Ⅶ
そもそも分かっていた事だ。
彼女が吸血鬼である以上、こうした太陽の下での活動は、夜よりも鈍くなる事自体、ボーデンの頭の片隅に入っていた。
「じゃあせめて、おぶってやるから向こうに着いたら飯でも買ってきてくれよ」
「分かったわよ」
「よし、乗れ。ここからなら魔法を使っても大丈夫だろ?」
ボーデンはラミアを背負う。
「そうね。ここからだったら次の駅までの手前までだったら人に会うことなんてないと思うわ」
ラミアが言うと、ボーデンはニッ、と笑う。
「そうか……。手前までだったら大丈夫なんだな?」
ボーデンは、両手を合わせる。そして、土に指で魔法陣を描くと、その上に立つ。
「しっかり掴まってろよ!」
「ええ……」
ラミアはしっかりとぼーでんから離れないようにしがみつく。
魔法陣が光り出す。
「
呪文を唱えると、ボーデンの体が宙に浮かぶ。
そして、そのまま空を飛び始めた。
「やべぇ、風が思っていたより気持ちぃ!」
風を使って、どんどん距離を伸ばして行く。さっきまでいた地点がいつの間にか、米粒のように小さくなっていた。
「こんなに早く移動できるなら最初からこうしておけばよかったわね」
「馬鹿言うなよ。いくら、国家魔法師でも魔法を使い続ければガス欠になるってーの。本当は、こんなところでもあまり使いたくなかったんだからな」
「はいはい、感謝してるわよ。だから、私も少し力を貸してあげるわ」
ラミアは、ボーデンの背中に人差し指で何かを書き始めた。
すると、魔法を使い続けるボーデンの体が、次第に軽くなって行くのを感じる。
「何をした?」
ボーデンは顔だけ後ろに振り向く。
「何も……ただ、半分だけ私の力を貸しているだけよ。途中で疲れてもらうと困るしね……。それに目的地までは、相当な距離よ、これ……」
「だよな……。俺も地図は一通り見たけど、ありゃー、相当退屈な旅を強いられているぞ」
「でも、それが今になっては逆になったんでしょ」
ラミアは、ボーデンの顔色を伺って、微笑む。
「まーな。退屈せずに済みそうな事だけは、保証されているだろうよ」
話しているうちに列車が停車しているはずの次の駅が見えてくる。
「どうやら次の駅には着いたようね」
「そうだな。あそこの一キロ手前の場所でいいか?」
「そうね。私もだいぶ回復はしているからそれくらいは大丈夫よ」
ボーデンたちは、次第に速度を落としながら地上へと近づいて行く。ゆっくりとキューブレーキを掛け、地上へと舞い降りる。
「––––と、着いたものはいいものの……。次の駅で折り返しの列車が来なかったら終わりだぞ」
ラミアは、背中から降りると、隣を歩き始める。
「その時は泊まるしかないでしょ。でも、まずは電話よ」
「分かってはいるが、軍に繋ぐ電話回線は話を盗聴される可能性が高い。こればかりはどうにかして誤魔化すしかないんだよな」
ボーデンは悩んでいる。
事故現場から次の駅まで結構な時間がかかり、太陽が西に傾き、夕方になりつつある。
二人の影が東に長く伸び、歩くたびに一定の長さを維持する。
近づくたびに街の駅が見えてくる。駅のホームには、人だかりが出来ている。
「おいおい……。もう、噂が広まっているんじゃないだろうな?」
「そう見たいね。だって、予定の時刻に到着してないのよ。それに列車内の電話は壊されているし、向こうの状況すら把握できていないと思うわ」
「だとするなら、換えの列車はまだ、到着していないと見ていいな」
「そのようね」
二人が街に到着すると、駅へと一直線へ向かう。
駅のホーム内は騒がしかった。
「おい、一体いつになったら来るんだ⁉︎」
「早くしてくれよ!」
「何時間、待たされるんだ⁉︎」
人々が駅員に文句を言っていた。
「お、落ち着いてください‼︎ 今、こちらで事情を調べておりますので、もうしばらくお待ちください!」
と、対応に追われていた駅員人々に囲まれ、困っていた。
「いや、これは結構な時間が掛かるんじゃねぇーの?」
「そうしか言いようがないわね……」
二人はその光景を見て、落胆する。
騒ぎは次第に大きくなっていく。
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