第3章 闇の奥底
Ⅰ
「ねぇ、約束のアレは用意、出来てるの?」
闇に潜む世界で誰かが話をしていた。
「ええ、用意は出来ていますよ。後は、実行に移すだけです」
女に報告する男は、不気味な笑みを浮かばせた。
「そう、だったら一日でも早く実行しなさい」
「分かりました。すぐに実行に移しましょう」
男は、一礼する。
「それで、何ですが……」
「何かあったの?」
「はい……」
男は、頭を上げると一通の手紙を女に渡す。
「私の部下が手に入れた情報です。おそらく、数日後にはここに訪れると思われます」
女は手紙を全文読み終えると、炎で燃やし消した。
「分かったわ。道中で足止めが出来るように攻撃を仕掛けなさい。でも、死なない程度にするのよ」
「分かりました。それでは––––でどうでしょうか?」
男は、提案をする。
女はそれを聞いて、フッ、と笑い、小さく頷く。
「いいわ。好きにやりなさい。上の方には、私から伝えておくわ。くれぐれもしくじらないようにしてちょうだい」
女が許可を出すと、男は音を出さずに静かに闇の中へと姿を消した。
「それにしてもやってくれるじゃない。あの男、腹黒いわね……」
女は鋭い目付きで、舌打ちをした。
× × ×
翌日––––
朝起きると、冷たい風が窓と壁の小さな隙間から部屋の中へと入ってきた。布団の中は暖かく、時計を見ると、朝の六時半過ぎ。
エルザが起こしに来るまで1時間以上もある。
反対側のベットでは、未だにスヤスヤと寝ているラミアがいる。
ボーデンは、ベットから起き、トイレを済ませ、再びベットの上に座り、バッグの中から一つの小さな書物を取り出す。古く使い果たされたものであり、ページによっては汚れがついて、小さな傷や破れた所もある。
書物の中には、原点に振り返る最初に学んだ基礎的な魔法の原理についてだ。どこにでも置いてある書物は、ボーデンにとっては長年の相棒なのだ。
時間が来るまで読み耽る。
十分が過ぎ、二十分が過ぎ、三十分が過ぎて行く。チラッと時間を見ると、七時十分を過ぎていた。
「げっ、もう、こんな時間になったのかよ!」
ボーデンは慌てて書物を閉じ、ラミアの方を振り返る。
「ラミア‼︎ 朝だ、起きろ!」
と、叫んだが、さっきまでいたはずのラミアの姿はどこにもない。
「あ、あれ?」
ボーデンは首をかしげる。
「何叫んでいるのよ? バカじゃないの?」
ラミアは、丁度シャワーを浴び終えた所だった。
「あ、起きてたのね?」
ボーデンは、さっぱりとした髪を見て、安堵した。
「それにしてもさっきまで何を読んでいたの? 私が呼び掛けても何も反応しなかったじゃない」
ラミアは髪を整えて、服を着る。
「ああ、魔法の原理についての基本的なものだ。時間があったからな、暇つぶしに読んでいただけだ」
「ふーん。ま、私には関係ないわね」
「そう言う事だ」
ボーデンは、荷物をまとめる。
コンコン。
と、ドアをノックする音が聞こえてきた。
部屋の中にエルザが軍服姿で入ってきた。左手には、書類を持ち、眼鏡をかけている。
「おはようございます。朝食の用意が出来たので呼びに来ました」
エルザはボーデンとラミアを見る。
「あら、今日は眼鏡を掛けているのね?」
ラミアがエルザを見て、不思議に思った。
「あ、これは……。朝は早いですからね、コンタクトをつける時間がないんですよ」
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