ラミアは眉をひそめ、厳しい表情をしていた。


「お前の知り合いは昔からあーなのか?」


「そうね。昔から喧嘩っ早くて、どこでも揉め事を起こす子だったけど、魔法の知識に関しては、貴方以上よ。一瞬でも気を抜いたら、私でも手が付けられない。そう思っていて……」


 ラミアはそう言い残すと、部屋の奥へと歩いて行った。


「お前はどう思う?」


 話の蚊帳かやの外にいて、扉を一人で直しているエレキにボーデンは訊いた。


「いや、どっちもおっかない二人だろ……。お前、よくあっちのちび助の方と一緒にいられるよな」


「まーな……」


 外れた扉と柱を地面に散らばっているネジで繋ぎ止める。


「それにしてもよー。少佐は、なーんであの女を知っていたんだろうな。国家魔法師なんだろ? 国際魔法師だったら数少ないから名前だけ知っている奴が多いいが、国家魔法師になると、数えない程の魔法師がいるんだぜ」


 エレキは、扉をパンパンと叩き、元通りに直した。


「彼女の場合、国際魔法師になる力は持っていたらしいが、ならなかったと言う話を聞いたぞ。俺もその話をさっきまでは信じられなかったが、今ので確信が持てた気がする。見ただろ? ラミアの瞳が赤くなった所を……」


「ああ、ありゃあ、人間じゃ無いな」


「あいつの正体は吸血鬼。この世界では数少ない種族だ。後はお前の頭でも分かるだろ?」


「この世界においては嫌われ者の種族でもあり、誰もが手に入れたいものでもあるだろ?」


 ズボンのポケットに左手を入れ、ボーデンと共に部屋の中へと入って行った。


「それでお前と一緒にいるのが納得できるな。国際魔法師のお前なら、彼女といてもそのほとんどが許される。まあ、吸血鬼の存在をどこまで隠し通す事ができるかが時間の問題だけどな」


「時間の問題は分かっている。だが、あいつの力なしではこれから先、困難になるとも言えるんだよ」


「そっちの問題じゃない」


「何?」


 ボーデンはエレキの方を見た。


 自分が思っていた事と違う意見を言い始めるエレキは、少し考えながら言葉を口にした。


「いいか? 吸血鬼は世界中各国にとって貴重な実験材料なんだぞ! 今は少佐がなんとかしてくれているようだが、俺たち以外の信用できない人間にバレたらどうするんだ! お前は国外に逃れるのも難しい、情報はすぐに隣国に行き渡り、最悪であれば、お前の目的も果たせずに死んでしまうかもしれんぞ」


「なんだ、そんな事か……」


 ボーデンは溜息を漏らす。


「は? いや……そんな事かって……お前、俺の話を聞いていたのか?」


「聞いてるよ。それがそんなリスクを知らないで言ったのか? だったらお前は、本当の馬鹿だな」


「なんだと⁉︎」


 エレキは少しムキになる。


「この旅の途中で妙な連中と会った話はしたよな?」


「ああ、お前が鍵だとか、なんとか……」


「つまりはラミアなしでは俺はやってけないって事だよ」


 先に部屋の奥へと入って行った二人がいるであろう扉の前に立った。


 そして、ドアノブを右に回して、扉を開けた。


「失礼します!」


 ボーデンが勢いよく先陣を切って、中に入る。


 中は薄暗く、周りには大量な研究の書物と材料が散らばっていた。


 試験管の中には今、研究中のものがいくつも入って、現在進行形で新たな魔法の研究をしている様に感じた。


「ようやく来たか、二人共。遅かったな」


 部屋の奥でソファーに座り、のんびりとコーヒーを飲んでいた女が笑って言った。


「あんたが壊したんだろうが、あんたが……」


 ボーデンは呆れた表情で言う。


「まあ、座れ。どっちもコーヒーでいいよな?」


「あ、ああ……」


「はい……」


 二人は返事をして、ソファーの手前にあるそれぞれの椅子に座った。


「ボーデン、この研究の量を貴方だったらどれくらいの年月だったら完成できるのかしら?」


 隣に欠伸をしながらソファーに横になっているラミアが話しかけてきた。


「分らねぇーよ。人の研究なんて、そのほとんどが暗号化されていて、解読するのにも時間がかかるし、それを実現しようと思っても出来るとは限らない。俺が見る限りでは、これは一年や二年で研究している内容じゃないな。よくて十年から十五年と言った所だろうよ」


「へぇ、貴方にしては鋭い観察眼ね。私もそう思うわ」


 ラミアが笑う。


「?」


 エレキは首を傾げながら話についていけずに困った顔をする。

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