第125話 決着!?

 白い龍、バイロンがイブリースに風の刃を飛ばす。

 イブリースは魔力で防ぎ、迂闊に動けないでいるところにウリエルが剣で斬りかかった。槍で応戦して、打ち合っている。

 押してる、押してるね!?

「わああ、頑張れバイロン、ウリエル様っ!」

「応援くらいしかできないんですよね……」


 私とウリエルの契約者は、離れた場所で観戦している。

 自分の身を守るのが第一なのだ。

「あの、……えーと」

 名前って何だっけ。聞いた覚えがあるな……?

「フィデル、もっと離れていろ!」

 ウリエルがこちらに指示する。そうだ、フィデルだ。同じ『若き探求者の会』というカヴンに加入している人なのだ。

「攻撃が届きましたからね……、あちらに行きましょう」

 またこちらに攻撃が飛んで来ないか、振り向きながら歩いた。離れていれば避けたり、防御する余裕もあるだろう。


 イブリースとウリエルが槍と剣で戦い、金属音が鳴り響く。

 ウリエルの腕を槍が掠めて、シャリッと手甲が鳴った。武器が当たらなくとも、籠められた魔力が押し寄せる。

 バイロンは掩護とばかりに手で攻撃するが、イブリースはそれを槍で薙ぎ払った。

「ゴウオオオォォ!」

 咆哮で強風を起こすバイロン。

 つむじ風がイブリースを包み、身動きを取れないようにする。両手で力強く槍を握り、力を溜めるイブリース。

「うおお!」

 叫びとともに魔力があふれ、バイロンの風が紙を破いたように霧散してしまう。

「さすがに一筋縄ではいかないね」

「適当に叩きのめして、元いた世界に帰らせたいな」

「ソフィアを狙う不穏な輩だ。無難にひん死くらいにしたい」

 

 バイロンが不穏だよ……!

 無難って言葉の意味、私が間違えて理解しているの??

 二人が会話をしている隙に、イブリースが私に向かって魔力を放つ。防ごうと私とフィデルが動くより早く、バイロンの巨大な白い龍体が私達との間に入ってさえぎってくれた。鱗に光の魔力がぶつかって爆発を起こすが、バイロンは微動だにしない。

 契約をして宣言をした効果だ、軽傷で済んでいる。

「さすがバイロン、助かった〜!」

「くっ……、この程度では通じんか……! しかし魔力を練る余裕もない!」

 安堵する私とは反対に、苦々しく吐き捨てるイブリース。考える暇を与えず、ウリエルは巨大な龍体の後ろから強襲した。

 キイイン!

 槍と剣がぶつかり合う。素早く数回剣を振っているが、相手には届かない。イブリースが下がったのを見計らって、ウリエルもスッと後ろに退いた。


 その瞬間、バイロンが後ろからイブリースに爪で攻撃した。長い龍体が後ろまで伸びているのだ。これは防ぎきれず、イブリースの肩当てがバキンと大きな音を立てて割れた。

 さらに風の刃を幾重いくえにも放って追撃する。

 イブリースは体ごと振り返って即座に体勢を整え、切り裂く風から身を守った。

「さすがに手強い」

 バイロンが呟く。二人がかりでようやく優位に立てたかな、くらいだよ。

「褒め言葉として頂いておこう」

 不敵な言葉で返すイブリースだけど、表情には焦りがにじんでいた。ふふふ。いつまでその顔をしていられるかな!? 過保護のバイロン全開だよっ!


 バイロンの風が途切れるのを待ち、イブリースは槍で龍のお腹を狙う。

 だが攻撃を繰り出す前に振り向き、上から斬り掛かるウリエルの剣から身を躱した。伸びてくるバイロンの手もくるりと避けて、指を槍の穂先で突く。

 龍と天使に挟まれたイブリースは身体から光を放ち、槍を振り回して迫る二人を遠ざける。

「クッ、近付くのも一苦労だ!」

「うおおおぉ、簡単には引き下がらぬ……ッ!」

 ウリエルの髪が槍の風圧で揺れた。イブリースは勢いのまま、ウリエルに槍を向けて突進した。 

 横に避けながら剣を水平にするウリエル。通り過ぎたイブリースの腕から、血が飛んでいた。すかさずバイロンが、背後から頭突きを喰らわす。顔だけでも人より大きいくらいだから、イブリースはドンッと前へ押し出された。

 

 ウリエルから離れたまま、イブリースとバイロンが戦っている。光の弾を乱れ飛ばすのを、魔力を籠めた咆哮で防ぐバイロン。身を守りながらも長い尻尾でイブリースを叩こうとして、腕で止められた。

 イブリースは喉を目掛けて翼をはためかせ、バイロンの腕が跳ねのける。一進一退の攻防が続くよ。


しゅしもべらよ、主を賛美せよ。主の御名みなを賛美せよ。万軍の主、主こそ栄光に輝く王」


 ウリエルの言葉とともに、天からプラチナの光が射して彼を照らした。

「させてなるものかあ!」

 叫びながらウリエルに向かうイブリースを、バイロンがはばんでいる。イブリースの槍が当たると、バイロンの鱗でさえもひびが入った。龍神族の鱗を壊すとか、攻撃力がすごい。

「イブリースも必死ですね、ウリエル様は呪法の準備をされています。先に主への祈りの文言を唱えるのは、さらに攻撃力を高める為です」

「つまり、敵に警戒されてるほど強い!」

 この呪法を受けたらたまらないから、必死で抵抗しているわけか!

「クオオアアァオ!」

 バイロンもウリエルの呪法の発動を阻害されないよう、雄たけびを上げて気合を入れ直している。あと少しだ!


「正義と真理に基づき、裁きを与える。右の御手、御腕の光により勝利をもたらしたまえ。戒めたる力よ、夜闇やあんを昼の如く照らす光よ、我が剣に宿れ。メルキゼデク!」


 光がウリエルの剣に集約され、太陽から分かたれたかのように目が眩むほど輝いている。煌めきながら透き通るほどになり、遠くにいてもおびただしい魔力に覆われているのが分かる。これに斬られたら魂ごと消えそう。

「ウリエル、うおおぉお!」

「裁きを受けよっ!」

 輝く剣をたずさえ自身も光に包まれたウリエルが、滑るようにイブリースの目前に迫った。バイロンは離れて、残されたイブリースは逃げる余裕もなく槍を構える。

 槍に魔力を巡らせ、振り下ろされる剣を防ごうとする。

 バキイイン!

 槍は割れ、鎧が砕けた。ウリエルの剣がイブリースに深々と刺さった。

「認めぬ、……ぐあああああぁ!」

 真っ白い光に焼かれて鎧がバラバラと崩れ、血が飛び散る。天使が人間を斬ると血が流れなかったりするのに、天使同士だと違うんだな。

 

「ソフィアさんはここにいて、私は送還して参ります!」

 フィデルが飛んで、イブリースが墜落していく方へと向かう。翼も焼かれ、焦げた羽根が舞っている。ダメージが大きくて飛んでいられないようだ。

 ウリエルもイブリースから目を離さないまま追って、地面へ下りる。覆っている輝きは水に流される落ち葉のように、サラサラと薄くなっていった。

 これでもう、おしまいだね!


「偉大なる御名により、異界の門よ開け。道を繋げたまえ。元いた世界へと速やかに戻るべし、汝の影はここに形を作ること許さじ。去れ、イブリース!」


 異界の扉が開かれた。

 イブリースのいる下から風が吹いて、強制送還が開始される。さすがに抵抗できないようで、煙に包まれていく。

「こんなこんな……っ、私がたかが人間一人を打ち漏らすなど、あってはならぬ! ならぬのだ……!!!」

 慟哭が徐々に小さくなった。姿も薄れて、これで元の世界に戻るね。よし。

 と思ったら、一気に魔力を高めている。

「悪あがきはよせ!」

 ドン!

 制止するウリエルと送還を続けるフィデルをすり抜け、光線を凝縮したような魔力の塊がこちらに発せられた。うわあ、最後のあがきってやつか! いい加減にしてよ〜!


「ソフィア!!!」

 上空でとぐろを巻いてイブリースを警戒していたバイロンが、慌てて私へと飛んでくる。動き始めると本当に早いな。

 ただ、一瞬出遅れたのが痛い。


 最後の最後にこれ!?

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