第103話 オークションの町です

 危険な雰囲気になったバイロンが、私の後ろに控えている。

 うわあん、怖い。守られるって、怖いことだったんだ……。

 マルちゃんは向かって来た敵を簡単に倒している。

 突いてくる槍を折り、間髪入れずに振り下ろされる斧を避けて、相手の腹を殴った。さすが。何人かかっていこうが、余裕だね。

 戦っているマルちゃんを避けてこちらに届いた敵を、皆で倒していく。魔法使いが攻撃魔法を唱え、剣を持った男性がすかさず攻撃。槍を持った男性は、剣を構えた盗賊に突き付けて威嚇している。

 魔法剣士は、商人の乗る馬車に向けられた魔法や攻撃を防いでいた。


 別の道から来て交戦中だと気づいた小規模な隊商が、馬を急がせて別の道を選んだ。兵隊に知らせてくれますように……!

 私もストームカッターで攻撃したり、危険だと感じたら防御魔法を展開している。とはいえ、回復の為に魔力を温存しておかないと。


「おい、あの黒い騎士一人にほとんどやられちまう! ヤベエ護衛が付いてるじゃねえか」

「魔法も効かないぞ。人間じゃない……」

 魔法使いがやっと勘付いたみたい。逃げようとしてる。

「くそう……っ、ずらかれ!」

 相手の人数が減り続け、ついに撤退をするみたい。追った方がいいのかな?

 魔法剣士が馬車の商人に伺いを立てる。

「皆、深追いは禁物だ。倒したヤツらをしっかりと捕縛しよう」

 私達は兵士じゃないしね。元気な盗賊は乗ってきた荷馬車に慌てて乗り込み、御者が馬に鞭を入れた。いなないて走り出す。

 そちらは放っておいて、荷台から縄を出しどんどんと縛っていった。

「……ちょっと行ってくるね」

 馬車が逃げた方に、バイロンがスッと飛ぶ。そうだった、バイロンは私に矢が当たりそうになって、かなり怒っていたんだ。

 ……哀れ。

 気を使ってくれていたのかな。姿が見えなくなった頃、大きな爆発音が届いた。


 だいぶ縛り終えた頃に、馬に乗った兵が数騎ほど、蹄の音を鳴らしてやって来た。

「盗賊の襲撃と知らせを受けた……、無事だったようだな」

 逃げた隊商の人達は、ちゃんと近くの町で助けを呼んでくれたんだ! こんなにたくさんの盗賊をどうしようかと悩んだけど、これでもう安心。飛ばしてきた騎馬は先遣隊で、後からまだ兵が来るみたい。ただし、回復役を含めても十数人。

 そこまで大きな町じゃないから、これで精いっぱいだって。もう倒し終わったから、追跡を考えなければ十分な人数だ。

 騎兵の一人が取って返し、捕まえた盗賊を乗せる荷馬車を呼んでくれる。

 兵が集まったら、私達も町へ同行しないとならない。少々南に道を逸れるけど、このままサヨナラではダメなようだ。

 

「なるべく早く解放してください、オークションに参加するんです」

「それは急ぐな。では兵が来たら、そのまま数名を会場までの護衛に付けよう。移動しながら話を聞けば、時間のロスがない」

「それはありがたい!」

 話の分かる人で、助かった。捕縛が終わったので、逃げた荷馬車について尋ねられた。そこに十人足らずくらいの盗賊が、逃げおうせていると伝える。バイロンが追ってるのは言わないでおこう。

 もしも全滅してたら、誰か悪い人を襲って返り討ちにあったと考えて頂きたい。

 逃げた連中の特徴なんかを、できるだけ説明した。


 その間に徒歩の兵が集まったので、隊長が命令して護衛メンバーを選抜。すぐにオークションのある町へ向けて動ける。

 兵は商人の馬車に二人が乗り、二人が外を歩く。後は任せて出発!

 途中で伝令が呼び寄せた、荷馬車とすれ違った。

 どうやらオークションは近隣でも有名で、参加者は考慮してもらえるみたいだね。予定より時間は遅くなった。でも、このまま目的の町まで行っちゃうよ。

 バイロンは途中で戻って、何食わぬ顔で隊商に混じった。空を飛んでいたので、兵が驚いてる。

「あの人数をよく撃退したと感心していたんですが、高位の魔導師も雇っているんですか?」

「えーと……、彼は人間じゃないので」

「あ、召喚師の方で?」

「あはは、そんなところです」

 契約しているのはマルちゃんで、バイロンは契約しているわけじゃない。とはいえ私は召喚師だから、嘘はついていないね。


 だんだん日が傾いて、辺りには歩く影もなくなった。

 遠くに輝くのが目指す町の灯……、と思ったらここも通り過ぎる。次の町か。すっかり暗くなり、白い月が空に半円を描いていた。

 お腹もすいた、まだかな。

「もうすぐだ、あとちょっと頑張ってくれ!」

 御者が大きな声で皆を励ます。緩やかな上り坂をのぼりきると、高い壁に囲まれた町があった。鉄の門扉はしっかりと閉ざされている。

 あと一歩なのに中に入れなくて、野宿かな……。

 ガッカリしていたら、そのまま門へ向かうよ。お酒を提供するお店くらいしか、営業をしていないような時間だ。こんな警備の厳しそうな町が、通してくれるのかな。


 同行の兵がドンドンと扉を叩き、声を張る。

「今、到着した。オークションに出品する商人だ、開門してくれ」

「……今頃……? 悪いが規則で、この扉は明日の日の出まで開けられない」

 やっぱり断られたよ。

「盗賊に襲われたんだ。盗賊は対処した、怪我人もいるから頼む」

 のぞき窓から相手が顔を出すと、兵は身分証を提示する。

「確認した。ちょっと待ってろ、上に報告してからだ」

 到着が遅れるから門を開けてもらう為に、兵を付けてくれたのかな。なるほど、助かるよ。オルランドも清潔なベッドで休んでもらいたいし。

 しばらく待つとギイイと重そうな音をして扉が開き、中に招き入れられた。

 兵達とはここでお別れで、私達は今更ながら宿を探さねばならない。馬車を所定の場所に預け、移動する。商人は何度もこの町を訪れていて、すっかり慣れているようだった。


 商人が泊まったことのある宿を尋ね、三軒目で空室があった。ただし全員は無理だ。

「参ったな」

「私達は別でいいですよ。これから探します」

「じゃあ明日にでも、宿を教えてくれ。代金は支払うし、オークションの見学くらいはできるはずだ。オルランドさんの為に、エリクサーの金額や出品状況を確かめてみるのもいいだろう」

 オークションは、出品した商人は見学できるらしい。その枠で私達も連れて行ってもらえる。よし、まずはエリクサーの情報を得るのだ。入手に向けて頑張る!

「では! 明日来ます」

「私がいなくても、誰かに伝えておけばいいからね」


 オルランドは歩くのも辛いような様子で、なんとか付いて来ていた。

「そうだオルランドさん、マルちゃんに乗りますか?」

「いいや~、ゆっくり歩く方が楽かも」

 マルちゃんに乗るのは揺れて辛そうと、断られてしまった。

「なら、ここで待っていてください。宿を探してきますっ!」

「助かる……ありがと~」

 私はマルちゃんとバイロンと一緒に、再び宿探しだ。

 オークションの参加者とかで宿が埋まっているのなら、冒険者向けとかの宿の方がすいているのでは? 護衛も普通は同じ宿に泊まっちゃうし。特に商品を持っているなら、離れているリスクの方が大きい。

 ほどほど安そうで、大部屋がないような小さめの宿。個人経営とか、いいかも。


 表通りの宿は目に付いてすぐに入るだろうし、細い道を選ぶ。薄暗い通りを歩くのは、酔った人ばかり。斜めに進んだり、大きな声で笑ってご機嫌だったりする。危険な感じはしない。

 商人の宿からは少し離れた場所で、わりとすんなり空室のある宿を見つけられた。

「あの……、ウチは高貴な方が泊まるような宿ではないんですけど……」

 宿の人の視線が、バイロンに向けられている。

「私はどこでも構わないよ」

「では三部屋ですね」

 笑顔で答えるバイロンに、宿の人はホッと安堵の表情をした。

 おっと、オルランドとシムキエルの分も部屋を確保しないと。

「あ、他にも男性の連れが二人いるんです。四部屋ありますか? 一人は怪我人なんで、こちらは二人部屋にしてください」

「えーと、……あります。それとウチは全て前金です。お支払いを宜しいですか? 皆さん揃ってからになさいますか?」

 空いているか確認をして、金額を提示する。オッケー、すぐに全部払いましょう! 後で商人からもらえるし。


「四泊したいので、その分お支払いします」

「ありがとうございます。部屋を用意しますので、荷物は置いてお連れ様を迎えに行ってあげてください」

「はーい!」

 良かった、オルランド達を呼んでこよう。

 オークションは三日後。かなりギリギリだったよね。ドキドキするなあ。

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