第92話 鉱山観光
テラスでのティーパーティーを終えて、部屋に戻った。
悪魔とどう決着を付けたのか質問されたので、マルちゃんが悪魔同士で交渉した、と説明しておいた。本当のことを告げると、ここに犯人まで混ざっているとバレてしまう。帰ってよフォルネウス。
夕飯も頂ける。でも、そんなにお腹が空かないな。
あまり残すことになってももったいないのでメイドさんに相談したら、サンドウィッチなどの軽食を部屋に運びましょうかと、提案してくれた。至れりつくせりだね!
お風呂も借りられるし、パジャマも用意してもらるし。楽でいいなあ、ずっとここにいたくなるよ。
次の日はゆっくり朝ご飯を頂いて、鉱山見学だ。
「では私がご案内いたします。皆様、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いしまーす!」
ご機嫌なユーニスお嬢様に続いて、私とマルちゃん、フォルネウスもついて来る。護衛も三人ほど、一緒に。
代官さんの館から馬車で出発して、細い道に入って緩い坂を上る。すぐに家は少なくなくなり、寂しい道に鉱山はこちらとの看板が立っていた。観光客かな、歩いている人を追い抜く。
やがて柵に囲まれた場所に到着。手前で馬車を降りて門を潜った。
入り口には『観光鉱山へようこそ』と書かれている。観光用の場所なのね。料金表があるので、本来ならここで入場料を支払うようだ。
「こちらが観光鉱山です。まずはこちらで、天然石を採掘できます。一般の観光客には開放していない坑道も、後で見学できますよ」
「ありがとうございます! 石は自分で採ってもいいんですか?」
「ええ、こちらのトレイにお入れください。掘る道具が必要でしたら、借りられますわ」
手ぶらで楽しめる鉱山体験! 手袋はユーニスが用意してくれていた。そうか、こういうのも必要だった。すぐにはめて、気合いも十分。
トレイは下が細かい網状になっている。理由を聞いたら、土を落とす為だって。
建物が幾つかあり、ドワーフがヒョコヒョコと移動している。ここで働いているのね。お髭のドワーフは、建物の中に姿を消した。
「原石をこちらで加工して頂けます」
「うわあ、いい石が見つかるといいなっ」
赤茶色の土の道を歩いて、小高い場所へ。壁みたいに盛り上がった土に、何かが埋まっている。よく見ると、足元にも曇った無色の小さな何かが、頭をほんの少し出しているではないか。
「へえ、見える場所に原石がある。これなら素人でも簡単に探せるね」
フォルネウスが土から半分出ている薄紫色の石を、手に取った。それも原石!?
「トレイから必要な分だけ布袋に入れて、最後に重さを量るんです。一定の量を越えると、追加料金をお支払い頂きます」
なるほど。原石は小さいし、たくさん入れ過ぎないようにしよう。
「もちろん、今回は頂戴しませんよ」
ユーニスが付け加える。じゃあ、たくさんあった方がいいね!
「ふふ……勝負だ、マルショシアス君。どちらがいい原石を発見するか」
「一人でやれよ」
フォルネウスがすぐに土に眠る原石を探し始めたのに、マルちゃんはトレイをユーニスへ返してしまった。
「マルちゃんも探そうよ」
「面倒だ」
ダメだ、やる気ゼロだよ。
「マルショシアス君っ! このままだと君の負けだよ!」
「おお、いい石を手に入れたな。とても敵わん」
怒鳴りつけるフォルネウスのトレイに入った、石に青やピンクが混じって輝く、不思議な光沢の石を指で摘まむ。もう、絶対どうでもいいでしょ。
「まあオパール。ここで出てくるのは、珍しいですね」
ユーニスが教えてくれた。本当にいい石だった。
私も負けずに探そう。地面から露出している石の辺りを掘ってみたけど、本当に小さな欠片しか出てこない。
磨いたり形を整えたら、もっと小さくなるよね。これをどうするのかな。
「あの、この石は何に使えるんですか?」
疑問をそのまま、ユーニスに投げかけてみた。
「不揃いのチップは、天然石の浄化用に使われたりします。指輪やイヤリングなど、小さくても使い道はありますよ。さざれ石を集めてネックレスにしたり、石に穴も開けてもらえるので、紐を通すだけでアクセサリーが作れるんです。加工は別料金で、手の込んだものほどお値段がかかりますので、ご注意を」
なるほど! 使い道が色々あるんだ。浄化用チップか、あった方がいいね。となると、水晶が一番いいんだよあ。
「マルちゃん、せっかくだし、たくさん探そうよ」
「頑張れ頑張れ」
もう飽きたのかな、ドワーフの工房の見学に行っちゃった。
仕方ない、一人で頑張ろう。フォルネウスはまだ続けている。意外と真面目だ。
「ダイヤモンドはないかな~」
「……申し訳ありません、ダイヤモンドは限られた鉱山でしか産出いたしません」
「なんだ、ないのか」
まさかダイヤを探していたとは。ダイヤがゴロゴロと出るようなら、観光客に開放しないと思う。
「まあいいや、黒い石も好きだね」
「オブシディアンですね」
順調に、トレイに石を増やしていくフォルネウス。私も水晶やアメジストを見つけたよ。あ、これはただの小石だ。捨てちゃえ。
この辺でいいかな。余分な土を落として、袋に入れる。フォルネウスも満足したみたいで、石を袋に移していた。
工房に持って行って、キレイに研磨してもらおうっと。水晶は浄化用チップなので、研磨だけ頼んだ。他のはどうしようかな。アクセサリーの見本が並んでいる。
受付にいる女の子が、自分で仕上がりの絵を書いておいて、こうして欲しいと注文していた。そういうのもアリか。
私はイヤリングと、さざれ石のブレスレットに決定! 希望を告げて、料金を払う。
「出来上がり次第、宿にお届けしますよ」
「お願いしますっ!」
仕上がりが楽しみ。マルちゃんはこの工房で、ドワーフとお話をしていた。
「では坑道の見学に参りましょう」
ユーニスに案内されて、一般客は立ち入り禁止の区域へ。ここは兵がしっかりと警備している。ユーニスに敬礼をして、厳重に閉じられていた扉を開いてくれた。
「わあ、トロッコ。本格的だなあ」
トロッコが土をたくさん積んで、ゴロゴロと鳴らしながら坑道から出てきた。
土を捨てて、また戻っていく。私達もついに入るよ!
光はすぐに差さなくなり、魔石の灯りが等間隔に照らしている。わりと空間は広くて、空気が少しひんやりとした。奥からガンガンと響く、土を削る音。今も仕事をしているのね。
「こちらでは比較的大きな原石が産出されます。水晶が多いですね。他にも観光鉱山と同じ種類の石が見られます」
この奥が採掘現場だね。道が細くなった先で、ツルハシと魔法でガンガン掘っている。こういう時に使える魔法もあるのか、へええ。
「やっぱりダメだ、硬すぎる」
「キツい岩盤に当たったな」
ツルハシでも魔法でも、ちょっと傷がつくだけで壊せない大きな岩石が現れたようだ。いったんツルハシを置いたドワーフが、私達の存在に気付いた。
「あ、お嬢様。ダメですな、ここは無理だ。もっと強い魔法使いを呼ぶか、他の場所に変えるかだな」
「強い魔法では、天井まで崩落する危険があります。やむを得ません、ここは諦めましょう」
うーん、そういう心配もあるのか。なるほど。
皆が頷いていていた、その時。
「こりゃ大変だあ。マルショシアス君、手伝ってあげたらどうだろう?」
フォルネウスがマルちゃんに水を向けた。親切心から……なわけ、ないよね。今度はどんな企みを?
「……素人が手を出しても危険なだけだろ」
「大丈夫、岩を壊すだけさ。君なら簡単だ」
「お前がやれ」
「私は頭脳派だから、こういう肉体労働は向かないんだよね~」
警戒するマルちゃん。ユーニスも鉱山の人夫やドワーフも、困っている。
「あの、ドワーフも無理と言っています、さすがにこれは……」
「まさかぁ。このくらい彼にとっては、なんてことない仕事だよ。ほら、ここにガツンと一撃入れてヒビを作れば、後はどうにでもできる」
大岩をザッと眺めて、フォルネウスがコンコンと表面の一ヶ所を叩く。
「……仕方ないな。下がっていろ」
本当にマルちゃんって苦労性。結局やっちゃうんだ。
他の皆を離れさせて、マルちゃんが岩の前で硬さを確かめている。
「マルショシアス様、道具はお使いにならなくて宜しいのでしょうか? 無理はなさらないでくださいね」
「試しに叩いてみるだけだ」
「さすがマルショシアス様……」
マルちゃん、好かれたくないんじゃないの? 好感度が上昇中だよ!
「旦那、怪我せんようにな」
ここにいるドワーフには、マルちゃんが悪魔だってまだ分かっていないみたい。息を呑んで、遠巻きに見守る。
「よっ」
しんと静まり返った中。マルちゃんが構えて、軽い掛け声とともに、岩に拳をぶつけた。
ズンと鈍く岩が震え、突いた地点を中心にヒビが入った。そしてパラパラと土が降る。叩いた場所は陥没して、ここだと一目で分かる。
「えええ!? 素手で!?」
「こ、こりゃ……旦那は悪魔の貴族だったか」
魔力が流れたから、さすがに気付いたね。近づこうと一歩進んだ。すると。
バン、ガラガラガラ!!
どうしても壊せなかった岩が割れ、その岩の上に重なっていた小さめの岩が、いくつもマルちゃんに降り注いだ。土も零れて、土煙が坑道の空間に溢れる。
「ゴホッ……、マルショシアス様! お逃げください!」
「お嬢様! 近づいてはいけません!」
うろたえるユーニスを、鉱山の人夫が必死で宥める。
「アーッハハハ……! いやあ楽しかった。それでは、マルショシアス君! お疲れ様~!」
フォルネウスが大笑いしながら逃げた!!!
マルちゃんが埋まっちゃう……、アイツ本当に酷い!!!
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