第114話 サバトへ行こう!

 フェンリルの眷族である狼の魔物スコラと、戦場で負傷者の血を吸ってむさぼり食う食人種カンニバルペイを倒した。

 怪我人に回復魔法をかけて、治療もした。服の汚れは洗っても落ちなそう。

「ありがとうございます、助かりました!」

 冒険者達がお礼を言ってくれる。うーん、気分いいね。善行にもなったし、マルちゃんも満足だろう。

 スコラからは大きめの魔核が採れたようだ。いひひ、コイツは金になるよ。討伐部位はどこだ、とりあえず爪を剥がしておく。

 遺体は食人種を呼びそうだから埋めた方がいいけど、さすがに道具がないと地面は掘れない。ペイのこともあるし、近くの町へ報告に行き、兵達に処理してもらうことになった。


 私達もその町へ同行して、宿を確保しよう。五人で道を歩く。

「冒険者ですか? こいつが反応してたけど」

 彼がこの小悪魔の契約者らしい。小悪魔は引きつった顔をしていた。

「立派な召喚師だろ、地獄の貴族の方と契約してる」

「え、じゃあこの騎士様は……」

 人間二人の視線がマルちゃんに注がれる。マルちゃんはまあな、とだけ答えた。

「てことは、サバトに参加する方ッスか?」

 治療を済ませた男性が、明るい声で尋ねた。傷はしっかりと塞がったよ。

「サバト? サバトって、悪魔と人間が交流するアレですよね?」

「そーそー、まだ参加したことないの? この国は立派な天使がいるからさ、悪魔の肩身が狭いってね。たまーに集まって宴会するんだよ。規模は小さいよ」


「ええと、俺はサバトに参加したい予定でして」

 小悪魔がマルちゃんのご機嫌を窺うように見上げている。

「ほお、どうするソフィア」

「面白そう、参加してみたいな。いつ?」

「明後日です。ただ小悪魔くらいしか集まらないですよ」

 マルちゃんが一番偉い会になるんだ。不思議な感じだ、よく偉い人の接待をしているイメージだった。

 場所はこれから行く町を越えた先の、小さな村がある近く。泉に集まって朝まで騒ぐんだとか。

「悪魔と一緒なら、招待状が無くても入れますよ。参加しましょう」

 小悪魔の契約者が誘ってくれる。彼は以前も参加したというので、連れて行ってもらうことにした。


 もう一人は冒険者パーティーの仲間。仕事がてら足を延ばしただけで、サバトには参加しない。話をしながら歩いていたら、目的の町が見えてきた。

 まずはギルドに寄って、襲われたことなどを報告する。危険な魔物と食人種だったので、報酬がもらえた。これを皆で山分けだ。冒険者達は受けていた依頼の終了も伝えていた。

 この町にはシャレーがないし、オルランドの先生の情報は手に入らなそう。私達は宿を探した。思わぬ遭遇があったりしてマルちゃんの心労が大きいし、ゆっくり休もう。マルちゃんって本当に気を遣うよね。


 次の日は、朝一にギルドで仕事を探す。マルちゃんは狼姿でのそのそと歩いている。ギルドには小さくサバトの案内が貼られていた。参加者募集中だ。

 仕事はあんまりないな。特に討伐は全然ない。

「討伐を探しているんだったら、この時期はないよ。サバトへ行く冒険者が寄って、受けちゃうんだ」

「サバトついでに倒しちゃうんですね!」

 そうか、移動しながら仕事を受けるのは同じだよね。

「そーそー。この国は偉い天使様がいるだろ、最初の頃はサバトで悪魔が集まるのなんて嫌がられていたんだ。だが集まった連中が近隣の討伐を受けてくもんだから、安全になってね。今ではサバトは大歓迎だよ」

 なるほど、それはいいことだ。でも私が受ける依頼を残しておいてくれればいいのにな。


「そーだ、君もサバトに行く予定ある?」

「はい」

「それならさ、小悪魔とかと契約してるよね? この運搬依頼を受けられないかな。サバトのお酒だよ。サバトの飲食物はこの先の村にある店が、一手に注文を受けててね。本来ならもう運んどくんだけど、肝心の荷車を動かす馬が他の配達から戻らないって、今になって依頼に来たんだ」

 ちょうどいいね! 依頼を受けて、詳細を尋ねた。この先の酒蔵でお酒を受け取り、それを村にあるお店まで運ぶお仕事。お酒はたくさんあるので、荷車を借りられる。これなら私にもできる!

「よろしくね、急がないと間に合わないよ」

 受注して、酒蔵へ向かった。お酒の販売所の前に荷車があり、いつでも出られるように準備している。


「こんにちは、ギルドの依頼で来ました」

「待ってました! ……って、女の子一人と狼? 大丈夫かな」

「サバトに参加するんで、ちょうどいいです」

 心配されてるな。弱弱しく見えるのかな、元気に喋ってみた。

「そう? ならもう積み込むよ」

「はい、すぐに出発します!」

 昨日の冒険者と小悪魔の二人と、町外れで待ち合わせているんだ。ちょっと早いくらいだし、問題ないね。

 荷車には大きなタルが一つ積まれ、木枠に入れられた酒瓶も幾つも載せられていく。え、これ運ぶの……? 荷車だと軽くなる?

 とりあえず動かしてみる。


 重い。手が痛くなりそう。これ、他の村まで運ぶの……!? アイテムボックスにはタル一つすら入らない。しくじった……、自分でできると勘違いしてしまった。だからここの人達が、馬が来ないから無理だって判断してたのか……。

 これはもう、私の手には負えない。狼姿であくびをしているマルちゃんに視線を移す。

「ソフィア、今さらだが一つだけ助言する」

「……なに、マルちゃん」

「液体は重い」

「本当に今さらだよね!!!」

 こんな大量だなんて、完全に想定外だよ。そんなに集まらないみたいに聞いていたけど、お酒の量は多いね。皆たくさん飲むのかな。

 結局マルちゃんがけん引してくれることになった。狼から騎士に変身したんで、酒蔵の人達が驚いている。

「あっ! なんだそうか、サバトに参加する悪魔さんだったのか。それなら安心だ、頼んだよ」

「おう」


 マルちゃんが曳くと二つのタイヤが簡単に回り、ゆっくりと前へ進む。

「さすがに重そうな車体の馬車を曳けるだけあるね」

「……忘れろ」

 唸るような低い声で叱られてしまった。思い出したくないみたい。バイロンはマルちゃんにも優しくしてあげて欲しい。

 待ち合わせの場所では、冒険者と小悪魔のコンビが待っていた。冒険者はいい仕事にありつけたなと言ってくれたんだけど、小悪魔がヒエッと小さく飛び上がった。変な反応をするなあ。

 悪魔連れの人達が討伐をした後なので、道中では特に魔物も盗賊も出てこない。安心な道行きだ。マルちゃんは荷車を曳いていても、普通の速度で歩いている。

「……疲れる? 代わろうか?」

「お前には無理だ」

 デコボコがあって平らな道でもないし、長時間は無理にしても、頑張れば休憩くらいさせてあげられると思うんだけどな。


「休んで昼食にしよう、半分くらいは来たよ」

「そうですね、そうしましょう!」

 マルちゃんをねぎらおう。干し肉ならあるから渡したら、あまりいい顔はしなかった。それでもしっかりと食べていたよ。

「僕一人じゃ厳しそうだよな……。代わろうか、お前も手伝うよな?」

「はいはいっ、もっちろん!」

 男性が契約している小悪魔に尋ねると、背筋を伸ばして必死に頷く。

「かまわん、こちらが受けた依頼だ」

「じゃあ本当に無理だと思ったら言ってね、マルちゃん」

 村のすぐ手前に緩い坂道があるらしいし。

 夕方には着く予定。ただ、小さな村なので宿がいっぱいかも知れない。普段は森に入る冒険者が訪れるくらいで、宿は村に一軒しかない。


 坂道に差し掛かったら、冒険者達が後ろから荷車を押してくれた。マルちゃんは断わっていたけど、少しは楽だよね。上りきると村がすぐ前にある。到着!

 冒険者と小悪魔に案内されてお店まで運ぶ。今か今かと待ち構えていた人達が、到着を知って安堵の表情を浮かべた。サバトの関係者もいて、無事に届いて大喜びだ。

「お疲れ様! では受け取りにサインをするね」

「ありがとう、間に合わないかとヒヤヒヤしたよ」

「良かったです。明日のサバト、楽しみです!」

 なごやかな受け渡しの横で、お酒を待ち構えていた小悪魔がマジマジとマルちゃんを凝視している。

「……え? え? え???」

 またもや反応がおかしい。目を白黒させている小悪魔の契約者が、ポンポンと肩を叩く。

「どうした? 待ちに待った酒だぞ」

「ええええええ!!!!! き、貴族に運ばせたんかい……!? ないだろ、むしろ下にも置かないもてなしをしなきゃだよ……!!?」

「だよなああ、ビックリし過ぎて反論も出なかった……!」


 あ。小悪魔達は、侯爵のマルちゃんがお酒を運んでいたんで恐縮してるんだ!

 サバトではマルちゃん偉い人だもんね。偉い人に荷運びなんてさせないよ……!

 サインも貰ったし、案内してくれた冒険者はサバトの関係者の人に事情を聞かれているけど、退散しちゃお。ギルドで終了の処理をした。

 よーし、宿でも探そうっと!

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