Ⅱ
男の前に立ちはだかる少年は、ニヤッと笑い、こっちに少しずつ近づいて来る。
「クソが……‼︎」
男は、その少年の強さを知りながら壁に手を叩きつける。
少年の強さは、さっきの戦いで知った。その上で勝つ事など出来ないと判断した。
このサールバーツは西部でも最大の都市。だからこそ、闇の交渉をするにはリスクを負う危険性がある。軍に見つからなかったのはいいものも、これはこれで面倒である。
そして、少年が男の前に立つと再び口を開いた。
「さて、どうするんだ? 渡すのか? 渡さないのか?」
その問いに対して、男は警戒心を一層に強めた。
追いかけてきているのは、この少年だけではない。もう一人いる。
もう一人は女だ。
だが、その女の姿が何処にも見当たらない。目の前に少年がいるって事は、近くにいるはずなのだ。
「渡さないと言ったらどうする? それにお前の連れはどうした? 逸れたか?」
男にはまだ、余裕を見せる表情があった。
少年一人ならどうにかなるのかもしれない。今、ここに持っている物の力さえ借りれば、まだ、分からない。
それは引き換えにリスクを伴う可能性がある。
「そんな事、今関係ないだろ? あいつは置いていかれてもすぐに追いつく奴だ。それに俺よりもあいつの方が数段強いぞ。やられるならどっちがいい? 今なら無償で助けてやるって言ってるんだよ‼︎」
少年は服装から見て、旅人の格好だ。この街の住人ではない。
短い茶髪に黒のコートを纏い、そして、風格のある態度。
十代くらいの若さにしてみれば、将来、楽しみな人材だ。それくらいの見込みがある。
「さぁ、それはどうかな! こっちにもまだ、奥の手って言うものがあるんだよ‼︎」
逃げるのはほぼ不可能に近いと感じた男は、最後の力を振り絞って、懐に入れている物を使った。
「はぁああああああああ‼︎」
ローブの内から光が漏れる。
「ちっ‼︎」
少年の頭上にいきなり炎が複数も襲いかかって来る。
それは
「面倒くせぇ!」
少年は炎の中を素早く避け切って、後方に飛び移る。
それでも炎は次から次へと迫って来る。速度はさらに増し、少年の速度に追いついて来るが、少年はさらにギアを上げる。
視界に入ってきた炎を右に避けると、壁にぶつかり、弾け散った。
「ふぅ、それを使ってあそこまで速度が上がるとは、魔法も進化を続けているんだな」
少年は涼しい顔をしながら言った。
「だが、そいつはあんたが触れちゃあいけないものだ。〝秘宝〟の欠けら出会ってもそれは紛い物だろ?」
少年はニヤリと笑って、男の持っている
彼の言った〝秘宝〟の欠けらというのは、紛い物だと断言している。なぜ、そんな事をハッキリと言えるのだろうか。
「紛い物? だったらどうだって言うのだ? そこまで欲しがるも無かろう。本物には程遠い
男は、自分が持っている物を欲しがる少年に問いただす。
そして、この少年をどうにかして行動不可能にしたいと、次の攻撃に移る。
「
と、呪文を唱えると手に持っている紛い物が光り、魔法が発動する。
地響きが鳴り響き、少年の思考を混乱させる。男の放った魔法はまだ、何処からかも攻撃してこない。
「くそっ、面倒な魔法を使いやがって!」
少年もまた、呪文を唱え、魔法を発動させる。
そして、見えない所から少年の周りで爆発を起こした。
流石の少年も全てに対応できず、爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。
「がはっ!」
壁に激しく体当たりし、地面に押しつぶされる。
少年が魔法で対抗してくれたおかげで、周囲に危険性に及ぶ事は最小限で済んだ。
「いてぇな、ギリギリだったぞ……」
建物にぶつかった時に飛び散った破片で額から血が流れ出す。
服もボロボロで新調しなければならない。
確かに紛い物でもここまでだと、油断してはならないのだ。
「ちっ……‼︎」
男は、まだ、息の根がある少年に対して舌打ちをした。
「まだまだ、これくらいじゃあ倒れねーぞ!」
少年は再び立ち上がり、額の血を拭き取り、男を睨みつけた。
男は少年を恐れる。
「俺はここで負けるわけにはいかねぇーんだよ‼︎」
それでも諦めない男は、再び呪文を唱える。
「
と、地面から複数の獣が召喚された。
それはこの世に存在する生き物と存在しない生き物がここに存在している。
「おいおい、これを一人で相手にしろと? いくら俺でも本気をださなきゃ、厄介な相手だな」
少年は苦笑いをしながらも、しっかりと対応する準備を整える。
「本気を出さなきゃいけない? それは困ったな。そもそも、今のお前では対処できるレベルでは無かろう。今からでも遅くない。お前の方が退いたらどうだ?」
男は勝ち誇ったかのように言う。
だが、少年にはそんな事関係なかった。
「
目の前に現れたのは、真っ黒な剣だ。
切れ味もよく、耐久力も高い黒剣。
「たった一本の剣で何ができると言うのだ⁉︎ こいつらはそこら辺の奴らには通用しないぞ‼︎」
「知るかよ。ごたごた言わずにさっさとかかって来いよ。やってみねぇーと、分からないだろ?」
少年は剣を構えて、男に対して抵抗して来る。
「クソがっ、今に見ていろ! お前を潰してやる」
男の叫び声と同時に獣たちが少年に襲いかかって来る。
「シャアアアアアアア!」
普通の人間なら獣たちに対して数人で対応するのがセオリーだが、少年はたった一人だが、襲いかかって来る獣たちに容赦なしに斬りかかっていく。
真っ赤な血が周囲に飛び散り、少年はニヤリと笑みを浮かべる。
「まだまだ!」
男の方も負けてはいない。
次から次へと、連続して召喚魔法を発動していく。どちらの方が先に体力が尽きるか、持久戦だ。
体力的には、男の方が上だが、少年はそれを上回っている。
「次からバンバン出しやがって!」
少年はしっかりと攻撃と防御を使い分けている。戦い方の基本は十分に身についている。
戦いの中でイラつく中、一瞬隙を見せてしまった。
「げっ!」
死角からいきなり牙剥き出しの獣が噛み付こうとして来る。
剣が届かない。このままだとやられる。緊張が走った。
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