二人は駅のホームのベンチに座り、騒ぎが収まるのを退屈そうにただずっと待ち続ける。


 街に所属する軍人も駆けつけ、人々の対応に追われている。おそらく、後一、二時間は、ずっとこの状況が続くのであろう。そうなると、やはり、宿を探さなくてはならなくなる。


「で、どーすんのよ、これ……?」


「さぁ、私に言われてもわからないわ……」


 二人の中には、罪悪感がある。


「でもー、人は誰一人も怪我していなかったから大丈夫だよなぁ?」


「どうかしら?」


「それでよぉ……メルシュヴィルに行くにはどうすればいいと思うか?」


「列車移動以外あると思う?」


「徒歩、魔法、車の移動、自転車……。全部、ダメだな……」


「諦めた方が身の為よ」


 ボーデンはがっくしと、肩を降ろす。


 一応、駅のホーム内には列車が二台保管されているが、代行として発車する予定はないらしい。


「何か放送があるまでここで足止めを喰らうのかよ……」


 二人は放送が流れるのを待ち続ける。




 × × ×




 ボーデンたちが姿を消してから四時間後––––


 事故現場は変わらず、列車が止まったままだった。


「これをどうしたらどうしたで、こうなってしまうのだ?」


 バルトは、現場に直行して最初に口にした言葉だった。


 脱線はしているものの、窓は割れ、壁や車輪がボロボロ、おまけにレールさえもダメになっていた。


 人々は、バルトの連絡した軍隊の車に乗せられ、救助されて行く。


 実証見物を行なっているバルトは、車体を触り、魔法の痕跡を探る。


「それで、実際にはどうだったんだ?」


 バルトは、近くにいる男に話しかけた。


「そうっすね。一言で言えば、厄介です……」


 男がそう言うと、バルトはポケットに手を突っ込みながら屋根に飛び移った。


「厄介ねぇ。あっさりと一言にまとめたなぁ……」


「でも、本当にあれは正面からやりあったらやばかったと言ってもいいと思いますよ」


「それは俺が相手であってもか?」


 バルトは男を睨みつける。


「ま、一人だったら苦戦するでしょうね。あんた、時々やらかすから……」


「……」


 バルトは、言い返す言葉がない。


「少佐‼︎ こちらの移動は終わりましたので、この後、どうしますか?」


 乗客の誘導を終えたエルザが、下の方から呼びかけてきた。


「もう少しだけ、調べてみる。君は、彼らがいると思われる次の駅に向かってくれ。俺も後で追いつく」


「分かりました。では、先に行っていますね」


「ああ、頼む」


 エルザは、自分の車に乗り込み、次の駅へと向かった。


「いいんですか?」


「何がだ?」


 男は、バルトを心配して訊く。


「彼女がいなかったらあんたはただの無能ですよ」


「ほう? 俺のどこが無能だと言いたいのかね?」


「それですよ。それ……」


 男はバルトを指差す。


「彼女は優秀のくせにあんたの下で働き続けている。もし、彼女がいなかったら俺らの隊は、一番下の弱小ですよ」


「それを本人の前で言うか?」


「言いますよ。だって、信用されてないんですから……」


「……」


 再び黙るバルト。


 男の言う通り、エルザがそばに居ないとほとんどの行動範囲が狭まるバルトであり、彼の持つ魔法は、元を言えば、彼女のおかげでもある。


 事故現場は、激しい戦いを繰り広げられた事は、魔力の強い魔法使いにとっては、見ればすぐに分かる。


(派手にやってくれたようだが……。なるほど、その割には乗客のことを考えての戦い方だったか……)


 バルトは屋根から飛び降りる。


「それでどうでしたか? 何か得るものなどは……?」


「いや、何もなかったが……。この先、彼らの行く手に奴らがいる事だけが、今の手がかりだな」

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