第111話 四人組はマルちゃんハーレム?
私とマルちゃんと、ティアマトとミクズの四人になった。
そういえばティアマト達は、キングゥに案内されて東の方の国へ行ったはずじゃなかったかな。キングゥは同行していないね。
「あのお、別の国に出掛けてましたよね。こちらにご用ですか?」
「申し訳ありません、不躾で……。お前は失礼にならないよう、せめて考えて発言しろ!」
率直に尋ね過ぎて、マルちゃんに叱られてしまった。マルちゃんは頭を下げながら、私の頭を手で掴んで強引に下げさせる。
「構わない。非常に強い魔力を持つ者が召喚されたわね、それを確認に来たわ」
ティアマトがマルちゃんを宥めてくれた。解放された頭をすぐに上げた。
「イブリースのことですか」
「元第一位の天使だわ。これは荒れるわねえ、人間を罪に落とす仕事の方だもの」
二人とも名前を聞いて理解したらしい。そしてミクズは、やっぱり楽しそう。仕事なのかなあ、人間を罪に落とすの。
「アレは他種族への関心を持たないが、敬意も薄い。もし戦闘になるなら、我らも
「は、地獄からは静観せよとの達しがありました。天使や一部の召喚師が、活発に動いております」
聞いたばかりの新しい情報も含めて伝えるマルちゃん。
「ふ~ん。お姉さま、どうされます?」
「……キングゥの契約者と顔を合わせるという目的も果たしたし……、北へでも行ってみようかしら。今度はゆっくり観光をしたいわね」
「いいですわね、観光旅行の続きですわ!」
イブリースの名前を聞き出せたから、もうここには用がないみたい。ミクズは旅行として楽しんでいたのね。これでおさらばだ、ちょっと怖かったよ。
「お前達はどこへ向かう?」
ティアマトが私とマルちゃんに視線を寄越した。私が答えようと口を開くと、マルちゃんが黙ってろと言わんばかりに先に話し始める。
「契約者が仕事を受けておりまして。西へ進み、隣国に着いてから北へ向かいます。ウリエル様が契約を得て暮らしている国です」
マルちゃんは天へ帰りたいだけあって、偉い天使も呼び捨てにはしないよ。
「そう。なら途中までは一緒に行こうかしら」
「は……、い」
思わず聞き返そうとして、踏みとどまったマルちゃん。少しの間とはいえ、この二人も一緒なの……?
怒らせたら死にそう。気を付けよう、本当に発言には注意しないと。
ちなみに身長はティアマト、マルちゃん、私、ミクズの順で高い。ティアマトはかなりの長身だ。私とミクズは同じくらいだよ。
「貴女は冒険者ね。依頼を受けてるの?」
ミクズの視線の先で、私のランク章が揺れた。
「依頼は受けていますが、ギルドではなく友達から手紙を預かって、配達しています。相手は森の中に住んでいる方です」
まずは先方が住んでいる国に入り、シャレーでオルランドの先生が住んでいる場所を教わらないといけない。セルノールという町へ向かうよう指示されている。
イブリース対策の会議をしていたらしいけど、先生達は皆飛べるし、遅くとも私が着くまでには帰っているだろう。
「ざーんねん。討伐なら面白いのに」
「違いますね……」
どう面白いんだろう。聞かないでおこう。
この四人だとミクズが喋り、ティアマトが短い返事をしたり、私が答えたり。マルちゃんも必要なら会話に加わる。二人が旅していた時は、ずっとミクズが話題を提供していたんだろうな。ティアマトは口数が少ないよ。
「……あの男には会えたのね」
唐突にティアマトが私に話し掛けてきた。ビックリして一瞬言葉に詰まる。あの男とは、バイロンのことだ。
「は、……はい」
「そう」
「はい」
これだけ……? どうしたらいいのかな。私の困惑を、ミクズがクスリと笑う。だって相手はティアマトだよ!? 怖くて下手に答えられないよ。
しばらく静かになって、ただ歩き続けた。馬車が私達を追い抜いて行く。
国境の手前の町で、今日は泊まり。宿は全員が一部屋ずつになった。良かった、女性陣でと言われたら困るところだった。
もちろん豪華そうな宿……。私達は別のところにしようとしたら、なんでと尋ねられてしまった。それで断われるマルちゃんではない。私なら素直に、お金がありませんって言っちゃうよ。
食事も同じテーブルを囲んだ。ティアマトは意外にも菜食主義で、肉も魚も食べない。特に海に住む同胞は口にしないとか。好きなものはフルーツ。
反対にミクズは何でも食べるよ。やっぱりどこかおかしな組み合わせだな。
この町では泊まるだけで、特に何もせず出発。
「ねえ、ギルドとやらには寄らないの?」
……と思ったら、ミクズがギルドに興味を示した。
「せっかくだし見て行きましょうよ。どんな依頼があるの?」
「ええと、マルちゃん」
「寄るぞソフィア」
この二人が言い出したら、マルちゃんには拒否権がないらしい。いや、ミクズだけならそうでもないかも。九尾は最高のキツネとはいえ、キツネは群れを作らない。ティアマトは竜神族のトップだし、威厳があって反論はさせない雰囲気がある。
バアルは断わったら殴られそうだけど、ティアマトは言い終わる前に消されそう。
ギルドには多くの人がいた。中でもティアマトは男性並みに背が高いので、目立っている。
「おお、騎士さん。美女とのパーティーかい、憎いね!」
「……パーティーを組んだわけじゃない、今だけ同行している」
「それでもいいじゃん。クール系美女、元気で可愛い妹系の娘、それからおとぼけ天然系の子。いい組み合わせだ」
うんうん勝手に頷いているけど、クール系がティアマト、妹系がミクズ、私はおとぼけ天然系なの!? 私だけバカにされてない?
どうにも腑に落ちない。マルちゃんは曖昧な笑顔を浮かべていた。
依頼は既に色々と取られた後で、掲示板に残る札はまばらになっている。
受け手のいない高ランクの討伐、お手伝いや配達の仕事。護衛も多い。せっかく寄ったんだし、ついでに配達の仕事でも受けようかな。急ぎじゃないのに値段がいいよ。
ふと横を見ると、注意喚起の張り紙があった。
『近辺で盗賊が出没しています。人数が多く対処が困難な為、現在国に討伐依頼を出しています。注意してください。特に夜間の外出はお控えください』
それで護衛の仕事が多くて、配達も相場より高いんだ。受付に配達の依頼を持って行くと、職員の男性が私達を確認する。ランク章を付けているのは、Dランクの私だけなんだよね。
ティアマトとミクズは防具も付けていないし、冒険者にも、ましてや魔法使いにも見えない。
「もし盗賊に遭って依頼に失敗したら、評価が下がるだけじゃなくて、この依頼は違約金が発生します。それでも宜しいですか?」
「はい、大丈夫です。しっかり届けます」
遭遇して困るのは盗賊団の方だろう。ティアマトは国が動いても討伐できないと思う。なんといっても、最悪の召喚事故を引き起こした張本人だ。
「そっちの子は冒険者じゃないんだよね? 戦闘とかになったら平気?」
関係ない人が巻き込まれるのを懸念しているみたいで、職員の視線はミクズに向けられている。見た目は若くて可愛い女の子。
「ふふ、心配いらないわ。強盗でも殺人鬼でも、顔が良くて地位と財産があって、お姉様より強い男なら問題ありません」
「ははは、怖いもの知らずなお嬢さんだ」
ティアマトより強い人間はいないよ……。キングゥも母上より強い女性が好みなんだっけ。ミクズとキングゥって仲が悪そうだったけど、趣味は合いそう。
「……余計なことを考えているでしょう」
「え!? そんなことないよ、依頼を受けたら出発しようか!」
「……そう?」
見透かされた気分! 怖いなあ、余計なことを考えないようにしよう。キングゥのことをそんなに嫌いなのかな。強盗でも殺人鬼でも良くて、キングゥはダメなのか。私はこの選択肢なら、キングゥでもいいよ。
依頼を受けて、ギルドを後にした。期日には余裕がある。
意気揚々と歩いていると、町も人も見えなくなった場所で、林から大勢の人が草を踏み分けて走る音が聞こえた。武器屋防具の金属音も響いている。
「よおおっし、女の多いパーティーだ。男は殺せ、女は生かして捕らえろよ!」
もしかして、注意喚起されてた盗賊団!?
これは私達が戦うべき、それとも……!?
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