Ⅴ
受け取った手紙のシールを剥がし、中の手紙を取り出す。二折りされていた手紙を開き、バルトは、黙読する。
書いてある事はバルト以外には分からないが、おそらく何かしら重要な事を伝えているのだろう。バルトは難しい表情で手紙を読み終えると、目の当たりを手で押さえ、天井を見上げた。
「あー」
と、脱力感のある声を漏らす。
「何かあったのですか?」
エルザが訊く。
バルトは、体勢を元に戻し、髪を整えると、立ち上がって窓の所まで行くと、窓を開け、手紙を折り畳んでポケットの中に入れていたライターの火で燃やした。
燃やし終えた後、再び窓を閉じ、ソファーに座りなおす。
「ボーデン」
「なんだ、少佐?」
「少し、頼み事でもしてもいいか?」
「頼み事?」
ボーデンもそれを聞いて、真剣に話を聞こうとする。
ヴィオレットの手紙に何が書いてあったのかは、誰にも知らされていなかったが、バルトがすぐに頼み事をすると言う事は、内容は軍、魔法、国のいずれかに当たる。
ヴィルヘム国には隣接国がいくつもあり、それぞれの国での規則がある。国と国との戦争はないものの、政治的な戦争は、議会である。
ヴィルヘム国とベルフォール国は、隣接国でありながら食糧生産量のトップを争っている。特に麦の生産量や野菜の生産量では僅差でどちらかが一位でどちらかが二位である。
「すぐに隣国のキルヒベルク国・メルシュヴィルに向かってくれ。詳細の手紙はすぐに準備をしよう」
「あの中立国にか? 一体なぜ?」
ボーデンは腕組みをして、詳しい内容を訊き出す。
「メルシュヴィルでここ最近、不穏な動きがあったらしい。俺も行きたい所だが、この手紙には貴様が行くようにと、指示されていた。あの女も貴様だったらどうにかなるかと思っているのだろう」
「怖いっすね。あの大佐も……」
「全くだ。俺の苦労など、これっぽっちも思っちゃいない」
「それって、事実ですよね。苦労なんてしていませんよね」
エルザはヴィオレットの意見に納得していた。
「なるほどね。そのメルシュビルという街は一体どういう所なのかしら?」
ラミアは最後までコーヒーを飲み干してから口を開いた。
「キルヒベルク国の北にある街です。ヴィルヘム国とキルヒベルク国との国境線ギリギリの所にあります」
エルザが答えた。
「そこには古代魔法の
バルトは、メルシュヴィルについて詳しく補足として説明を加えた。
メルシュヴィルには、古代魔法の遺跡が存在している。国家魔法師、国際魔法師など、各国の研究者や学者は、古代魔法の真実を知る為に長い年月をかけて調べている。
だが、ボーデンはその土地を一度も訪れたことがない。古代魔法にすら、そこまで興味が無いからである。ボーデンの旅する目的は、元の世界に戻る事。だからこそ、今回の調査のついでに立ち寄るのは、いい刺激になるだろう。
「古代魔法の遺跡か……。また、面倒な所に行く羽目になるのかよ……」
ボーデンは溜息をつく。
「まあ、そう言うな。どうせ、貴様が帰る手段は見つかっていないのだろ? 少しくらい寄り道をしたとしても焦る必要はない。魔法の研究は、長年続けられてようやく生み出されるものだ。特に古代魔法や貴様の転移魔法は、長年の月日を重ねても見つけ出す事が出来るのかも怪しいんだぞ」
バルトは、ボーデンの後ろを後押しする。
「ラミアは、行ってみたいと思うか?」
ボーデンが、欠伸をして暇そうにしているラミアに訊く。
「そうね。興味が無いと言ったら嘘になるけど、行くか行かないかは貴方次第よ。私的には、言ってみたいわね。私的には!」
こうして、何度も遠回しに『行きたい』と言われると、ボーデンも困り果てる。
楽しそうに小さな鼻唄が聞こえてくる。
どうやら、どうしても行きたいらしい。ラミアは、メルシュヴィル行きを楽しみにしているのだ。
一度こうなってしまっては、手が付けられない。
ボーデンは、諦めて決心する。
「……分かった。行けばいいんだろ⁉︎ しっかりと報酬は出るんだろうなぁ?」
「もちろんだ。依頼を完了した際には銀行口座に振り込んでおこう」
バルトは、約束をした。
「だが、俺からもう一つ追加で依頼がある……」
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