ボーデンは表情が固まり、ラミアは一瞬コーヒーを吐いた。
「ん? なんだ、その嘘みたいな疑いを向ける表情は––––」
パリンッ!
アリスが持っていたコップが割れ、破片が飛び散り、手にはコーヒーが流れる。
「ババアがよく言ったものね。二十六って嘘を言うのはやめた方がいいわよ」
「え……えええええええええ!」
エレキが大声を上げた。
「いや、驚く所じゃないだろ。話から考えたら二十六じゃない事自体お前の頭でも分かるだろ……」
呆れた顔をするボーデンは、溜息を漏らした。
ラミアは、口元を袖で拭き、口直しにコーヒーを再び飲み直す。
「アリス。嘘をついてもあなたの体は歳を取らなくても本当の年齢。神に近づいた代償がそれなんだから、最後に死ぬ運命なんて残酷よ」
「そんな事、本当のロリババアに言われたくないね。私より何百歳も上なくせにいつになったらくたばってくれるのかなぁ?」
「あら、私の場合、寿命とか関係ないの。人間はいつか寿命が来るけど、その歳を維持している貴方はいつ死んでもおかしくないのよ。その姿、まだ解けないのね」
ラミアはアリスの若き姿は久々に見て、そう言った。
「仕方ないだろ? これが神の道を進んだ代償なんだから……。今更、この体がどうなろうと分かっているのは本人自信だから私がいつ死ぬのかもわからないこの体がある限り、若いうちに完成させておかないとけないからね」
アリスはそう言って、魔法を使いながらコップを修復した。
「それであんた達は私のところに何の用できたんだ?」
鋭い眼差しで、ボーデンの方を見た。
「あ、それなんですが……この街の鉄鉱山の遺跡について訊きたい事が……」
「あの遺跡か……。あそこには何もないよ」
「へぇ?」
ボーデンは驚く。
「あそこの遺跡には何もない。ここ何十年も調査していたが、何一つ目立ったような情報を手に入っていない。でも、なんで遺跡の事が知りたいんだ?」
アリスがボーデンに質問を投げ返す。
だが、その話にラミアが割って会話に参加する。
「そこに何かがあるからよ。まだ、貴方の知らない何かがね……」
「何か、道中で遭ったの?」
それを察してアリスがラミアの方を見る。
「遭ったと言えば遭った。でも、あれは厄介な相手よ」
「どこの連中だ?」
「十戒……」
「十戒? 聞いた事のない名前ね」
アリスは額にシワを寄せる。
「私もここ何百年生きて中で初めて聞いた名前だったわ」
「そんなに強いのか?」
「まぁ、国際魔法師のボーデンでもギリギリ、いや、上回っていたわね。私が加わっても一人だけで強かったわ」
「なるほど……」
アリスはそれを聞いて考え込む。
十戒のメンバーの一人を相手にしても、ラミアと同じくらいの戦闘力を持った人間が結構必要になる。
「それは吸血鬼の万全なお前の姿で戦って……なのか?」
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