ボンッ!


 だが、そこに謎の介入者が現れ、少年に襲いかかって来る獣を打ち消した。


「やれやれ、こんな奴に手こずってどうするの?」


 屋根の上から飛び降りて、少年の隣に立つ。


 長く綺麗な金髪に青い瞳の小柄な少女。


 もう一人の追跡者というのは、その少女の事である。一体、今まで姿を現さなかったのか、いつから二人の戦いを観戦していたのか。少年は、少しイラっときた。


「なんで、早く来なかったんだよ」


「いいじゃないの。こうして助けてやったんだし……」


 金髪の少女は、少年に対してデカイ態度を取っていた。


「ちっ……もう一人増えたか」


 男は舌打ちをして、歯を噛み締めた。


 この金髪の少女もまた、少年と同等の強さの持ち主である。例え、この紛い物を使い続けて戦うのは少し不利だ。


 残りの獣達もあっさりと倒されてしまう。さっきまで数十匹いたはずの獣達はいつの間にか、ゼロになっていた。


突風よプロサロサス‼︎」


 男は自分の魔力と紛い物の力を融合させて、次の攻撃に移った。


 周囲から突風が吹き荒れ、竜巻レベルの風が少年達に襲い掛かる。


「建物なんて御構い無しかよ!」


 少年は、突風のデカさに驚き、すぐに対策を練る。


「私に任せて!」


 その風の壁に、少女が立ちはだかる。


消滅せよコサ・アブレイシャノア‼︎」


 少女も魔法を発動させ、男の魔法を中和させ、打ち消す。


 風は収まり、周囲は無風になる。


「嘘……だろ……」


 男はびっくりした。若々しい少女がこんな力を持っていたとは考えてもいなかった。


 常識が通用しない相手。


「今のは……」


 思考が狂う男の頭の中には、目の前に広がる光景が信じられなかった。


「ふぅ……。今のは危なかったわね」


 平然と手首をゆっくりと回し、笑っていた。


 そして、少女のひとみがいつの間にか変化していた。


「その瞳は……まさか……!」


 男は少女の瞳に気づいて、彼女の正体に驚く。


 青い瞳が赤い瞳になっている。赤い瞳を持つ人間はこの世に存在しない。存在する人種は一つしかない。


「お前……吸血鬼か?」


「そうだったらどうする? 別に関係ないでしょ」


 少女は舌舐めずりする。


 その脅威を思い知った男は、地面に座り込み、後ずさりをする。


「さて、その紛い物を渡してもらおうか?」


「ひぃ‼︎」


 男は紛い物を目の前に投げ出した。


 それを少年は拾い上げて、手で宙に投げながらニヤリと、笑った。その笑みは、イタズラ坊主の様で何かを企んでいる。


「さて、この後はお楽しみー、地獄へのチケットをご用意しましょう」


 少年は紛い物を懐にしまい、手をボキボキと鳴らしながら男に近づいていった。


「や、やめろ……やめろぉおおおおおおおおおおおおおお‼︎」


 男は大声で叫びながら、少年の攻撃を抵抗できずにいた。




     ×     ×     ×




「おいおい、派手にやってくれたなぁ、おい……」


 戦闘現場ならぬ事故現場で、現場検証を終えたヴィルヘム国の軍服を着た男が、少年たちに近づいた。


「俺じゃねぇ。やったのはあいつだ。俺は奴から紛い物を奪おうとしただけだ」


 少年は男にそう言った。傷を負った額は、包帯でぐるぐる巻きに固定している。


「それにしてもまさか、お前がロリコンだったとはな……。世も末だな」


 男は腕を組みながら笑った。


「誰がロリコンだぁ‼︎ テメェーだけには言われたくねぇ。バルト少佐!」


 少年が叫んだ。そして、男の名に『少佐』と、軍の階級の名が載せられていた。


 男の名は、デニス・バルト。


 ヴィルヘム国の西部、サールバーツの街で少佐の地位に在籍している。


 各国でもそうだが、それぞれの街には軍の拠点があり、国民を守るためにいつでも動けるようにしてある。サールバーツもその一つである。


 バルトは、二十代の若さで少佐の地位まで出世し、少年にとっては仕事相手の一人である。


「それにしてもボーデン。俺の知らない間にそこの金髪の少女を見て、誰が驚かずにいるつもりだ? はっきりと説明しろ。国民は軍人に対して、必要な時には調査に協力するのは義務ってものなんだよ」


 ボーデンは、バルトにそう言われてジッと睨みつける。


「少佐。誰にも言わない約束をするなら俺も調査に協力してやる」


 ボーデンは、目をそらさずに言った。


 バルトに見えたその目は、真剣なものだった。そして、しばらく悩みこんだあげく、小さく頷いた。


「分かった……。そうする事にしよう。この事件の事についても色々と聞きたい事があるからな。それにこの前の約束を破った事についても聞き出さねばならなかった事だったからな」


 バルトは、この前の事をまだ、引きずっていた。


 約束というのは、数日前にベルナウでボーデンと会う約束をしていた事だった。その時、ボーデンは、街にたどり着いていなかった。


「ちっ……。覚えていたのか……」


 ボーデンは舌打ちをする。


「当然だ。忘れているとでも思っていたのか? 俺を甘く見るなよ」


 バルトは、ボーデンの前を歩くと後ろを振り向いた。


「行くぞ。ここだと話にもならん。俺の部屋で話をするとでもしよう。ついて来い!」


 バルトは、部下達に後処理を任せて、ボーデンとラミアを連れて軍の本部へと向かった。




 ヴィルヘム国・サールバーツ本部––––


 街の中央にある本部で、住人達が困った事が起きた時には立ち寄る場所でもあり、西部の最大力の砦でもある。


 本部内に入った三人は、バルトの部屋に向かう。建物は六階建てであり、バルトの部屋は三階の奥の部屋にある。


 三人は、部屋の前で立ち止まり、バルトが部屋の扉を開く。


「入りたまえ……」


 先にバルトが入り、後から二人が部屋に入る。部屋なの中は、少佐の地位にしては広く。机の上には、大量の資料や書類が何百枚も載せられていた。


「ぐっ……」


 バルトはそれを見て、嫌な顔をする。


 溜め込んでいたものが、後になって一気に自分の机の上に置かれると嫌というものだ。


 自分の席に座り、改めてその書類の量を見ると、自分の仕事のしてなさに改めて現実を突き付けられる。

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